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「私にはこれまで何組ものカップルを成立させた実績があります。幾多の障壁を乗り越えて、その恋を叶えた女の子をたくさん見てきました。ですから、どうか私を信じてください。絶対に紗友里さんのことも幸せにしてみせますから」
ユリエルさんは胸を張って言う。
よっぽどの自信があるのだろう。
私はその姿に頼もしさを覚えた。
彼女は天使だ。人間の力ではどうにもならないことでも、天使なら何とかできるのかもしれない。
「ユリエルさんが成立させたカップルって、どれも女の子同士なの?」
「いいえ、私も昔は男女の恋愛を応援する平凡な恋のキューピットでしたよ。時には男性と男性の恋を手助けしたこともあります。今のような『百合専門』ではありませんでした」
「あ、そうだったんだ……」
じゃあ、どうして女性のカップルばかりを手助けするようになったのだろう。
「きっかけは今から二百五十年ほど前のことです。村に住む庶民の少女に恋心を抱く貴族の娘がいました」
「二百五十年?! ユリエルさんって、今いくつなの?」
見た目は十代だけど、実際は私より遥かに年上ってことだよね。
どうやら天使は人間よりもずっと長生きするらしい。
「レディに年齢の話をするのはマナー違反ですよ」
「ご、ごめんなさい……」
なぜか謝る私。
それからユリエルさんは続ける。
「その娘には婚約者がいました。相手は名門貴族の一人息子です。当時、お見合いでの結婚は珍しくありませんでしたが、彼女は親が勝手に決めた縁談を受け入れることができなかったのです。そこで、意中の少女と駆け落ちすることに決めました」
駆け落ちかぁ。映画やドラマではよく見るけど、リアルでもそういうことってあるんだ。
「その後、二人はちゃんと結ばれたの?」
「いいえ……。残念ながら、彼女たちはお互いの手を繋いだまま湖に身を投げてしまいました」
「え……」
予想していなかった結末に言葉を失う。
二人に待っていたのはハッピーエンドではなく取り返しのつかない悲劇だった。
どうして死を選ぶ必要があったのだろう。せっかく駆け落ちしたのなら、そのまま二人で暮らしていけばよかったのに。お互いを想い合っていたんでしょ?
「当時は身分社会で貴族と庶民の恋愛など到底認められなかったのです。しかも、同性愛に対する理解は今よりもずっと低かった。苦境に立たされた彼女たちは、絶望するしかありませんでした」
「だからって、死ぬのは間違ってるよ」
「ええ。彼女たちは間違えてしまったのです。運命に抗う方法を。たとえ世の中が許してくれなくても、自分たちの愛を貫くべきでした。いえ、ある意味では彼女たちも愛を貫いたといえます。その答えが心中だったのです」
愛し合うことが許されない。そんな状況を打開するために二人が選んだ方法は、私には理解できないものだった。
命を投げ捨てるのはおかしい。生きてさえいれば、もっと違う結末が待っていたかもしれないから。二人は早まるべきではなかった。他の方法を模索するべきだった。
「私は二人の恋を叶えたいと思いました。女性同士の恋愛には美しさと切なさがあることを知ったからです。ですが、まだ未熟だった私は同性愛がタブー視される社会で二人を結びつけることが果たして本当に正しいといえるのか、答えを出せぬまま躊躇していたのです」
その頃のユリエルさんの中には葛藤があったのだという。たとえ禁断の愛が実ったとしても、彼女たちが幸せになれるとは限らないからだ。
二人は人々から差別され、偏見の目に晒されながら生きていく。そんな未来がよぎったのだろう。
「彼女たちの悲劇を防げなかったのは、私に勇気がなかったからです。本当は私が二人を正しい道へ導くべきでした。たとえ世間から何を言われようとも、愛を信じて進むように促すべきだったのです」
ユリエルさんの表情には後悔の念が滲み出ている。
彼女は今でも責任を感じているようだ。
「それ以来、私は女の子と女の子の恋を全面的に支援することに決めました。彼女たちの尊い関係を守りたい。その一心で百合のカップリングに専念するようになったのです」
ユリエルさんのことをただの百合好きだと思っていたが、彼女がガールズラブに強いこだわりを見せる理由は、このような悲しい過去を経験しているからであった。
「ですから、紗友里さんの恋も必ず叶えたいと思っています。あなたには正しい方法で、運命に抗っていただきたいのです」
彼女は迷いのない笑顔でそう言った。
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