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千羽鶴  作者: 茅野うつぎ
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おまけ 吉海兄弟

之成ゆきなり、おかえり」

「ただいまー」


 母さんが料理を作る手を止めて俺を見た。

 兄貴はすでに帰っていたらしい。あの人、バスケ部の幽霊部員だから。


隆之たかゆきがあんたと話したいって言ってたよ」

「……兄貴ってブラコンだよな。鬱陶しい」

「こら。そんなこと言わないのー」


 けらけら笑いながら、母さんが言う。

 いやほんと、鬱陶しいんだよ。


 制鞄を床に放り投げて、洗面所で手と口を濯ぐ。

 手に石鹸もつけるけれど、べたべたするからあまり好きじゃない。

 もういちど手を流して、タオルで拭く。


「おかえり」

「うげ」


 リビングへ帰る途中に、階段から降りてきた兄貴と鉢合わせた。

 兄貴は心底嬉しそうに俺を見る。ちょっとキモい。


「『うげ』って、ひどいなぁ。俺は之成と話し」

「母さん、夕飯なに?」

「生姜焼きよ」

「おぉ」


 リビングへ着いたところで話を遮ってやった。


「隆之、白米よそって」

「おう」

「之成はお箸出して」

「はぁい」


 うちの父親は帰ってくるのが遅い。日付をまたいでから帰ってくることもしばしば。だから父さんとはあまり話さない。

 ほとんどひとり手で俺たちを育ててくれた母さんには感謝しかない。面と向かって言うことはしないけれど。


 ぴこん、と通知が鳴ったのでスマホを見る。


『千羽鶴』


 千鶴から。

 中2で同クラになって、中3で連絡先を交換した。卒業式のあと、高1になってからクラスは離れたけど、たまにこうして連絡を取り合っている。


▶『吉海、明日、先輩と吉海兄弟と結莉ちゃんとで水族館行くから』


 携帯をぶん投げそうになった。


▷『聞いてないけど』

▶『いまいった。吉海兄は知ってるよ。たぶん』


「……兄貴」

「おう。どうした? 之成から話しかけてくれるなん」

「波々伯部先輩か夕月先輩から、明日についてなんか聞いてない?」

「……あぁ、水族館」

「言えや」

「すまん」


 忘れてた、とてへぺろみたいなポーズで言われたので、間違えて殺しそうになった。撲殺。


▶『わかった。ありがとう』

▷『あいかわらず真田幸村みたいだね』

▶『ごめん、わからん』


 俺と波々伯部先輩が苦労する未来しか見えない。

 はぁ、と息を吐く。


「之成、ごはん運んでくれ」

「黙れ」

「あらあら」


 でもちょっと楽しみなのが、いちばん悔しかった。

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