略奪愛に仕返しを
よろしくお願いします。
「お姉様ぁ〜ごめんなさい!」
そう言って泣きながら謝る妹。その肩を抱きしめる私の婚約者。
「君との婚約を破棄してリディと婚約したいと思ってるんだ。」
会場がざわつくーーーー
(わざわざ公爵夫人主催の夜会で言い出すだなんてっ!このお馬鹿さんたちは頭も股もゆるいんだから!)
「トラディウス様・・・」
出来るだけ悲しそうな顔をする。
「アマリア・・・すまない、リディを愛してしまったんだ。君は強いから私がいなくても大丈夫だろう?」
「そうですわ〜お姉様はトラディウス様の事愛してないものね。私に譲ってくださるわよね?」
(確かに愛してないわよ?そんな男。でも何の仕返しもせずに引き下がるのはシャクに障るわ!)
「アマリア・・・?」
アマリアが急に俯いてしまったのでトラディウスが声をかけてきた。
「わかりました。」
涙を一筋流す。
『あのアマリア様が涙を・・・』
『冷静なアマリア様が・・・』
そんな声が聞こえる。
「これまでトラディウス様の婚約者でいれて幸せでございました。妹は人の物を何でも欲しがる娘ですが・・・わがままな所も素直で可愛いと思っていただければ・・・」
「ちょっと!お姉様!!」
「ごめんなさい、リディア。トラディウス様の婚約者になったら気に入らないからと物を壊したりしたらダメよ。」
会場からヒソヒソと話し声が聞こえてくる。
「ちょ、ちょっと!そんな事しないわよっ!」
「そうね、(お父様とお母様に散々怒られたから)リディアはそんな事もうしないわよね。」
トラディウスの方を見ると少しリディアから離れている。
先ほどまでは隙間もないほどピッタリ寄り添っていたのに。
「トラディウス様、貴方に相応しい私であろうとしてきました。貴方の気持ちがリディアに向いてる事も気付いておりました・・・それでも・・・」
涙をポロポロと流す。
「お慕いしておりました・・・」
会場ではもらい泣きをしてしまった令嬢がハンカチを目にあてている。
「アマリア・・・」
トラディウスがアマリアへと手を伸ばす。
その手をリディアが掴み叫ぶ。
「トラディウス様!」
(プッ。このくらいで揺らぐなんて笑えるわ。)
「トラディウス様、リディア。ご婚約おめでとうございます。」
アマリアは心の中で大笑いしながらもリディアには真似出来ない綺麗な淑女の礼をする。
顔を上げて潤んだ瞳で綺麗に笑って見せる。
会場の雰囲気は決まった。
貞淑で健気な姉。そんな姉から婚約者を奪ったわがままな妹。その愛に気づかずに若い妹と浮気した愚かな男。
トラディウスもアマリアの綺麗な笑顔に見惚れている。
「私がいては夜会が盛り下がりますね。これで失礼しますわ。」
涙を拭きながら笑顔を作る。
公爵夫人に一言挨拶をして帰ろうと会場を見渡す。
二階の見渡せる場で事の成り行きを見守っていたようでアマリアと目が合うとシャンパンの入ったグラスを持ち上げた。
アマリアは最上級の礼をして会場を後にしようと歩き出す。
「アマリア、せめてエスコートさせてくれ。」
トラディウスが手を差し出してきた。
「トラディウス様!お姉様なんかほっときましょうよ〜!」
リディアの金切り声が響く。
アマリアはトラディウスに笑顔で肩をすくめて見せて
「リディアの機嫌が悪くなるのでご遠慮しておきますわ。お心遣いありがとうございます。」
「しかし、アマリア・・・」
「それでは私がエスコートしても?」
断られても食い下がろうとしていたトラディウスを遮り背の高いイケメンが手を差し出す。
「キャ〜!レオン様!いらしてたんですか〜?!」
リディアがトラディウスを押し退けレオンハルトにしなだれかかる。
「私、リディア・ウェールズです〜こんな所で殿下にお会いできるなんて・・・運命を感じてしまいますわ。」
頬を染めて上目遣いで見つめる。
(こんな所だなんて、、、)
会場全体が唖然としてるのがわかった。
「離れてもらえるかな?婚約者の前で他の男に擦り寄るもんじゃないよ。シェイザー伯爵子息、君の婚約者は礼節を学んだ方がいいみたいだ。」
トラディウスを鋭く見つめる。
「も、も、申し訳ございません!!!リディア手を離して!」
あ〜ん、レオン様と言いながらトラディウスに引っ張られる。
「トラディウス様ったらヤキモチですか〜?」
「リディア!もう黙って!」
トラディウスが冷や汗をかきながら怒鳴る。
「こんな所で悪かったわね。」
後ろから青筋を立て扇子を握りつぶさんばかりにギリギリしながら公爵夫人が声をかける。
「公爵夫人!あれはリディアの言い間違いと言うか・・・」
「私、そんなこと言ってませんわ〜。」
「同じリディアという名前だからと少し目をかけてあげたけど、、、お終いね。」
「そんなぁ〜言ってないのにヒドイです〜」
(リディアは本当はあそこまで馬鹿な娘じゃないけどこうしてれば今まで許されてきたし、色んな人に愛されてきたから直せないんでしょうね。)
リディアはちょっと馬鹿で大胆で天然な娘でいれば愛されると思ってしまっている。
「公爵夫人、妹が申し訳ございません。」
謝罪の礼をする。
「シェイザー伯爵子息はなぜ妹を選んだのか理解に苦しみますわ。」
「公爵夫人、私も同じ気持ちだよ。」
意見の合った殿下と公爵夫人が微笑み合う。
「アマリア嬢、顔を上げて。貴方のせいではないわ。」
「ありがとうございます。」
リディアはいつもと同じように『リディアはしょうがないなー』と言われない事を不思議に思ってキョロキョロする。
「トラディウス様〜ヒドイこと言われました〜慰めてください〜」
トラディウスはリディアを見て力無く笑った。
(これが天真爛漫な感じに見えてたのに・・・現実が見えてしまった今ではこんなに・・・)
トラディウスは頭を振る。
(現実が見えないままの幸せな愛に浸っていたかった・・・)
「アマリア嬢、エスコートする栄誉を私にお与えくださいますか?」
少しおどけて大袈裟な口調で手を差し出す。
その仕草につい笑ってしまいそうな口元を引き締めて手をとる。
「よろしくお願いいたします。」
レオンハルトの手をとり会場を後にする。
「お姉様だけレオン様にエスコートされてズルいですわ〜!」
後ろからリディアの叫ぶ声が聞こえた。
読んでいただきありがとうございます。