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第3章 雨やどりの少女とたまご焼きサンド

水晶玉に映し出されたのは、同じクラスメイトの牧野ともみの姿だった。

雨が降っていて、雨やどりしている様子が映し出されている。

どうやら、カサを忘れたらしい。

はとんど話したことがなくて、朝すれちがう時にあいさつをしたことがあるくらいだ。

いつも一人でいるメガネをかけた女の子。

そういえば、運動会のリレーには参加してなかったな。

準備体操や玉入れには参加していたのに。

ずるいと思ったし、納得できなかった、

でも、助けなきゃ、ラムネをただで飲んだどろぼうになってしまう。

やるしかない。

「じゃあ、行ってきます」

「お気をつけて」

ぼくは、急いで外に向かった。

しかし、外を出ると全く雨が降っていない。

いや、おじさんは(24時間以内)と言っていた。

きっと、あの水晶は未来を映し出したんだ。

とはいえ、学校まで半信半疑で小走りで向かった。

すると、しばらくして鼻先に冷たいものが。

ぽつん、ぽつん。

とたんに、どしゃぶりの雨が一気に降りだしてきた。

ぼくは、はっと水晶玉に映し出されていた困り果てたともみの姿が思い浮かんだ。

折り畳みカサを差し、全力で学校へ向かった。

いた!

大きなため息をつきながら、ぽつんと立っている。

何て話しかけたらいいか分からないから、思ったまま、行動しよう。

「これ、良かったら使って」

「え?」

ともみの肩がピクッと反応し、差し出されたカサをじっと見つめる。

「あまやどりしてるんでしょ?」

ぼくは、できるだけ笑顔をつくった。

すごく無理をしてるのが、自分でもわかった。

「……でもそれじゃ、北野君が……」

「ぼくは、いいから。家も近いし」

ぼくは、カサをその場に置いて走った。

「ありがとう」

雨の音にまじって確かに聞こえた。

ぼくはヒーロー気取りで、軽々しく走った。

なんだか、とても気分が良かったんだ。

ポイントカードをのぞくといつのまにかラムネの絵の中に(1)と書かれていた。

ポイントが入ったのはいいけど、次の日あっけなく、かぜをひいてしまった。

学校を休んだのは、初めてだった。

朝からずっと寝ていたら、すっかり体調は戻って、夕方にはお腹が空いて仕方がなかった。

朝から、おかゆしか食べていなかったから、よけいに空腹がつらい。

突然母さんが、部屋にやってきた。

「あんた、良いことしたね」

母さんが、ご機嫌な顔で部屋に入ってきた。

そっと、白い袋を渡された。

「これ、おみまいだってさ。クラスの子に、カサを貸してあげたんだって?」

ぼくは、ドキッとした。

「あ、いや、それは……」

なぜか急に恥ずかしくなって、ごまかそうとした。

「困っている人がいたら助けてあげなくちゃね。見て見ぬふりが一番悪いことだよ」

袋の中には、たまご焼きサンドが入っていた。

そのままパクッと口にいれる。

たまごの優しい味が、空腹だったぼくのお腹にしみわたり、ぺろりとたいらげた。

翌朝熱は下がり、学校へいくことができた。

「おはよう」

ぼくは驚いた。

いつもどおり、クラスメイト達からはあいさつを無視されたが、ともみだけはぼくにあいさつをしてくれた。

一瞬、クラスメイト達は、顔を見合わせていたけれど、すぐにいつものクラスに戻った。

昼休み、一人でいてもすることがないので、図書室に行ってみた。

すると、ともみが本の返却カウンターの受付をしていた。

ともみが、クラスの図書委員だったのを思い出した。

ともみがぼくに気がついた。

「図書室に来てくれたんだね」

ぼくは、黙ってうなすいた。

「この前はありがとね」

ともみは、フフッと笑った。

「北野君は転入してきたから知らないと思うけど……」

少し間が空いて、ともみは続ける。

「あたし、実はひどいぜんそく持ちで、5年生に上がるまでずっと入院してたの」

ぼくは、言葉がうまくでなかった。

「だから、激しい運動もできないし、全力で走ることも、雨に打たれることも……。だから本当に助かったの」

そうだったのか。

そうともしらずにぼくは……。

リレーをさぼったずるい奴なんて思ったりして、最低だ。

「かぜひいたのって、あたしに傘を貸してくれたからだよね」

「違うって。気にしないで」

ぼくは、あわてて首を横にふった。

「絶対、お見舞いにいこうと思って、最初はケーキにしようとしたんだけど、男の子だから、甘いものよりも塩気の物のほうがいいかなって、近くのパン屋さんで買ってきたの」

「ありがとう」

ぼくは、心の底からお礼を伝えた。

 5時間目、算数のテストが帰ってきた。

でも、いくら待ってもぼくの答案だけが帰ってこない。

そして、最後の一枚になった所で、先生がクラスの前で答えた。

「今回のテストで、一人だけ名前を書き忘れたうっかりものがいます」

まさか……。

「北野ゆうき、これからは気を付けましょう」

クラス中が、笑い声であふれた。

とくにのぶおの声が、ひときわでかい。

ぼくは、恥ずかしくて下を向いたまま、答案用紙を受け取って、席についた。

なにもみんなの前で言わなくったって……。

ぼくは、思いっきり恥をかいて傷ついた。

学校がおわると、そのままシュワワにかけ込んだ。


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