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未来予報ラジオ

作者: 清水進ノ介

未来予報ラジオ


 ある所に、強欲な大富豪がいた。一度欲しいと思った物は、絶対に手に入れないと気が済まない。どれほど高価なものであっても、カネに物を言わせ、迷うことなく全て買う。大富豪の屋敷には、高価な宝がずらりと並べられ、来客にそのコレクションを自慢しているときが、彼にとって最も幸福な時間だった。


 ある日、大富豪がいつものように商人を呼びつけ、美術品だの骨董品だのを買っていると、その中にラジオを見つけた。何の変哲もない、どこにでもあるような、黒いラジオだ。大富豪が「なぜこんなものを持ってきた?」と聞くと、商人は慌てて「間違えました。それは別のお客様へ売る予定のものです」と言った。


「そのラジオはいわくつきの品でして。一見ただのラジオですが、10億円の値がついております」

「ほう、詳しく聞かせろ」

「そのぉ、このラジオはですね、『未来予報ラジオ』と呼ばれておりまして。毎日夜の9時になると、未来になにが起きるかを知らせるのです。しかし恐ろしいもので、このラジオに予報された未来は、絶対に変えられないらしくてですね。明日死ぬと言われてしまえば、死ぬ以外にどうしようもないそうで……」


 大富豪は笑って「面白いじゃないか。それも買おう」とラジオを買ってしまった。商人は一度断ったが、大富豪は「私は倍の20億円で買おう」と言い、商人はそれならばとラジオを売ってしまったのだ。大富豪はその日の夜、ラジオを枕元に置き、のんびりと本を読んでいた。すると突然、ラジオからザザザ、とノイズが聞こえてきた。大富豪は驚き、時計を見ると、時刻はぴったり夜の9時。そしてラジオから、女性の声で「未来予報です」とアナウンスが流れた。


「明日の天気は魚です。頭上にご注意ください」


 大富豪は馬鹿々々しくなり、気にせずに読書を続け、そのまま眠った。突然ラジオが流れたことは驚いたが、魚が降るわけがない。このラジオはただのジョークグッズだろう。へんてこな予報を流す、子供向けのおもちゃだ。今度商人が来たら全額払い戻させよう。そんなことを考えていた大富豪だが、彼は翌朝、我が目を疑った。本当に空から、おびただしい数の魚が降ってきたのだ。後に判明したことだが、近くの海で発生した竜巻が、魚を空高く巻き上げ、それが落下してきたのだ。

 大富豪はその日の夜、ラジオの前から離れなかった。この未来予報は本物だ。未来を知ることが出来るなら、それを活かす方法はいくらでもある。大富豪がにやにやとしながら予報を待っていると、ラジオからノイズが鳴り、未来予報が始まった。


「未来予報です。あなたは1か月後、人を殺すでしょう。ご愁傷様」


 大富豪は驚き悲鳴を上げた。そんなことが起きるわけがない。自分が誰かを殺すなんて、そんな理由はどこにもない。ただの聞き間違いだと自分に言い聞かせたが、その翌日にも、翌々日にも、ラジオは予報で同じことを言った。


「未来予報です。あなたは29日後、人を殺すでしょう。ご愁傷様」

「未来予報です。あなたは28日後、人を殺すでしょう。ご愁傷様」

「未来予報です。あなたは27日後、人を殺すでしょう。ご愁傷様」


 カウントダウンは毎日進んでいき、大富豪は日に日にやつれ、正気を失っていった。ラジオを壊しても無駄だった。叩き壊そうが、深い穴を掘って埋めようが、夜の9時になると、ラジオは大富豪の近くに現れるのだ。いつの間にか、ベッドの下に置かれていたり、クローゼットの中にあったり、なにもなかったはずの場所に、ラジオは現れ、未来予報を流すのだ。大富豪は発狂し、ラジオをバットで粉々に砕き、焼却炉で灰にして、金庫の中に入れ、さらにヘリコプターでそれを運び、大海原のど真ん中に捨てた。


「未来予報です。あなたは明日、人を殺すでしょう。ご愁傷様」


 翌日、大富豪の屋敷には、警察が集まっていた。部屋の中には、首を吊り死んでいる、大富豪の遺体がぶら下がっている。あらゆる事件の可能性を考慮し捜査を進めたが、結論は「自殺」であった。捜査を担当した警部とその部下は、腑に落ちない様子で話をしていた。


「彼ほどのカネ持ちが、なぜ自殺なんて。欲しいものは、なんでも手に入ったでしょうに」

「自分で自分を、殺してしまうなんてなぁ……」


おわり

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