5話 幼馴染との再開
放課後ミサキは廊下を歩いていた。大半の一年生は部活動に体験入部に勤しんでおり、窓をちらりと見ると掛け声を出しながら走る川島の顔がチラリとみえる。
(川﨑は前と同じテニス部か)
ミサキは中学時代はサッカー部に所属していた。理由は幼馴染が入った為、じゃあ俺もという軽いノリだ。高校時代はというと、最初サッカー部に所属したが、バイトと恋人(杏奈)に時間を割りすぎてしまい、ほぼ幽霊部員といった感じだった。
ふと、ミサキは(女の俺は中学時代は何部に所属していたのだろう。)と思った。幼馴染は男である為、男子サッカー部への所属はマネージャー等で無ければ不可能だろう。
そう思いながら歩を進めると階段から男子生徒が降りてくる。
(ん?あれって・・・卓人か?)
降りてきたのはミサキの幼馴染の冨波卓人だった。身長は180cmほど。髪は短く整えて、目鼻が整った美男子だ。特技はサッカーで中学時代はU15に選ばれ日本代表選手になったほどだ。ミサキが男だった際はお前と幼馴染である事が誇りだと周りに言いふらしてしまうほどの高スペックだ。ミサキは思わず声をかけてしまう。
「おーい卓人!」
「ミッミサキ?」
声をかけられた卓人は驚いた表情でこちらを見つめ、呆然と立っている。その表情が見たことない表情だったので、ミサキは弄りたくなるスイッチが入ってしまう。
「そうだよ。お前の幼馴染のミサキ君だよ?別のクラスになったからって忘れちゃったなんて酷いぜっこの!」
「ミサキ・・・君?なんだよ君って。っていうかミサキなんか変わった?」
ニタニタと笑いながら卓人の脇をつつくいたミサキだったが、変わったと言われ慌てて訂正する。
(ヤバッ俺今女だった!)
「別に変わってないぞ、わ、よ!?私は前からこんなだわよ、ですわ!?」
ミサキは手をパタパタさせながらオーバーリアクションで訂正する。慌てた表情でミサキはチラッと卓人を見たら手を口に当て笑っていた。
「ははっ。慌てすぎ。ごめん冗談。久しぶりに話しかけてきたと思ったら、変なノリでつい意地悪したくなった。」
「なんだよそれ!慌てて損した。」
(あっぶねー!やっぱり親しすぎる奴にはどうしても素が出てしまうな。気を引き締めなきゃ。)
ミサキは内心胸をなでおろし、ふと卓人の服装に目を向けた。制服ではなく運動着を着用し、手には小さい袋を持っている。恐らくグラウンドへ向かう途中だっただろう。
「あっごめん。部活中だった?」
「いや、気にしないで。そんな事より、ミサキの方が大事だから。」
「ん?ああ。それならいいけど。」
(大事?ああ久しぶりに話したって言ってたし春休み中は会ってなかったのだろう。それにしても短期間会ってなかったってだけなのに、可愛い奴だな。)
ミサキが男の時には微塵も思わなかったが、これが母性という奴なのだろうとミサキは内心思った。
「それで、ミサキはどこの部に入るか決めた?」
「まだ決めてないんだよね。そうだ卓人。私って中学時代は何部だったっけ?」
卓人はえっ何で?と当たり前のリアクションをした。ミサキは慌てて訂正する。
(しまった直球過ぎた!)
「ひっ久しぶりに会ったじゃん?私達!忘れてないかの・・テスト!そうテストしようかと思って!!」
「テストね・・ふーん。」
我ながらナイスアシスト!と胸をなでおろすミサキに卓人は少し嫌そうに答えた。
「ミサキはサッカー部だったよ。」
「へ?そうなの?」
ミサキの情けない声が廊下にこだました。