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次の日出社してきたヴィヴィアンは室長に連れられて会議室に入って行った。
次にトビーが呼び出され、しばらくするとふらふらと戻ってきた。
それから次々と男性職員たちが呼び出され、バツの悪そうな顔で戻ってくる。
「聞き取り調査かな?」
「鬼部長がやってんだろうね」
「あ、ユーナが呼ばれた」
ユーナを皮切りにして女性職員も次々と呼ばれていく。
最後にアリシアが呼ばれた。
「失礼します」
会議室に入って行くと、扉から一番遠い席にグスグス鼻をならしながら泣いているヴィヴィアンと、おそらく派遣会社の担当者だろう男性、室長に部長、メリーアンに何故か魔法師団の魔術師が一人いた。
「アリシア、君は彼女の教育係だったんだよね」
「はい、ユーナから代わりました」
「仕事内容は共有されているから説明はしなくていいよ、で、彼女の仕事ぶりはどう評価する?」
ちらっとヴィヴィアンを横目で見ると、期待しているかのような目でこちらを見てきた。
(なんで期待されてるんだろう?)
「まあ、初歩の事務作業はおおむね出来ますけど、あまり優秀ではないですね」
「ほう、なるほど?どの点が気になった?」
「まずは仕事をしたくないってオーラが出てますし、机の上も自分の私物でごちゃごちゃです。
仕事を依頼すればできないとか難しいとか言い訳ばかりでしたね。
魔力の使い方は下手ですね、だから時間がかかってました」
「!!!」
何か言おうとしていたのだろうが、どうやら沈黙の魔術をかけられているらしくヴィヴィアンは声が出せないようだ。
「他の職員との間に問題はなかった?」
「ん~、まあ、男性にはくねくねしてましたが、女性には偉そうでしたね。
あ、彼女は自分の事可愛いランクAだって言ってましたね、すごいメンタルだとは思いましたね」
ぶふっと部長と室長、魔術師が思わずふいた。
ヴィヴィアンは顔を真っ赤にしてブルブル震えている。
担当者はものすごく嫌そうにそっとヴィヴィアンから距離をとった。
アリシアのとどめが利いたのか、ヴィヴィアンはその日限りで派遣会社に戻る事になった。
担当者が室長に
「彼女、男性関係のトラブルが多いんです。
うちも流石にもうかばいきれません。
上司のお気に入りだったので何とかかばってましたが、今回の事ではっきりと切れそうです」
そう言って頭を下げていったそうだ。
次の派遣は優秀な人材を連れてきます、とも言っていたそうだ。
室長からその話を聞いたアリシアは
「初めから優秀な奴を連れてきて欲しいわ」
そうマーガレットに話したという。
トビー副室長だが、浮気はしていなかったものの、下心ありありで家の貯金にも手を付けていた事がばれ、他の女性職員たちへの態度も指摘され降格&部署移動となった。
「田舎の書類仕事専門だって。
もちろん若い娘なんていないらしいわ。
給料の半分はアノ女につかった分の返済が終わるまできっちり取り立てるわ」
メリーアンはそう笑って話してくれた。
トビーの髪の毛が移動日までの間にほぼ無くなっていたのはちょっとだけ気の毒だった。
アリシア曰く 「髪の毛に罪はない」 だそうだ。
新しく派遣されてきた新人は30代くらいの女性だったが、エリーゼの先輩らしく、彼女曰く派遣会社一優秀で、引く手あまたな人材だそうだ。
ユーナが教育係になったのだが、どちらが教育されているのかわからないくらい優秀でユーナも勉強になると喜んでいた。
そんな平穏な日々が続いたある日、アリシアたちはちょっとおしゃれな居酒屋で女子会をしていた。
「そういえばさ、私、ヴィヴィやん見たんだ~」
「え?どこで?」
「王都の『マダム・ラ・ファムリータ』の前」
「え?あの超高級な?」
「そうそう、そこでちょっぴり太ってうっすら禿げてギラギラした結構な年寄りにベタベタしてた」
「「「「「うわ~」」」」」
「指全部にゴテゴテの指輪してるんだけど、あれ全部偽物だったわ」
「なんでわかっ・・・あんた、鑑定魔法使ったの?」
マーガレットに言われアリシアはてへへっと笑った。
「ちょっとした好奇心だったんだよ~出来心」
「ったく」
「でさ、ヴィヴィやんが 「ここのお洋服が欲しいわ~」 とか言って胸をぐいぐい押し付けてたんだけど、なんだかんだ言いくるめられて魔動車に乗せられてた」
「どこへ?」
「さあ?そこまで暇じゃないし」
「ヴィヴィアンさんに幸あれ」
ユーナがそう言って目を閉じた。
「ところでさ、前から聞こうと思ってたんだけど、あんたのヴィヴィアンの呼び方、ヴィヴィやんって聞こえるんだけど気のせい?」
「え?ヴィヴィやんじゃないの?」
「ヴィヴィアンよ、そこから間違ってんの?」
「ありゃ~、ヴィヴィやんだと思ってたよ」
「アリシア先輩・・・」
「まあ、アリシアだししょうがないか」
皆は楽し気に笑ってまた別の話題へと移って行った。
これで完結です。