今宵ノ悪夢物語「願い袋」
今宵ノ悪夢物語「願い袋」
やってられない!
あの課長には頭にくる。
自分のミスなのに、何で私のせいなんだ!
知らん顔、
お前の意見だろ、部下に失敗を擦りつけるな!
お前が私のプロジェクトをケチを付け、台無しにしたんだろう、
つまらない意見を言いやがって、
やっぱりそうだ、最初のプランが正解だった。
大失敗、
お前のせいだ!
死んでしまえ、
あんな課長、死んでしまえ!
……
……
ふて腐れて、コンビニでビールを買う。
プシュー、
ビールから泡が溢れ出た。
「あーっ、」背広がびしょびしょになる。
「今日はとことんついていないな、まったく〜」
ハンカチでズボンを拭く。
「あの〜」
「あの〜、」
突然、背後から声がした。
何だ?
後ろには、怪しい小男が立っていた。
青白い顔、大きな口、尖った耳、全身黒ずくめ。葬式の帰りか?
「何か用か、」私は不機嫌に返事をした。
「あの〜、何かお困りのようで、」
この男、私がイライラしているのが解っているようだ。
「あなたのお困り事、解消してあげますよ。くっくっくっ、くっ」
気持ちの悪い笑いをする男だ。目つきも不気味だ。
ゴソゴソ、ゴソ、
何やら、懐から小さな袋を取り出した。
「何も買わないよ!私は騙されるのが大っ嫌いだからな、」
私は知っている。大抵こういう場合は、幸運になれる石とか、幸せになれる数珠とか、人の弱みにつけ込んだ怪しい物を売りつけられるに決まっている。
「いらないよ、」私はキッパリと断った。
「いや〜、タダですよ」
「お金は一切いりません。タダで差し上げますよ〜」
奇妙な男だ。初対面の私に、しかもタダでくれる?
いや、タダより怖い物はない。信用しない、信用しない。
「あの〜証拠を見せますよ〜」
「えっ?」
小男は、ゆっくり袋の中に手を入れた。
「冷たいビールを願う〜」
キャプッ、
聞いた事のない奇妙な音がした。
小男がゆっくりと手を取り出すと、
袋から、ビールが出てきた。
?!
ビールだ、本物のビールだ。しかも明らかに袋より大きい。
おかしい、何かのマジックか?
ビールを私に渡す小男。
冷たい、
キンキンに冷えてるビールだ。
どこから出したんだ?
コンビニの中には、小男はいなかった。
先に買っていたのか?
いや、買っていたのならこの天気、ビールはすぐ温まってしまう。
おかしい、
「本当でしょう、くっくっくっ、くっ」
「どうぞ〜」
私に袋を渡す小男。
中を確かめてみる。小さな袋だ、穴も開いていない。
不思議だ。
「あの〜、一つ注意点が〜」
何?
「決して、命には使わないこと〜」
「大変な事になりますよ〜」
「使い方は慎重に〜」
「くっくっくっ、くっ、」
「えっ、」
いつの間にか、小男は居なくなっていた…
自宅、
バン、カバンをテーブルに置く。
カードローンの督促状が溜まっていた。
「あーあ、ついてない事ばかりだ」
「プロジェクトは失敗だし、株は損ばかりだし、借金は溜まるし」
「金が欲しいなぁ、」
パサッ、カバンから袋が落ちる。
そう言えば、変な小男に袋をもらったな、
袋をつまむ。
何の変哲もない、ただの袋だ。
「暇つぶしにやってみるか」
私は、恐る恐る袋に手を入れてみた。
「100万円を願う〜」
キャプッ、
生温かい物が私の手をかじった。
「うわっ、」
私は、慌てて袋から手を取り出した。
何だ、何か生き物にかじられたような?
動物でもいるのか、
袋を逆さまにしてみる。
ドサ、お札が落ちてきた。
100万円の束、
「えっ」
お札を調べてみる。
本当に100万円だ、本物だ。
これは、
これは、いい!
それから私は、
袋から、お金や宝石、あらゆる物を出した。生活は一変した。
「山口君〜最近、ずいぶん羽振りいいね」
同僚が言う。
「ああ、親戚から金のなる木をもらったからね、」
「いいなー」
「まあな、」
人間の欲望なんて、大した事はない。
高級マンションに住み、高級外車に乗り、家具、家電、酒、女…
金さえあれば何でも叶えられる。
「あ〜あ、もう欲しい物がなくなったよ」
「欲しい物が無いというものも、辛いものだ、ハハハハハ、」
しかし、私は金があるからといって会社は辞めない。
そんな馬鹿ではない。
人生が狂ってしまうからだ。
表の顔と裏の顔、これが人生を賢く生きるコツだ。
「あとは、何だ、」
「名誉か?」
「そうだ、出世だ」
「社長にでもなるか!」
会社、
「今回のプロジェクトには、社運が掛かっている。くれぐれも慎重に」
部長の言葉。
私は、再び、プレゼンを任された。
今度こそ私の企画で大成功だ、頑張るぞ!
「山口君、その企画〜ちょっと変だよ」
まただ、
また、課長がケチをつけてきた。
「君はまだ、経験不足だからねー、それは変更した方がいいよ」
「課長、この前も、課長の変更で失敗したんですよ」
「何だって、」
「君は、部下のくせに、自分の失敗を私のせいにするのか!」
「この私に向かって、何だ、その口の聞き方は、」
「なに、」課長に掴みかかる山口。
同僚たちが慌てて止めに入る。
抑えながら同僚が小さな声で言った。
「あの課長は、部長と仲がいい。課長に逆らうと出世に響くぞ」
手が止まった。
そうだ、皆、知っている事だった。だから課長は、会社ででかい顔ができたのだ。
「課長のやつ…」
自宅、
腹が立つ、やってられない!
あの課長には頭にくる。
死んでしまえ、
あんな課長、死んでしまえ!
課長の心臓でも、袋から取り出してやるか、
じっと袋を見つめる。
「あの〜、一つ注意点が〜」
「決して、命には使わないこと〜」
「大変な事になりますよ〜くっくっくっ、」
小男の言葉を思い出す。
危ない、危ない、もうちょっとで袋を使う所だった。
そうだ、
この袋を課長に使わせてやる。そして、課長にバチを与えさせてやる。
いいアイデアだ、我ながら冴えている。
次の日、会社。
「課長、少しお時間ありますか?」
私は、課長に声をかけた。
「何だ、山口」
屋上、
「この袋は何でも願い事が叶う袋なんですよ。課長も一つ願い事を叶えて見ませんか?」
「何かと思えば、バカバカしい」冷めた目つきの課長。
「おかしな事を言うなよ、山口。仕返しか?」
「やっぱり信じてないんですね。では、証拠を見せましょう」
山口は、ゆっくりと袋の中に手を入れた。
「冷たいビールを願う〜」
キャプッ、奇妙な音がした。
山口が手を取り出すと、袋からビールが出てきた。
?!
明らかに、袋より大きいビールが出てきた。
「マジックか?」
ビールを課長に渡す。
キンキンに冷えている。
「どこから出したんだ?」
「本当でしょう、」
「どうぞ、課長。何でも願い事が叶いますよ、人も殺せます。社長にもなれますよ」
課長に袋を渡す山口。
不思議そうな顔の課長。
その後、
私は、課長にバチが当たるのを待ち続けた。いつまで待っても、課長にバチは当たらなかった。それどこか、課長は部長に、そして社長になった。
会社の売り上げはどんどん伸び、大手企業の仲間入りするほどに大きくなった。
すっかり仏様のような顔になった元課長。
会社廊下、
「課長〜、袋返して下さいよ〜」
ボロボロの背広の山口が掴みかかる。
「ああ、君か、まだ我が社に居たんだ」
「課長〜、あの袋返して下さいよ〜」
バン、山口の手を払う。
「願い事ってのはな、皆んなが喜ぶことを願わなくちゃダメなんだよ!」
「君は、失格だな」
「ええっ、」
元課長の後ろには、あの小男が立っていた。
「だから言ったでしょう、使い方は慎重にってね、」
くっくっくっ、くっ…