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百合×百合オペレーション  作者: 平井淳
第三章:ウキウキお泊り作戦

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01

感想をお待ちしております。

 休み明けの月曜日ほど憂鬱に感じる日はない。これから長い一週間が始まるのかと思うと、学校が苦手な私は酷く気が滅入ってしまうのだった。


 今日がその月曜日だ。しかし、今の私は学校へ行くのが少しも苦ではなかった。


 その理由はもちろん、宮園さんである。

 彼女と友達になれたことで、灰色だった私の高校生活は色鮮やかなものに変わった。


 学校に行けば宮園さんに会える。それだけで心が躍る。

 

 彼女と昼休みにお弁当を食べて、放課後は二人きりで過ごすことができる。そのおかげで学校が楽しいと思えるようになった。


 朝のホームルーム前の教室。私はいつものように自分の席に座りながら、宮園さんの到着を待っている。


 今朝はいつもの通学カバンではなく、修学旅行などで使える大きめのカバンを持って登校した。その中には教科書や筆記用具など授業で必要なものに加えて、着替えやパジャマ、歯磨きセット、洗顔フォームなどが入っている。


 なぜそんな大荷物を抱えて学校へ来たのかというと、私は今夜、宮園さんの家に泊めてもらうことになっているからだ。


 お泊り会は一昨日、遊園地デートの最中に急遽決まった話である。


 とある会話の流れから、宮園さんがバイオリンを習っていることを知った私が、彼女の演奏を聴いてみたいと言ったことが発端だった。


 宮園家には楽器を演奏するための部屋があるらしい。そこで宮園さんが私のためにバイオリンを弾いてくれることになったのだが、せっかく家に来るなら、そのまま泊まっていけばいいと彼女は提案した。


 宮園さんの家でお泊り。こんなチャンスはなかなかないかもしれない。私はありがたくお受けすることにした。


 誰かの家に泊まるのはこれが初めてである。宮園さんと同じ屋根の下で過ごすなんて、想像するだけで今からワクワクとドキドキが止まらない。


「楽しみですねぇ、お泊り会」


 ユリエルさんが言った。彼女は私のすぐ隣に立っているが、その姿は教室にいる他の皆には見えておらず、声も聞こえていないようだ。


 うん、楽しみだよ。でもやっぱり緊張しちゃうなぁ。だってほら、もしものことがあるかもしれないでしょ? 今夜は宮園さんと同じ部屋、しかも同じベッドで寝るわけだから……。


「その時は覚悟を決めてください。いい感じになった時は、昨日の夜に立てた作戦の通りに行きましょう」


 固唾を飲む私。

 今夜、ついに宮園さんと一線を越えてしまう可能性がある。


 あー、ホントにどうなっちゃうんだろう。宮園さん、優しくしてくれるかな?


「普段そういうことばっかり考えているくせに、いざ本番になるとあたふたするタイプですよね、紗友里さんって」


 そうかも……。よくわかってるね、私のこと。


「まぁ、一緒にいれば段々わかってきますよ」


 天使に付きまとわれる生活が始まり、一週間ほどが過ぎた。幸か不幸か、私はこの奇妙な状況に慣れつつある。


 私の思考はすべてユリエルさんに筒抜けだ。恥ずかしい妄想の内容も彼女に知られている。だけど、最近はそれさえも気にならなくなっていた。


 人は誰しも他人に知られたくない秘密を抱えて生きているはずだ。もしそれが大勢の人間に広まれば、最悪死んでしまうかもしれない。だから、絶対に秘密を隠し通すか、よっぽど信頼できる相手にしか打ち明けないものである。


 しかし、天使が人の秘密を知ったところで、それを世間に暴露することはない。


 私が宮園さんに対して、秘めたる想いを抱いている事実をユリエルさんが誰かに言いふらしてしまう心配はない。だから、彼女には一切の隠し事ができなくても特に問題はなかった。


 すっかり開き直った私は、ユリエルさんが近くにいても、お構いなしに妄想をするようになった。彼女もまた、私がどのような人間なのかを理解しているため、今さら私の妄想にツッコミを入れてくることはない。


「おはよう、松浪さん。ちょっと話があるんだけど」


 すると、ここでクラスメイトの中村君が私に声をかけてきた。


 明るくてイケメンでクラスの中心人物ともいえる存在だ。女子の一番人気が宮園さんだとすれば、男子は中村君がそのポジションに当てはまるだろう。


 そんな彼が一体私に何の用だろうか。


 男の子との会話に慣れていない私は、必要以上に身構えてしまう。せめて「おはよう」とあいさつを返すべきなのに、何も言えないまま固まっている。


「実は一昨日のクラスカラオケで松浪さんの話になってさ。どうすれば松浪さんがクラスに溶け込めるのか皆で考えたんだ」

「え……?」


 どうして、そんなことを?


「松浪さん、今何か悩んでることある? 俺でよければ相談に乗るからさ、何でも話してよ」


 意味がわからなかった。

 中村君は何を思ってそんなことを言い出したのだろうか。


「あの……私は、別に……」

「うん。ここでは言いづらいこともあるよね。それなら別にいいんだ。けど、ずっと一人で抱え込むのはダメだと思う。直接話すのが難しいなら、ラインでもいいからね。これ、俺のIDだから、いつでも相談して」


 彼は一枚のメモ用紙を私に手渡してくる。

 私は受け取りを拒否することもできず、半ば無理矢理握らされた。


「じゃあ、そういうことだから」


 中村君は笑顔を見せながら、自分の席に戻っていく。

 それから再び友人たちと談笑を始めるのだった。


「おはよう、松浪さん」


 気が付くと、宮園さんが後ろに立っていた。

 

「宮園さん……。おはよう……」

「その紙は何かしら?」

「えっと、これは……」


 中村君から貰ったと正直に答えてもいいのだろうか。


「貸して」

「あ」


 宮園さんはメモ用紙を私から奪い取る。

 そして、それをクシャクシャに丸め、スカートのポケットに入れてしまった。


「松浪さんには必要ないものよね?」


 彼女はにこやかな表情を浮かべている。しかし、そこには無言の圧力が込められていることを私は感じ取っていた。

お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

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