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9/9

全てを知りたい


客間に案内をしてもらった後、さっき城下町で購入したサンドイッチをリビングに広げる。ジェイは何やらキッチンでお湯を沸かしている。


「あ、お茶ですか? 私やりますよ」

「いい。場所を知っているのは私だ」

「でしたら場所を教えてください。一緒に淹れましょう」

「……ああ」


ジェイは渋々という様子で場所を教えてくれる。ここにある物は食器や食料なども全部使って良いとのこと。

元の世界に戻るまで暫くこの世界に留まるとしても寮に自室があるらしいから、落ち着いたらそちらに行くことになるだろう。けれど、それがいつかは分からないので一応、場所は頭に入れておく。


「ジェイはコーヒーですよね」

「あなたは紅茶だな」


ジェイと言葉が被る。思わず2人で顔を見合わせた。私はフフッと笑みが溢れる。


「やっぱり。さっきも思いましたが、世界が変わってもジェイはジェイのままですね」

「それは同感だ。あなたも変わらない」

「私も私のままなんですか?」

「そうだな……いや、彼女は敬語ではないから言葉遣いが違うな。けれど仕草や性質は同じだ」


私がジェイを見て元の世界と変わらないなと思っていたように、私のことを見て同じだと思っていたのか。環境が違えば色々と変化しそうなのだが、異世界というのは不思議な物だ。


「なるほど。私は商会に勤めていたから敬語が癖になっているんですよ。でも改めて私だけど私ではない人間が存在していると聞くと、変な感じですね……」


不思議な気持ちになる。

お互いにコーヒーと紅茶を淹れて、リビングに戻る。座ってサンドイッチを手に取る。


「商会に勤めていたのか」


ジェイも片手でサンドイッチに齧り付く。いつも思うが豪快だ。私はサンドイッチを一口サイズに千切る。


「両親がやっていた商会を、亡くなったと同時に引き継いだのです。あの時は……いえ、今も。商会を守るために無我夢中で働いています」

「そうか……。彼女もそうだ、世界は違えどそこは同じなんだな」

「え?同じ?」


ジェイはサンドイッチを3口で食べ、コーヒーで飲み込み話す。


「彼女も両親が病に侵されたと同時に、独自で魔術を使った医療の研究を始めた。不治の病を治す手がかりはないかと……間に合いはしなかったが、それらの功績が評価されて研究員となった。彼女の研究で助かる命は多くある」


そんな話を聞くと、とても同じだとは思えない。私なんかより、この世界の私の方が遥かに崇高な人物のように感じる。


「素晴らしいですね」

「ご両親を守ろうという気持ちは同じだ。やっている内容は違うが軸は変わらない」

「そうでしょうか」


私のやってきた仕事は胸張って誇れるが、人の命を救っているかというとそんなことはない。一緒にしては申し訳ない気持ちになる。

少し居心地の悪くなり、話を逸らす。


「ジェイは?なぜ宮廷書士になったのですが?」

「特に理由はない、なりゆきだ」


終了。自分のこととなると、途端に口を閉ざす。彼の癖だ。


「では、そのなりゆきを教えてください」

「……私の話より、あなたの話だ」

「私の話?」

「この世界にいた彼女のことで、私の知らないことは無かった。しかし、あなたは違う」

「はぁ」


何やら凄いことを言われた気がする。けれど、確かに私のいた世界でもそうだった。

商会は子爵の所有となる予定だったため、報告書を細かく提出するよう要求されていた。その上、私の近況についてはルーカスも報告しているらしかった。彼は私自身のこと、身の回りのことを何でも把握をしていた。

この世界でどのような経緯があったかは知らないが、ジェイが把握していると聞いても『そうなのか』と違和感なく納得してしまう。


「あなたの世界でのことを教えて欲しい」

「私の世界のことですか?」

「いや。あなたの世界で、あなたがどのように過ごしていたかだ」


私が、どのように過ごしていたか。別に話すのは良いが、なぜジェイが聞きたいか疑問だ。


「話を聞いても、面白くないかもしれませんよ?」

「今はまだ昼だ、寝るにも早いし外は疲れるだろう。椅子に座って話をして潰すのが1番だ」


ああ、そういうことか。私の話に興味がある訳ではなく、ただの時間潰し。どうせ別の提案をしたところで却下されるのは目に見えている。大人しくお話タイムにしようか。


それに。ジェイとゆっくりと話すのは久々で、少し嬉しい。


「何から話しましょうか……」

「では、あなたの幼少期から」

「えっ、そんなガッツリ?」

「まだ時間はたっぷりある」


結局のところ。幼少期から今までのこと、趣味やら何やらまで細かいことも尋問のように聞かれて話し続けた。夕方まで絶え間なく喋った私は、寝たり外に出るよりよっぽど疲れたなと心の中でコッソリ呟いた。

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