6話 幼馴染との再開2
「そうなのって・・・ミサキ」
卓人は先ほどとは少し表情を変え、呆れ顔でこちらを見つめている。
(あーもう俺のアホ!もう正直に卓人に話すべきか?)
ミサキは恐る恐る卓人の顔を見つめて口を開いたがミサキの声をかき消すほどの大きい声が校庭から聞こえてきた。
「卓人ー!お前取りに行くのにいつまで時間かかってんだー!」
卓人は今行くと返答し、困った顔でミサキを見つめた。
「ミサキごめん。そろそろ行かないと。ただ久しぶりに話せて嬉しかった。じゃまた」
そう言って卓人靴を履き替え走って行ってしまった。
ミサキはどんどん小さくなっていく卓人を見つめたまま、ほっと一息ついた。
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「おせーよ卓人!何やってたんだ?」
既に新入部員達が集まっておりミーティング中のようだ。同じクラスで友達になった峯岸が手をこちらに振っている。
卓人は走ってミーティングの輪に溶け込む。現在本日の練習内容などを話しているようだ。監督は気にしていないようだが既に練習に入っている2、3年からの鋭い視線を卓人は少し感じた。
普通の一年生であれば、焦った表情をするであろう。卓人は表情がコロコロ変わる方ではない。ミサキは長い時間を過ごしたため表情変化に気が付くが知らぬ人からすれば全て無表情そのものだ。だが今の卓人の内心はかなり気が緩んでいた。
(ミサキ…意外と元気そうで良かった。)
そんな卓人の雰囲気を感じ取ったのか峯岸は小声で卓人に話しかけてきた。
「練習靴取りにってただけなのに遅かったじゃん。何してたんだ?」
「ああ。幼馴染と話してた。」
「それって女子?」
「そう」
「羨ましいなー。名前は?」
「…城島」
「城島…。えっ?もしかして3組の城島ミサキ?」
「そうだけど」
「マジで!?3組の超絶可愛い女子って話題になってる子だぞ!?その女子と幼馴染って…今度紹介してくれよ!」
卓人が否定しようと峯岸の方を向いた時--
「君たち。なーに喋ってんの?」
後ろから声がしたので卓人と峯岸は振り返る。そこには、恐らく2年生と思われる紫髪の顔が整った爽やかな男子生徒が立っていた。
「「先輩。すいま」」
振り返って謝罪しようとした際、真ん中で話していた監督がこちらに視線を向けてきた。
「内藤とお前ら!何話してんだ?ミーティング中だろうが。」
((やばい。報告される))
2人は青ざめた表情になったが紫髪の生徒は意外な返答をした。
「すいません監督。彼らの靴紐ゆるゆるだったので、この後の練習で怪我するぞって注意してたんです。」
「なるほどな。おい、他の奴らも靴紐確かめとけ!」
監督は他の一年に指示を出し皆一斉に靴紐を確かめ始めた。場が収まったのを確認した内藤が持ち場に戻りそうだったので、卓人は声をかける。
「内藤先輩。すいません。ありがとうございます。」
「気にしないで。でも気は抜かないようにね」
「「はい。」」
卓人と峯岸は持ち場に戻る内藤に深くお辞儀をした。
内藤は2人から離れた後、聞こえないように呟いた。
「へぇー。冨波卓人とミサキちゃんは幼馴染なんだ。偶然だけど、いい事聞けたよ。」