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入浴している間は、ユリエルさんも空気を読んで浴室には入ってこない。
今も心の声は彼女に聞こえているはずだが、向こうから話しかけてくることはないので、落ち着いてお風呂に入ることができた。
「ふぅー」
身体を洗い終えた私は、湯船に浸かりながら今日一日の出来事を振り返る。
今日は昼休みに宮園さんとお弁当を食べた。その際、話の流れで彼女が創部した「友愛部」に入部することになった。
放課後は宮園さんに英語の勉強を教えてもらった。彼女の説明は非常にわかりやすく、おかげで苦手な文法問題が解けるようになった。
憧れの彼女と二人きりで過ごすことができて、私はすごく幸せだった。
これからも放課後は毎日、彼女と一緒だ。部活のメンバーは私と宮園さんの二名だけ。誰にも邪魔されない最高の環境を手に入れたのである。
しかし、手放しで喜ぶことはできなかった。
いくつかの奇妙な現象も起こっていたからである。
一つは白昼夢だ。お弁当を食べるために友愛部の部室に入った時、私はその場に立ち尽くしたまま、宮園さんとキスをする夢を見た。彼女に強く抱きしめられながら、唇を重ね合わせたのである。あまりにもリアルな感触だったので、現実の出来事と錯覚するほどであった。
二つ目は記憶喪失である。お弁当を食べ終えた後、自分が何をしていたのかさっぱり思い出せないのだ。しかも、いつの間にか私は宮園さんの膝を枕にして眠ってしまった。どういう経緯で彼女に膝枕をしてもらうことになったのか、気になって仕方がない。頼んだらまた膝枕やってくれるかなぁ?
放課後の記憶も一部欠如している。
部活が終わった後、宮園さんと旧校舎のトイレに入った。
私は個室の中で花子さんに遭遇し、恐怖でおしっこを漏らしてしまった。
宮園さんは下半身がびしょ濡れになった私を部室に連れて戻った。その後、私は彼女の前で何かとんでもないことをしてしまった気がするのだが、具体的にどんなことをしたのかは覚えていない。
宮園さんによると、私は部室に戻った後、ショックで気を失ったそうだ。
私が気絶している間に彼女は濡れた下着や靴下を換えてくれた。目を覚ますと私はジャージ姿になっていた。
……え、待って。下着を換えてもらったということは、宮園さんに大事なところを見られてしまったってことだよね? しかも、彼女は濡れた部分を拭いてくれたらしい。黄色い染みが付いたティッシュペーパーをゴミ袋に詰めているのを見てしまったのだ。
宮園さんにパンツを脱がされ、デリケートな部分やお尻、太ももを拭いてもらっている自分の姿を想像する。
ううう……。こんなの恥ずかしいよぉ。
よりによって好きな人の前で情けない姿を晒しちゃうなんて。
私はもう高校生なんだよ? 高校生なのにお漏らし。黒歴史決定だ……。
「……宮園さんに幻滅されちゃったかなぁ?」
とても不安だ。彼女は明日も私と話してくれるだろうか。
いや、きっと大丈夫。宮園さんはとても優しい人だから。
もし嫌われてしまったのなら、着替えの手伝いをしたり、車で家まで送ってくれたりはしないだろう。
彼女はあの後、私のスカートと下着、ソックス、上履きを持って帰った。全部綺麗に洗濯してから返すと言っていた。別にそんなことしなくていいと断ったのだが、私が漏らしてしまったのは自分のせいだと考えているようだ。
変な気を使わせてしまった。彼女には悪いことをした。
私の方こそ彼女の心のケアをすべきじゃないだろうか。
気にしなくていいよ。宮園さんは悪くないよ。そう言ってあげるべきだ。
遊園地のチケットを手に入れた。遊園地で宮園さんと楽しい思い出を作り、嫌な出来事は綺麗さっぱり流してしまおう。
クヨクヨしている暇はない。
私は立ち上がり、湯舟から出た。
「あらあら。綺麗な身体してるわねぇ」
頭上から女の子の声がした。
ユリエルさんではない。トイレの花子さんでもない。
では、一体誰なのか?
「捕まえた♡」
「ひゃっ!」
いきなり何者かに背後から抱きしめられた。
細くて白い腕が私の身体を捕えている。
「お肌がスベスベでプルプルね。いい触り心地だわぁ」
柔らかい手が胸やお腹を撫でてくる。
「んっ……」
「どう? 気持ちいいでしょ」
「……ど、どちら様ですか?」
震える声で私は尋ねる。
「あたしはリリィ。女の子がだぁーい好きな悪魔よ」
私とあまり背丈の変わらない金髪ショートカットの少女だった。
天使の次は悪魔が現れた。
もう何でもアリだ。
「あなた、すごく可愛いわね。めちゃくちゃ美味しそう。ちょっとだけ味見しちゃおっと」
リリィと名乗る悪魔は私の頬にキスをした。
頭がクラクラする。悪魔に拘束されているというのに、恐怖や不安が一気に消えて快感が全身を駆け巡るのだった。
「はぁぁぁっ……♡」
すごく気持ちいい。頬に軽くキスをされただけでここまで感じるなんて。
彼女の手が私の身体を弄る。指先の一つ一つが動く度に、凄まじい刺激が伝わってくる。
「いい感じでしょ。このままイッちゃう?」
「ああっ……」
それも悪くないかも、と思ってしまった。
身体の力を抜いて、彼女の好きにさせてしまおうかとも考えた。
でも、それはダメだ。
私には……私には宮園さんがいるのだから。
ユリエルさんを呼ぼう。彼女なら、この悪魔を追い払ってくれるかもしれない。
ピンチの時はユリエルさんの名前を三回唱えるように言われていたことを思い出した。
私からユリエルさんを呼び出すことなんて絶対にないと思っていたけど、今はまさに彼女の助けが必要な状況だ。
ユリエルさん、ユリエルさん、ユリエルさん。
どうか、私を助けて!
「無駄無駄。今このお風呂には結界が張ってあるの。助けを求めたって、誰にも声は届かないからね」
そんな……。
このまま悪魔に食べられちゃうんだ。もうおしまいだ。
私は絶望した。
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