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これは魔王討伐を終えたあとの、とある勇者ととある少女の物語

これは魔王討伐を終えたあとの、とある勇者ととある少女の物語~すくすくと育つ子供~

作者: 池中織奈

「これは魔王討伐を終えたあとの、とある勇者ととある少女の物語」のその後の物語にあたります。

七作目です。

 勇者。

 それは神に選ばれ、魔王を倒すことが定められているもの。

 神からの祝福を受けたそんな存在。

 勇者は、この度、魔王を倒すことに成功した。それも、ほんのわずかな期間で。

 歴代最高の勇者と呼ばれる存在。

 それが、今代の勇者———エセルト。

 家名が存在しないのは、彼が平民の出だからである。

 歴代の勇者は、魔王討伐を完遂出来た際に神から褒美を受け取っていたという。それは、富だったり、名誉だったり、理想の美女だったり、神は勇者の願いを叶えてきた。

 しかし————、今代の勇者が、何を望み、何を手に入れたのかは勇者自身しか把握していないことだった。



 さて、そんなこの世界を救った勇者は、妻である少女と共に子供をもうけた。




 



「パパ!」

 勇者であるエセルトと、その妻であるシャーリー。その子供である小さな少年、ジャレントはエセルトへと手を伸ばす。

 エセルトはジャレントの身体を抱きかかえる。そうすればジャレントは嬉しそうに笑った。

 父親に抱きかかえられて、嬉しそうな様子のジャレントを見て、エセルトも笑った。

 エセルトとシャーリーは、ジャレントを産んだ小さな村で過ごしている。エセルトとシャーリーがこの村にやってきて、しばらくが過ぎている。その間、エセルトは勇者だと知られていない。そしてシャーリーが勇者の妻だということも、ジャレントが勇者の息子だということも――この村では知られていないことだ。ジャレント自身も自分が勇者の息子だとは知らない。

 エセルトもシャーリーもそれでいいと思っている。

 勇者であるという肩書は、どうしようもないほどに面倒なものである。エセルトが勇者であるという事実は、本人であるエセルトにも、妻であるシャーリーにも、その子供であるジャレントにものしかかってくるものである。

 いずれジャレントもエセルトが勇者だと知るかもしれない。いや、いずれ知ることだろう。秘密というのはいつまでも隠し通せるものではないのだから。

 エセルトにもシャーリーにも、いずれジャレントがその事実を知った時にどんな風に動くのかというのを想像が出来ない。結局のところ、親子とはいえ他人である。

(どんな風にこの子は生きていくだろうか。エセルトは勇者であり、そして私はエセルトの幼馴染。私は勇者であるエセルトによって何度も繰り返されたこの世界の記憶を覚えている。――エセルトは私を諦められなくて、世界を何度も繰り返した。魔王は同時期には生まれないから、この子は一度だけの人生を歩む。まだ小さなこの子がどんなふうに生きていくのか私は楽しみで仕方がない)

 シャーリーは、ジャレントを抱きかかえるエセルトを見ながらそんなことを考えた。

 この世界は、勇者であるエセルトの神への願いによって何度も何度も繰り返された。

 エセルトという勇者は、シャーリーという少女が生きるまで――ただその人生を繰り返した。その繰り返した人生の先、エセルトがつかみ取った未来が今である。

 その事実を知るのは、勇者と、少女と、神のみである。



 



 *




 あはははは。

 本当に面白いなぁ。あの勇者が子供を抱いて、そして楽しそうに生きている。

 彼女が亡くなる度に、繰り返す度に、勇者はその心を失って、感情を無くしていっていた。あの頃の勇者を知るものが今の勇者を見たら驚くことだろうね。

 無表情で、ただ黙々と魔王を倒すことだけをしていて――それでいて誰にも興味を持たなかった勇者。そんな勇者が妻を持ち、子を持ち、当たり前の幸せを謳歌している。僕はその事実が嬉しいよ。




 *



 エセルトとシャーリーの息子であるジャレントにとって、両親というのは大好きな存在である。

 黒髪黒目の美しい顔立ちの父親。その父親は、剣の腕もすさまじい。魔法だって使える。魔物が現れた時になんでもないことのように魔物を倒したところはジャレントの目に焼き付いている。

 そして赤髪のかわいらしい顔立ちの母親は、そんな特別感が溢れる父親に唯一意見が出来る人で、優しくて真っ直ぐで、ジャレントはその母親が大好きである。

 何よりも両親が互いに思いあっていることが見て取れて、いつもにこにこしてしまう。

「エセルトさんはねぇ、本当にシャーリーのことが好きなんだよ」

「あんたが産まれた時もね、エセルトさんはそうだったよ」

「いつもエセルトさんはシャーリーちゃんのことばかり考えているんだよ」

 村の女性たちにそういう言葉をかけられて、ジャレントはにこにことしてしまう。

 この小さな村では、誰もが知り合いのような環境である。ジャレントが産まれてから三年間のことをこの村の大人たちはよく知っている。ジャレントのことを自分の子供のようにかわいがっている者達も多いのである。

 それにエセルトもシャーリーもこの村の中で慕われている。二人ともこの村のために動いている。それでいて互いに思いあっている夫婦と、可愛い子供というのは村人たちにとっても見ていて微笑ましい家族なのである。

 ただ村人たちも、エセルトとシャーリーが何処で出会ったのか、この村に来るまでの過去も知らない。

 ジャレントが気になって問いかけても、村の人たちがそれを答えることは出来ない。……エセルトとシャーリーはあまり村人たちに自分たちの過去を語っていない。時折昔からの仲だとでもいう風な言葉はかけているが、それだけである。

 どちらにせよ、エセルトもシャーリーもこの世界がエセルトの望みのために繰り返されていたことを誰かに告げるつもりはない。その事実はエセルトとシャーリーの胸の内に秘められていることである。

「ママとパパは、何処で出会ったの?」

 なので、エセルトもシャーリーもその言葉を聞いた時になんと反応したらいいのか分からなくなったものである。

 無言になるエセルト。そんなエセルトはシャーリーに視線を向ける。その視線が「何と答えよう」と困っているのが長い付き合いのシャーリーにはよくわかった。

「……ジャレント、私とエセルトは昔からの知り合いなの。でも詳しいことはもっと貴方が大きくなってからね。ただ一つだけ言えることは私はずっと昔から、本当に最初からエセルトのことが大切だった。そしてエセルトも嬉しいことに私を大切に思ってくれていた。それは事実よ。そしてそれで産まれたのが貴方よ。私の可愛い息子」

 ジャレントは、シャーリーの言っていることが理解出来なかった。でも理解出来なくても、シャーリーがあまりにも優しい笑みを浮かべているから、何だっていいかなとジャレントは思う。




 *


 勇者と彼女の関係性は複雑だからね。

 語る事も難しい。今の人生しか知らない人からしてみれば、何故彼女が勇者の妻なのか知らない。

 だからこそ彼女に成り代われるなんて馬鹿なことを考えるし、彼女が何故そうなのかを理解しない。

 勇者は彼女が幸せになるためだけに何度も何度も人生を繰り返し続けた。精神が疲弊しようが、それで色んなものを失ったとしても、それでも彼女だけは諦められなかった。

 勇者と彼女の子供も、いずれ彼らがどういう存在か知った時、彼らの子供はどんな風に思うだろうね?

 僕は彼らの子供がどんなふうに育つのか今から楽しみで仕方がないよ。






 *



 ジャレントは、両親がどんなふうに出会ったか、どんな風に生きてきたか、そういうことを詳しくは知らない。でも優しい笑みを見ると例えばどういう過去を彼らが持っていたとしてもどうだっていいとそんな気持ちになる。

 まだ幼いジャレントだからこそ、そういう気持ちになるというのもあるだろう。

 もっと大きくなって年頃になったら、反抗期も起こるかもしれない。その時はどうなるか分からないが、まぁ、その時はその時である。

 エセルトとシャーリーは、何度も人生をやり直していて人生経験だけはあるので、どうにでもするだろうが。

 さて、そんなジャレントだが、村には同年代の子供というのがいない。

 遊んでくれるのは少し年上のお姉さんお兄さんたちである。ちなみにその少し年上の子供たちに大変ジャレントは可愛がられている。エセルトによく似ているジャレントは、将来かっこよくなりそうだと思われているのもある。

 ついでにいうと勇者であるエセルトと、何度かの人生でエセルトの旅について行った白魔法の使い手であるシャーリーの血を継いでいるジャレントは将来有望で、既に魔法を使えたりもする。

 ――きっとこれからこの世界で生きていく中で名を残していくのではないかと周りも期待している。それだけ特別な雰囲気を醸し出していると言えるだろう。

「ジャレントは、どういう人と結婚したいの?」

「んー。ママみたいな人!!」

 まだ幼いジャレントにとって、自分の愛する人というのはまだまだ分からないことである。

 ただ仲が良い両親を見ていたので、当たり前のようにそういう相手に出会えて、当たり前のように結婚して幸せになれると思っている。

 ……現実何てそれだけ心が通じ合っている夫婦なんて沢山いるわけでもなく、離婚というのも溢れていたりする。そういう現実をまだジャレントは知らない。

「シャーリーさんかぁ。シャーリーさんも不思議な雰囲気だよね」

「なによりあのエセルトさんを射止めれたってのが凄いと思う。なんかエセルトさんってシャーリーさん以外に話しかけられても無表情だったり、なんか人間味がなかったりするってお母さんが言ってた」

 ――シャーリーと生きる今の中で、エセルトは少しずつ自分というものを取り戻し、ちゃんとこの世界を”生きている”。

 けどまぁ、シャーリーやジャレントという家族以外と一緒にいないときは無表情である。

 ジャレントはいつも笑顔を向けられているので、そういう父親を語られてもよく分からないというのが本音だ。

 あくまでジャレントにとってはエセルトもシャーリーも大好きな両親でしかない。そういう風に言われてもはてなマークを浮かべている。そんなジャレントを見て、周りは「可愛いなぁ」と可愛がるのである。




 *



 彼と彼女の息子は何か、人たらしになりそうだなぁ。

 自立するのがいつなのか分からないけれど、きっと彼も面白い人生を歩む。だって彼と彼女の息子だから。

 きっとあの子はまさかと思うだろうけど、僕はあの子の人生も見続ける。

 だって彼の望みは、彼女を幸せにすることだから。彼女の幸せは彼の幸せで、あの子の幸せ。

 まぁ、勇者はそんなところまで考えていなかっただろうけど。どちらにせよ、僕は彼らのことは見続けるけど。



 神は笑っている。

 神は勇者に親しみを持っている。そしてその妻と、子供にも。



 *




 ジャレントは、神に祝福されていることも、見守られていることも知らない。

 知らないままに、彼は見守られながら生きている。

 ――彼は漠然とただ、いつか好きな人を作って、両親のような家族をつくること。そしてこの村しか知らないからこそ、もっと他の世界を知ること。

 ――そういう未来をジャレントは描いている。

「パパとママみたいに、なりたい!」

 そういったジャレントの頭をエセルトは優しく撫でて、シャーリーは優しく見守っている。

 エセルトが魔王を倒した勇者であったという事実がある限り、それは彼らについて回る。エセルトもシャーリーも、エセルトが勇者だと知らないままに、すくすくとジャレントが育つことを望んでいる。

 とはいっても例えば、予想外の所でエセルトが勇者だと知られてもそれはそれで対応するだけなのだが。

「可愛いわね、子供って」

「ああ」

「私とエセルトみたいになりたいって、そういう仲が良い夫婦になりたいって。ふふ、私とエセルト、それだけ仲がよく思われてるのね」

「ああ」

 眠っている息子を見ながら、エセルトとシャーリーはそんな穏やかな会話を交わす。




 魔王を倒した勇者は愛しい少女と共に幸せに生きている。息子が出来、幸せそうに微笑む勇者はこれあから先の幸せな未来を見据えて笑う。



「ねぇ、エセルト。私、女の子も欲しいわ。ジャレントに妹をつくろうね」

「……ああ」

 そう口にして、エセルトはシャーリーに口づけをした。そして二人は嬉しそうに微笑みあう。

 




 *



 それにしてもあれだけヘタレた勇者が自分からいっているのをみると成長したなって思うね。

 勇者と彼女にもっと子供が産まれたら楽しいだろうなぁ。どんどん子だくさんになればいいのに。

 そしたら全員、僕は見届けるんだから。

 幸せになりなよ、勇者も彼女も。



 神は笑う。

 勇者と少女が幸せになることを望んで。

 そしてずっと見届け続けた彼らが幸せそうに笑っていることを見るのが嬉しいと告げる。

 ――神は彼らの子供たちまで見届ける気満々である。




 ――これは魔王討伐を終えたあとの、とある勇者ととある少女の物語~すくすくと育つ子供~

 (何度も繰り返し続けた勇者と少女は、子供の成長を見守っている)




エセルト


勇者。幼馴染が死ぬ未来を拒否し、数えきれないほど時間を逆行させてやり直ししていた人。

黒髪黒目の美形。あきらめが悪すぎて神に呆れられてた。神とは何度も願いをかなえよう→やり直してくれを繰り返していた。やり直しすぎてスペックは異常に高い。

シャーリーのことは大好きである。シャーリーが生きる未来のために何度もやり直したのは執念である。シャーリーが生き残るためにシャーリーとかかわらずに生きた今回の人生でもシャーリーが居ないのは嫌なので、同じ街に住んでいるぐらいである。シャーリーが全て覚えていなければただのストーカーな感じである。

シャーリーが死んだ要因のいくつかに王女様がいるので王女様のことは大っ嫌い。

そしてシャーリーが生き残った今回でも、願いは「シャーリーが幸せになりますように」といっちゃうぶれない勇者。でもシャーリーに一度も好きだとか告げてこなかったヘタレ。態度でバレバレ。

何百回も繰り返し続けて割と無欲。そのせいでシャーリーとすれ違った。ヘタレなので、中々行動に起こさない。シャーリーと一緒に居るからこそ徐々に表情や感情が戻ってきてる。

シャーリーと未来のことを語れて嬉しい。シャーリーが隣にいる事が嬉しい。そしてようやく周りにも気をむけられるようになった。

子供が可愛くて仕方がなくて、幸せ。



シャーリー


赤髪の少女。

死ぬ運命が強すぎて何度も何度も何度も死んでいた人。そのたびにエセルトがやり直していた。

今回エセルトとかかわらずにいてようやく魔王討伐を終えるまで死ぬことはなかった。

白魔法の適性が異常に高い。勇者と旅した人生の中では「聖女」と呼ばれることもあったぐらいである。

気まぐれに神がシャーリーと会話した際に、「忘れたくない」と告げ、エセルトが魔王討伐後に色々思い出した人。思い出してみて、数えきれないほどやり直してまで自分に死んでほしくなかったのか……とエセルトの重い気持ちに驚きや戸惑いも沸いたが、嬉しいと思っている。

エセルトが自分を抱かないため不安に思ったが、エセルトの言葉を聞いて吹っ切れた。その後、エセルトをベッドに自分から連れ込んだ。

エセルトが相変わらずヘタレなので、自分からグイグイ行く。記憶にある思い出を本当にしようと行動中。



グイグイ行った結果子供が出来たけど、嬉しいのでよしと思っている。もっと子供を作りたいと思っているので、エセルトをもっと襲う気満々である。幸せ。もっと子供を作ってエセルトも幸せにしたい。




エセルトが何度もやり直し、エセルトと何度も会話をしていくうちにエセルトにそこそこ情が沸いている。あきらめが悪すぎて面白がっている。

エセルトがシャーリーと一緒にいれそうで良かったよかったと思っている。

ちなみに魔王を倒した際、勇者の願いをかなえるのは特別であるが故に散々苦労をしているから。大切なものが失われたりとか、勇者が特別だから発生する運命。危険な存在である魔王を倒してくれてありがとう、という意味も込めて、願いを叶えている。あんまり願いを叶えすぎると上司的な神に怒られる。

人を生き返らせるのはしてはならないとされている。やり直しはまだ怒られない範囲。

エセルトとシャーリーを見るのが楽しくてよく覗いている。覗きすぎて上位の神に怒られてたりする。

神だけど、普通にエセルトとシャーリーの事を贔屓している。幸せになってほしいと見守り中。エセルトとシャーリーの一生を見守る気満々。幾ら子供が産まれても全員見守りたい。


ジャレント


エセルトとシャーリーの息子。

すくすく育っている。両親のことが大好き。いつか好きな人を見つけて両親のような夫婦になりたいと思っている。



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[一言] 御本人が好きで書いている物語なだけに、特別な味があり、楽しく読ませて頂いて居ります。
[気になる点] ジャレントが大人になったときエセルトは子離れできるかな? それはともかく、エセルトが自分の子どもにも愛情を注ぐことができていて良かったです。 [一言] 面白かったです! ジャレントが素…
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