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《偶然の出来事》のアリシアの職場でのお話です。


 今日も今日とて忙しい。

今週は魔物が冬眠から目覚め始め、お腹がすいたからとあちこちに被害を出している。

魔力省にも協力要請が来たことで、雷撃の使い手である私も駆り出されている。

今日は短期の討伐遠征の報告に来ている。


「あら、アリシア、久しぶりね」

「ああ、メグ、あんたは北だったっけ?」

「そうなの、あっちはまだ寒かったわよ」

「そうなのね、お疲れ様」

「アリシアだってあちこちに呼ばれてるんでしょ?そっちこそお疲れね」

「まあ、今は独り身だしぃ~、出張が入っても余裕よ」

「フフ、そうだったね。ねえ、落ち着いたらご飯に行かない?」

「いいね~、じゃあスケジュールわかったらまた連絡するよ」

「了解」

そう言って同僚のマーガレットと別れた。


魔力省の自分の席に戻ると、書類が溜まっていた。

「うわ~これ片付けるの明日からでもいいかな・・」

そうつぶやいていると、奥の方が騒がしい。

「なになに?もめ事?」

そう言いながら騒ぎの元へ近寄っていくと、アリシアの後輩ユーナが他の同僚たちから囲まれているようだった。

「ちょっとあんたたち、ユーナを囲んで何してんの?」

後ろからそう声をかけると、同僚たちは驚いてこちらを振り返った。

「あああアリシア!なんでここに?」

「出張が終わったから報告に来たのよ、悪い?」

「いや、悪くないけど」

「で、何の騒ぎなのよ」


同僚たちからの話によると、魔力省から数名が害獣駆除に駆り出されたことから臨時職員を数名雇うことにしたのだそうだ。

それはアリシアも知っている。

人材派遣会社から数名来ることは部内でも通達があったからだ。

そしてこの部署に来たのはエリーゼとヴィヴィアンという2名の女性。

仕事を覚えてもらうためにそれぞれ指導者がつけられた。

エリーゼにはトーマス、ヴィヴィアンにはユーナと決められた。

だが、ユーナは若くて可愛いヴィヴィアンに嫉妬してろくに仕事を教えず嫌がらせばかりしているのだという。

今日もヴィヴィアンが泣いているのを見て、部内の者たちがユーナを注意していたのだという。

アリシアの後輩にあたるユーナはぎゅっとこぶしを握り締めて下を向いている。

ヴィヴィアンとかいう女の子なのだろう、同僚たちの後ろで両手で顔を覆っている。

(うっは、ウソ泣き~)

アリシアはウソ泣き女などどうでもよかったので、ユーナに近寄ると、

「大勢で囲んでんじゃないわよ、ユーナは私から話を聞くわ」

そう言ってユーナの手を取ると出口へと向かって歩いて行った。

「ちょ、まてよ」

タクキムがそう言って止めようと手をのばしてアリシアの肩をつかんだところで

「ぎゃ~」

と慌てて手を離した。

「アリシア!雷撃なんてずるいぞ!」

「え~、そんな事してないし~ただの静電気でしょ~?」

アリシアはそう言って部屋を後にした。


食堂までそのまま連れていき、ユーナを座らせてからカフェラテを2個注文した。

カフェラテをもってユーナの前に一つ置くと、アリシアも座った。

「それで?ユーナ、なにがあったの?」

そう聞くとユーナはばっと顔をあげて「アリジアぜんばい~~~~」と言って泣き出した。

ひと泣きして落ち着いたところで、ユーナは状況を話し始めた。


ユーナはヴィヴィアンの為にマニュアルを作成していた。

念のため魔法窓で見せてもらうとわかりやすく丁寧なマニュアルだと思った。

だがそれを受け取ったヴィヴィアンは

「なんかよくわかんないですぅ~」

と言ってマニュアルを見ることはなかったそうだ。

そして、一つ一つをユーナが説明していてもメモを取ることもせず、自分の爪を見ていたという。

その後も、簡単な仕事からやるように教えても、他の男性職員の所に行って、

「ヴィヴィこんな難しい事できないぃ~、ユーナさんが意地悪するぅ」

そう言って泣くのだという。

そうすると決まって男性職員は、

「ユーナちゃん、もっと簡単な事からやらせてあげなよ」

などと頓珍漢な事を言ってくるそうだ。

他にはヴィヴィアンの仕事を代わりにやってあげた挙句、

「新人に意地悪すんなよ。こんな仕事くらい自分でやれよ」

そう言って書類を投げつけられたこともあるという。


「脳味噌が下半身にしかついてないんか」

「アリシア先輩、本音出てます」

「はっ!あまりの事につい・・・。それで、さっきはそれがらみで囲まれていたの?」

「そうなんです。

あの、騎士団と魔法師団がそれぞれ書類をもって来たんです。

そしたらヴィヴィアンはいきなりあの方たちに声をかけたいって騒ぎ出したんです」


「ヴィヴィアン、この書類の数字をここに入力して欲しいの」

ユーナがそう言って魔法窓に開いた画面を指差して、1枚の紙を渡した。

入力する数字は色を変えてあるため、見れば簡単な作業だという事はわかるはずだ。

だが、ヴィヴィアンは嫌そうな顔をして返事をしない。

(これくらいしかやってもらえる仕事ないんだけど・・・)

ユーナがそう思っていると、騎士が一人入ってきた。

ヴィヴィアンがばっと顔をあげて騎士に見ほれている。

「ねえ、ユーナ、あれって騎士団の人でしょ?」

「そうだけど、私達には関係ないし・・・」

「え~何それ、詰まんない。挨拶くらいはしてもいいんでしょ?」

「いや、最初にも言ったけど、私達下級文官は直接話しかけちゃいけないの。

上級文官になれば直接仕事を請け負ったりするから話すことになるけど」

そう言っているうちに魔法師団のローブをつけた魔術師が入ってきた。

「きゃ~、あの人魔法使いでしょ?あの人も素敵~。

あの人にも挨拶しなきゃ!」

「いや、だから、上級文官じゃないとダメなんだってば」

立ち上がっていこうとするヴィヴィアンを必死に止めたのだが、

「ユーナ、意地悪しないでよ、あんたなんてあの人たちに見向きもされないだろうけど、

私は違うわ、こんなに可愛いんだもの、嫉妬してないでこの手を放してよ」

なんてことを言ってくる。


騎士団や魔法師団は貴族が多い。

それに対して文官は平民出身が多い。

平民を登用し始めた頃は対等に話すこともできたのだが、出世を望んだり、貴族の妻や愛人になろうとする愚か者があとをたたなくて、文官を上級、中級、下級と分け、上級以外の文官は直接声をかけてはいけないことになっている。

法で決められており、罰則はかなり厳しい。


だからユーナはヴィヴィアンの為に必死で止めた。

派遣のヴィヴィアンの行動が部内全体に及ぼす影響を考えて必死で止めたのだ。

防音の結界を張って騒ぎが聞こえないように気を遣ってまで止めたのだ。

だが、騎士と魔術師が部屋を出ていったのを見たヴィヴィアンはユーナを思いきり突き飛ばした。

「いたっ」

そう言ってユーナが床に倒れた拍子に結界が消えた。

急に大きな物音がしたので周囲の皆がこちらを見た。

周囲の視線を感じたヴィヴィアンは突然顔を覆ってしゃがみこんだ。

「ユーナさんひどいですぅ~」

「ヴィヴィアンちゃんどうしたの?」「大丈夫?」「またユーナか?何をしたんだよ」

そう言って次々と集まってくる。

「ユーナさん、私の事を椅子に押し付けて仕事しろって怒鳴るんですぅ。

ヴィヴィ怖かった~」

「え?そんな事してな「ユーナ、お前ひどい奴だな」「そうだよ謝れよ」「女の敵は女って本当だな」」

ユーナが否定する言葉にかぶせるように皆がユーナを責めた。

その時にちょうどアリシアが来たという事だ。




「うへえ、何そのヴィヴィやんって、あざとすぎん?」

「ヴィヴィアンです、先輩。そうなんです。それに皆私を意地悪だと思ってしまっていて・・」

「本当にむかつくわね、後つけて全員に雷撃落としてやろうかしら」

「そこまでは・・・いいです」

「え、いいんだ?それにしても男どものあほっぷりには困ったもんね」 

「それと」

「え、まだあんの?」

「はい、実は・・・」


そう言ってユーナが声を潜めて話し出した。



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