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忘れられない恋 一
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和紀は、理沙を地元では有名な時計台に呼び出していた。
そう、その日は12月の始め。まだ初雪は降っていないが曇り空のその日、和紀は理沙に「ある想い」を伝えようとしていた。
『…しかし南沢さんを呼び出すの、勇気がいったな…。』
和紀と理沙との出会いは、高校で同じクラスになったことである。
最初、和紀は同じクラスになった理沙のことを「可愛らしい子だな。」と思ったが、それ以上の感情は持っていなかった。
そんな和紀の心に変化が訪れたのは、和紀と理沙が体育祭の実行委員に選ばれてからである。
「…これから準備とか色々大変だけど、よろしくね和紀くん!」
「はい、南沢さん…。」
今まで女の子と話すのがそれほど得意でなかった和紀は、理沙の「和紀くん」という下の名前の呼びかけにも関わらず、緊張して「南沢さん」と名字で返してしまう。
またそんな和紀とは対照的に、理沙は笑顔で和紀に対して接する。
『僕…これから大丈夫かな?』
その時和紀は、少しばかりの不安を持った。