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ぬいぐるみ猫ガッティの冒険

 ここはステラランド王国のお城。

 今夜はお祭り。一年に一度、人形達が星空から降ってくる日。


 小さな王子様エメランドも、お城の庭に出て星空に両手を伸ばした。

 手のなかに降りてきたのは、子猫のぬいぐるみ。

 金色のもふもふした布地に銀色ぶちの珍しい柄。

 王子の父上は、(ひょう)ではないか?と疑ったが、みゃあと鳴いたので猫だと認めた。

 豹の子もみゃあと鳴くかもしれないけれど。


 エメランド王子の大好きな絵本に出てくる猫からとって、子猫はガッティと名付けられた。


 ガッティは王子の愛猫として、お城で大事に育てられた。


 一年も経った頃、ガッティは大人の猫と同じくらいに成長して、午前の晴れた庭園を散歩していた。


 庭園の洒落たテーブルにはティーセットとお菓子が置かれて、イスにはエメランド王子の両親の王様と王妃様、そして、王国一の冒険家夫妻が招かれて談笑していた。


「冒険家になる前は、舞台役者で王子を演じていたとか。私によく似ていたにと聞いた、見たかったな」


「見たかったですわ」


「いえいえ、とてもお見せできませんよ」


「似ていたのは容姿だけで、女たらしな王子様でした」


「ハハハ」


「ウフフ」


 四人が楽しく話すそばで、夫妻の一人息子の小さな冒険家がガッティを追いかけはじめた。


 ガッティはすばしっこい冒険家に追いつめられて、初めてお城の壁を登っていった。


「あっ、ガッティ! ダメだよ!」


 エメランド王子が手を伸ばしたが、ガッティはそれに背を向けて壁の向こうへ降りた。


 そのまま道を駆けて、休日の町のなかへ。


 通りを行く人々や犬の間を、ガッティはすり抜けていく。

 初めて見る景色に、宝石のような緑の瞳をキョロキョロさせながら。


 油断大敵、ガッティは前から来た子供達に捕まった。


「可愛い猫のぬいぐるみ!」


 幸い、優しく撫でてきた。


 可愛いぬいぐるみのような男の子と、黒い猫耳の生えた人間の女の子。


 ガッティは自分と同じ耳の女の子を見て首をかしげると、スキをついて駆け出した。


 お洒落なレンガの家の軒先で一休み。

 そこへ、綺麗な女の人と優しそうな男の人、妙に不釣り合いな、けれど、とても仲睦まじそうな様子で帰ってきた。


「あら、珍しい模様の猫」


 女の人が伸ばした手をすり抜けて、ガッティはまた駆け出した。


 安全な道を選ぼうと、家の間の細い道に入った。

 待っていたのは、猫。

 それも、強そうなオス猫。

 ガッティもオス、怯むことなく、立ちはだかる敵に向かい合って身構えた。


「フーゴ!」


「フニャーゴ!」


 ついに両者飛びがかると絡み合い、ボールのように転がりまわった。


 逃げたのはガッティだった。

 人生初めての喧嘩は敗走だ。


 相手は無傷、ガッティはぬいぐるみなので爪も牙も危なくないから。

 けれど、ガッティは肩の噛み傷と前足のひっかき傷から綿が飛び出していた。

 こうなる危険があるので、ほとんどのぬいぐるみ猫は家から出ないのだ。


 満身創痍でさっきの通りに戻ると、家の前で花に水やりしている母娘に捕まった。


「ボロボロのねこちゃん!」


 ガッティは娘に抱き上げられた。


「ママ、おけがなおしてあげて」


「そうね、縫うのはそんなに得意じゃないけど」


 ガッティは母娘の家で手当を受けた。


 エメランド王子と、ふかふかのベッドが恋しくなったガッティは、窓から抜け出すと包帯を巻いた足で城を目指した。


 町を抜けて、城へ続くなだらかな坂道へ。


「ガッティじゃない?」


「ああ、ガッティだ。無事に帰ってきたか」


 前から声をかけてきたのは、並んで馬に乗る騎士団長夫妻。

 王子に泣きながら頼まれて、ガッティを探しに城を出たところだった。


 ふたりを仲間と思っているガッティは、止まった馬に近づき、にゃあおと愛想よく鳴いた。


 ガッティは騎士団長の馬に乗せてもらい、無事にエメランド王子の両手のなかに帰った。


「ガッティ! 心配したんだよ」


「にゃお」


 頬ずりしてくるエメランド王子に、ガッティはゴロゴロと喉を鳴らして応えた。


 王様と王妃様もガッティの頭を撫でた。


「包帯してますわ」


「冒険中に怪我をして、手当てしてもらったのか」


 包帯を外すと、丁寧な縫い跡があった。


「綺麗に手当てしてもらいましたね、ガッティ」


「よかったね、ガッティ」


「手当てしてくれた者に、お礼の心を持とう」


「はい」


 三人は目を閉じて、ガッティを助けてくれた人にお礼を言った。


 それから、ガッティは王子と一緒に、ふかふかのベッドで念願のお昼寝をした。


 こうして、ガッティの冒険は終わった。


 次の年、星と人形の降る日。

 ガッティの前に降ってきたのはぬいぐるみではなく、壁を越えて飛び降りてきた冒険猫だった。

 明るい茶色の毛に黒いしましまの美しい猫。

 けれど、冒険の痛手か生傷だらけだ。

 王様は虎ではないか?と一応疑ったが、みゃーと鳴いたので笑って猫だと認めた。


 手当された猫はお城に住みつき、キャッティと名付けられてガッティと仲良くなり、王子の大事な友達に加わった。

 しばらくして、ガッティとキャッティがキスのかわりに鼻をつけ合うと、可愛いぬいぐるみの猫夫妻が誕生したのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] わぁー!!猫ちゃんの縫いぐるみ!! 私も欲しい!降ってこないかな、、、 出来れば、ハリネズミが欲しい。 王妃様の陶器のウサギもおしゃれ!! 素敵なお話をありがとうございました。 [気に…
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