第7章 どんなに笑われても
水晶には、体操服を着ているぼくと鉄棒の前で動かずに固まっているぼく。
明日は、体育で鉄棒のテストがあると確かに授業中に先生が話していた気がする。
運動が苦手なぼくはテストで失敗をしたんだ。
(逃げたい)一瞬頭をよぎった。
くよくよしている間にも時間は流れ、あっという間に体育のテストが始まってしまった。
運がわるいことに、となりのクラスと合同ですることになった。
クラスメイトたちは、次々に鉄棒のテスト、逆上がりを成功させていった。
のぶおはもちろん、たけるもみきも、そして、ぜんそく持ちのともみも、今回はしっかり力強い逆上がりを決めて見せた。
みんな、すごい。
どうする?
もう、ぼくの番だ。
今なら、お腹が痛いとかいって逃げることも出来る。
でも……、のぶおが苦手な自転車に真正面から挑む姿が頭を離れない。
(ぼくはもう逃げない)
笑われたっていい。
やるだけ、やるんだ。
ぼくは、先生の笛の合図で地面をけり上げた。
あと一歩だった、あともう少しだったんだ。
「もう一度」
落ち着け。落ち着けぼく。
次こそはと、先生の笛に合わせもう一度、けりあげた。
だめだ。
見守っていた生徒たちがざわめき始めた。
「だっせー」
となりのクラスからの一言が胸をつらぬいた。
その一言から、ざわつきが一気にクスクスと笑い声に変わっていった。
やっぱり、ぼくには無理なのかな。
やっぱり努力しても意味がないのかな。
ぼくは、その場で動けなくなってしまった。
「今、言った奴、でてこいっ」
大きな怒鳴り声が、びりびりと鳴り響いた。
のぶおだった。
笑い声は、ピタッと止まった。
「苦手なことがあるって、そんなに悪いことなのか?」
のぶおは、ぼくのそばまでやってきた。
「いいか、力を入れすぎるな。肩の力を抜いて、タイミングを合わせるんだ。ただ、力任せに蹴り上げるだけじゃ意味がない。いち、にの、さんのタイミングで蹴り上げるんだ。いいな?」
「うん……」
「いち、にの、さんっ」
のぶおの声に合わせて、もう一度、全力で蹴り上げる。
あれ? さっきより、足が上がりやすいぞ。
「もう一度いくぞ」
ぼくは、深呼吸をして息を整えた。
「いち、にの……」
今度は、のぶおの声だけじゃない。
たけるや、ともみ、みきが立ち上がって一緒に声を出してくれている。
その中に、のぶおを避けていたひろきの姿も。
「さんっ」
今度は、鉄棒に少しだけ足がふれた。
「おしいっ」
クラス中の声がいっせいにはもった。
今度こそ。
ぼくだってできるはず。
持てる力をすべて出すんだ。
「いち、にの……」
「さんっ」
声援を力に変えたぼくの足は、鉄棒の上をくるりとまたぎ、かろやかに着地をきめた。
「合格っ」
先生の言葉に、思わず座り込んでしまった。
「やったな」
のぶおは、背中をポンとたたいてくれた。
「……ありがとう。のぶちゃん」
「おうっ」
ぼくは、僕自身の問題を友達に支えられながら解決することができた。
きっと、ポイントは5ポイントになったはず。
でも、お守りは受け取らないことにした。
意地悪をされて傷つくことは、確かに怖いけど、それは決してむだなことじゃない。
ぼくが一番怖いのは、また一人ぼっちになることだ。
心の痛みが分からないと友達なんてできっこない。
これからも、たくさん嫌なことや悲しいことが待っていると思う。
けど、きっとだいじょうぶ。
優しさが、傷ついた心をあたたかく包み込んでくれることを知ったから。
ぼくは何度でも立ち上がれる。
どんなに笑われてもちっともかまわないのさ。
最後まで読んでくださってどうもありがとうございます(#^^#)