3
午後からヴィヴィアンはアリシアの書類整理をさせられていた。
午前中にヴィヴィアンが穴をあけた書類を色ごとに綴じていくのだ。
「ヴィヴィやんが一生けん命あけてくれたからさ、今度は綴じて欲しいの」
「そんな!そんな雑用ばかり押し付けないでください。
ヴィヴィそんな難しい事・・・」
いつものようにちょっと大きな声で目をウルウルさせたのだが、
「え~~!!ヴィヴィやん!まさか色ごとに分けるのも難しいの??
普段洋服整理とかどうしてるの?
今着てるピンクしか持ってないとか、ま、まさか洗濯したものを片付けたことないとか?
まじで~?もう少しやった方がいいよ~家事」
アリシアが大声で適当な事を言う。
おかげで、
「色分けくらいできますし!!」
「あら、じゃあよろしく~」
ということで、午後からは穴をあけた書類をひたすら綴じる作業だ。
(何なのよ!あの女!!!)
その日の仕事終わり、いつもより仕事をしてしまったヴィヴィアンはトビー副室長を見かけると側に行き、
「トビー副室長、あの、あたし今日すごく大変で・・・、
それで、相談に乗ってもらいたくて・・・」
そう上目遣いに誘いをかけると、トビーは鼻の下をのばしながらヴィヴィアンの誘いに乗ってきた。
(トビー副室長は他の男より給料もいいし、ちょっとイイ所に連れて行ってもらっちゃおう)
ヴィヴィアンは化粧を直し、着替えを済ませると待っていたトビーに腕を絡め、ちょっとお高めの値段設定の店へと連れていってもらった。
「ユーナ先輩たちがアリシア先輩に色々言ったんです。
だからアリシア先輩はあたしに雑用ばかり押し付けて・・・。
あたし今日一日休む暇もなくて・・・。
でも、あたしが悪いんです、ヴィヴィが仕事が遅いから・・・。
でもあたしトビーさんの為に頑張ります」
そう言ってトビーの手を握りながら目を潤ませて見つめると、
「ヴィヴィアンちゃん、なんてけなげなんだ。
アリシアのやつめ!ヴィヴィアンちゃんが若くて可愛いからわざとそんな事をさせたんだな。
自分が離婚してるからって若い子に嫉妬するなんて!
大丈夫だよ、僕がちゃんとアリシアにガツンと言ってやるからね」
そう言ってヴィヴィアンの手を握り返してきた。
(ふふ~ん、アリシアざまあ~、明日が楽しみだわ)
「アリシア、ちょっといいか?」
トビー副室長はアリシアが出勤してすぐに彼女を呼びつけた。
「はい、なんでしょう?」
「お前、昨日ヴィヴィアンちゃんに雑用ばかり押し付けたそうだな」
「雑用って、大事な仕事をお願いしただけですが?」
「彼女は派遣で事務を補佐するために来てくれているんだぞ。
勝手に自分の雑用を押し付けるな」
「へー、事務の補佐ですか、私がお願いしたのは事務仕事なんですがね、それは失礼しましたわ~」
「教育係なら、ちゃんと教育をしてやれ」
「事務を教育していいってことですか?」
「当然だ」
「わかりました」
「ヴィヴィアンちゃんが可愛いからって嫉妬するなよ?」
パリッと音がして、トビーの薄くなった髪が逆立つ。
「おい!髪はやめろ」
「なんのことですか?」
「俺の髪を攻撃「静電気ですね~、きっと」・・・」
「これ以上静電気の影響が出ないといいですね」
そう言われ、トビーは髪を守るためにアリシアから離れた。
「まったく、ヴィヴィやんより自分の髪の方が大事なんだから、小さいわねぇ」
「アリシア、声に出てるって」
マーガレットが苦笑しながら声をかけてきた。
「あら?また声に出てた?」
「思いっきり」
アリシアはあはは~と笑いながら自分の席に戻った。
「ヴィヴィやん~、今日からは事務の仕事をやってもらうからね~」
(なんでいつもヴィヴィやんって聞こえるのかしら?
トビー、ちゃんとアリシアを叱ってくれたのね。
事務の仕事なんて、他の男たちにちょっと甘えれば皆やってくれるんだから楽勝よ)
「まずはこの書類なんだけど」
「ヴィヴィそんな難しい事できな「まだ何も言ってないんだけど。ヴィヴィやんってもしかしてだけど人の話を聞くの苦手なの?それとも最後まで聞くと頭の中ごちゃごちゃになっちゃうの?
それくらい容量が少ないの?それで日常会話とかできてるの?大丈夫?」
「あたしの頭が悪いって言ってるんですか?」
「?違うわよ?話し始めただけでできないって言いだすから、人との会話を成り立たせるだけの語彙がないのか心配になっちゃって。
頭が悪いなんて言ってないわよ?頭の記憶容量が少ないのかな?って」
「それって頭悪いって言ってるのと同じじゃないですか!!」
「あれ?そう?」
(暗に頭が悪いと言ってますよ~アリシア先輩~)
心配して話を聞いていたユーナが心の中で突っ込みを入れる。
「人との話はちゃんとできます」
「なあんだ、心配して損しちゃった」
(おい~~~言い方!!)
「それでさ、この書類なんだけど、魔箋してあるところ訂正して欲しいの」
「こんな難しい「全っ然難しくないよね?魔箋にちょーっと魔力を流せば訂正できるしさ。
学校に入学した事ある子なら誰でもできるし、ね、できるよね?
あれ?まさか学校に入学したことない?」
「ちゃんと入学して卒業もしてます。
そうじゃなきゃ会社で働けてません!!」
「あ~良かった、じゃ、お願いね~」
アリシアがそう言って自分の机に戻るのを確認して、ヴィヴィアンは誰かに仕事を押し付けられないかと、室内を見回した。
(あ、ジェームスがパーシーとしゃべってるわ)
ヴィヴィアンはそっと二人に近寄っていく。
「ジェームスさん、パーシーさん」
「「ヴィヴィアンちゃん」」
振り向いた二人にヴィヴィアンは上目遣いで目を潤ませながら話を始めた。
「あの、ヴィヴィ、アリシアさんにいっぱい意地悪言われて、仕事も沢山押し付けられちゃったんです。
あの人、ヴィヴィの事が嫌いみたいで・・・」
そう言うと二人は思った通り怒りだしてくれた。
「まったくユーナもだったけど、アリシアもかよ」
「本当に、ヴィヴィアンちゃんが可愛いから嫉妬なんかしてみっともない」
「俺たちがガツンと言ってやるよ」
「へー、誰が誰にガツンと言うのかしら?」
二人の後ろにアリシアがにっこりと笑って立っていた。
「「あああアリシア」」
「で?ガツンと何を言うの?」
アリシアの勢いに負けてしまいそうな二人にヴィヴィアンは二人の後ろに隠れ、そっと服の裾を引っ張った。
それに気がついた二人はハッとしたように
「アリシア、ヴィヴィアンちゃんに仕事押し付けたんだって?
自分の仕事は自分でやれよ」
「そうだ、ヴィヴィアンちゃん可哀そうに泣いてたんだぞ」
二人がそう言うと、アリシアは首を傾げながら答えた。
「え?魔箋の訂正ってそんなに難しくないし、私の仕事じゃないわよ?
あんたたちの書類が戻されたから修正箇所確認してあげたのよ?
どっちかっていうとあんたたちの仕事じゃん」
「「は??」」
「あんまりにもミスが多いからって戻されてきた書類に魔箋してあげたのに、その言い草?
だったら魔箋全部焼き切ってやろうか?自分たちで全部直しなよ。
期限に間に合うといいわねぇ~~~」
そう言われ、二人は顔色を無くした。
今から自分で訂正しなおしていては期限に間に合わない。
「さあ魔箋焼き焼き「「待ってくれ!!」」」
手のひらに魔箋を焼くための黄色い炎を出していたアリシアに二人は必死に謝りたおした。
「「ヴィヴィアンちゃん、期限に間に合うように訂正頼むね」」
二人はヴィヴィアンにそう言ってそそくさと自分の机に戻って行った。
(またしてもやられたわ。本当に何なのよ、あの女!!!)
ヴィヴィアンは結局大量の書類を訂正する羽目になった。
他の男性たちの書類も入っていたため、アリシアに意見を言う人は誰もいなかったのだ。