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私たちは空になった弁当箱を持って部室を出る。
早く戻らないと五限目の授業に間に合わない。
急ぎ足で移動を開始する。
歩く度に木張りの廊下がギシギシと軋む音が鳴った。
その音はあまり遠くへは響かず、壁や天井に吸い込まれてゆくのであった。
旧校舎の廊下は日中でも薄暗くて不気味だった。ちょうど現校舎の陰に隠れる場所にあるため、日当たりが悪いのだ。温度が低くて少し肌寒く、また妙に湿気があった。
明らかにここは現校舎とは空気が異なる。お化けでも出そうな雰囲気だ。
私は霊感がないのでお化けを見たことはないが、旧校舎で幽霊のようなものを見かけたという生徒が後を絶たない。
噂によると、その昔、教室で自殺した女子生徒の霊が今も旧校舎を彷徨っているのだという。
ああ、こんな時に変な怪談を思い出すんじゃなかった。
私はブルッと身体を震わせる。
しかし、噂は噂に過ぎない。女子生徒が自殺したという話も真相は定かでない。ただの作り話という可能性もある。
「そういえば、ここって出るみたいね」
歩きながら宮園さんが静かに言った。
「な、何が……?」
恐る恐る私は聞き返す。
まさか、彼女も幽霊の噂を信じているの?
「トイレの花子さん」
「花子さん?!」
「旧校舎のトイレには花子さんがいて、昼休みになるとトイレから出て廊下を歩き回っているそうよ」
私が知っている噂とは違う内容だった。
どうやらお化けの種類は一つではないみたいだ。
「会ってみたいと思わない? 花子さんに」
「思わない、かな……」
だって怖いもん。
幽霊の存在を信じてはいないけど、実際に見てしまったら認めるしかない。
「私は会ってみたいわ。それから、お話がしたい」
「どんなことを話すの?」
「地縛霊になる方法を教えてもらうのよ」
冗談を言っているのかと思ったが、宮園さんは真面目な顔をしていた。
彼女が何を考えているのか私にはわからない。
「どうしてそんなことを聞くの?」
「地縛霊になりたいからよ」
「何で?」
「それは秘密」
宮園さんって不思議な人だなぁ。
彼女は時々変わったことを言うけれど、それは私を笑わせるために気を利かせているわけではないようだ。
では何が目的なのだろう。
私はますます彼女のことが知りたいと思うようになった。
「ねぇ、松浪さん。もし私が地縛霊になっても、今と変わらず友達でいてくれるかしら?」
その質問はあまりにも気味が悪かった。
私を不穏な気持ちにさせるものだった。
まさか、宮園さんはもうすぐ死ぬつもりなのだろうか。
「うん。友達のままだよ。でも、宮園さんには生きててほしい。もし宮園さんが地縛霊になったら、私も死んで地縛霊になるからね」
「ありがとう。そう言ってくれて安心したわ。どうやら、私たちの友情は本物みたいね」
彼女は満足そうに呟いた。
そのまま駆け足で旧校舎を出て現校舎に入る私たち。
それから二年四組の教室へ戻り、どうにか授業には間に合った。
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