2話 美少女特権と焼きそばパン
(痛みも感覚もあるのに夢じゃない。)
入学式から一日経った。
ミサキは自分の置かれた状況を少しずつ整理していった。
記憶事態は男の時のままで、女時代の記憶は全く無い。帰宅後、両親にさり気なく私は男がと聞いてみたら、ミサキは生まれてからずっと女の子だよ?いじめられたら、直ぐに話してね。などと可哀想な子に話しかけるような反応をされてしまった。その後も色々と話したが男の時と女のミサキの性格はほぼ同じで記憶もほとんど変わらないようだ。またクラスのほとんどが面識がなかった為、中学時代を変に意識しなくてもいいのが救いだった。
席に座って考えていると、男子が話しかけてきた。
「ねぇ、昨日は早乙女と何話してたの?」
「あぁ、おれっ私がクラスになじめるかなって相談してただけだよ」
「初日なのにそんな相談してたの?城島さん面白いね。」
(この世界で俺は女だ。何としてでも杏奈が待ってる世界に戻らなければ!だが俺が元の世界に戻った時、女の俺が困る状況にはしたくない!正直嫌だが、女っぽく振舞おう。)
そんな話をしていると続々と他の男子が俺も俺もと話に入ってくる。
これも不可解な点だ。
ミサキはただ女になったわけでなく、超が付くほど美少女になっていた。
シルクの様な黒髪。宝石のようなグリーントルマリン色の瞳。そして真っ白な肌と華奢な身体つき。そんな外見を持っているので、少しでもお近づきになりたい男子が寄ってくる。
(夢なら早く覚めてくれ。男に囲まれても一ミリもうれしくないんだが!)
そう思いながらチラリと他の女子に目を向けると目が合った瞬間すぐさま無視される。男子達と話をしながらミサキは内心項垂れる。
(杏奈から男子達と仲良くしてる女子って女子達からヘイトを買いやすいって聞いたことあるけど本当だったんだ。)
ミサキは最初の行動を後悔するが、男子達とのやり取りは昼休みまで続いた。
昼休みミサキは別の人との約束があると男子達の誘いを断り食堂に来ていた。
正直噓だったが、困り顔を男子達に見せつけると以外とあっさり押し通せた。
(美少女って最強なのでは?)
そんな事を思いながら食堂へ向かった。食券は買わない。食堂で食べていたらクラスの男子達に見つかるからだ。横の直売り場で焼きそばパンを2個購入して食堂を後にする。
校庭が見える人気のない芝に座ると携帯で状況を現状を記録していく。断り切れず登録してやった男子達からの通知が画面に何度も表示され苛立ちを感じつつパンを齧る。
(懐かし美味い。)
お腹が空いていた事もあって頬が緩んでしまう。一旦全部食べてしまおう再びパンに齧り付くが、予想以上にお腹が膨れていく。
男の時は食べ盛りなのもあってパン1個で足りるか悩んだ末2個にしたが、1個目で限界に達してしまった。
(もう一個は持って帰ろ)
そう思いながら袋にパンを包んでいると隣に男子が座ってきた。
「えっ誰?」
予想外過ぎる展開だった為思わず声に出してしまった。男子はこちらを見つめてニコッと笑顔を向けてきた。結構顔が整った爽やかな外見の男子だ。ミサキは知った顔か思い出す為男子の顔をジッと見つめてしまった。
「そんな見つめないで、照れる。それとも顔に何かついてる?」
男子は笑いながら問いかけてきた。
「えっ何もついてないです。ただいきなり隣に座ってきたのでビックリしてつい見ちゃいました。」
ミサキは何だこいつと思いながら返答する。男子は目を少し見開いて驚いた顔をしたと思ったら直ぐ笑顔に戻った。
「実は校庭でサッカーしてたんだけど、つまんなくて、たまたま君を見かけて声かけたってだけなんだよね。」
「つまりナンパってやつですか?」
ミサキは午前中の男子達相手で疲労し、どうせ二度と会わないだろうしと思い直球で質問した。
男子はまた驚いた表情を見せると、「まぁ、そうかもね」と返してきた。
「なら、学年とお名前も分からないので、そこからお聞きしてもいいですか?」
「ははっ。ごめんそうだよね。驚かせて、俺は2年の内藤。内藤皇帝。君の名前を聞いてもいいかな?」
内藤は爽やかに笑いながら答えた。
(内藤皇帝。やっぱりこんな人俺の記憶には居ないな。)
それが確信に変わりつつあったので、ミサキは立ち上がりながら
「私は1年3組の城島ミサキです。そろそろ昼休みが終わりますので、失礼します。内藤先輩あっ、これ食べきれなかったので、良かったら食べてください」
ミサキはパンを内藤に投げ渡しそそくさと校庭を後にした。何か内藤が喋ってるような気がしたがそのまま教室へ戻った。