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13年後、『公開』予定  作者: 深海浩志
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7『籠の中』

「『女流作家、『公開』処刑。動画をきっかけに受賞作が後輩の作品の丸パクリだったと判明。受賞取り消しに』・・・か・・・『自分が書いたから売れた』と言ってた割に、何一つ直さずそのまま発表してたんだな・・・」

警察が自宅から押収したノートと比較し、誤字脱字の修正以外は一言一句違う所は無かったと記事に書かれていた。画面に入ったノートの文字と実物を比較検証し、そのノートが動画の中の後輩のノートと同一と見て間違いないという事も科学的に証明されている。

つまり、言い訳の利かない完全な盗作だったという事がはっきりしてしまった。もう彼女は、二度と筆を取る事が許されないだろう。

受賞によって有名になってしまった分、掌を返すように周りからの風当たりも強いだろうな・・・


(実際にこの話を書いた後輩はどうしたんだろう?出版社は全力で探しているみたいだけど・・・)

完全に創作意欲が折れていたら、もう二度と筆を取る気は無いだろうし、受賞も辞退するだろう。

そこまで行ってしまっていたら、最早穂村さん1人の問題じゃない。本当に才能のある女流作家を潰した大戦犯として、後ろ指を刺されて生きて行かなければならない。


彼女の人生は、栄光から一転―――地獄に墜ちた。




盗作が発覚する原因となったのは、様々な動画サイトに一斉に投稿された、『撮影者』という投稿者名の人物が投稿した動画だ。その動画には、中学生だった頃の穂村菜々さんが、後輩から受賞した物語が書かれたノートを奪う、まさにその瞬間が収められていた。

その前にも1つ動画が投稿されており、それは僕、真壁静が中学時代に誰も居ない教室でBLイラストを描いていた動画だ。まだまだLGBTへの偏見が無いとは言えない世の中では生きづらくなっていたかもしれないが、幸い既にそれをカミングアウトし、どころかBL漫画家になっていたから何の被害も受けなかった。


(・・・まぁ、TUITTERとかに拡散された動画に罵詈雑言のコメントを書き込む人も居るけど・・・)

心無い人や迷惑など何も考えていない人に拡散された事によって、2つの動画はあっという間にSNSで世界中に広まってしまった。特に穂村さんの方は、ほぼ10割誹謗中傷コメントを投稿されていたので見るに堪えない。僕の方は3割程度で良かった・・・


(実害を被るのは、僕のクラスの人達だけ・・・無関係な人から見れば、見世物感覚なんだろうな・・・)

世間の無責任さに黄昏れながら、まだ公開されていない3つ目の動画を見る。


動画は一週間に一度新しい動画が配信される形になっていると思われる。1つ公開すると、次に公開する動画のタイトルだけ明かされる。そして動画の数は最初から公表されており、全部で42個・・・僕のクラスメイト全員分の数の動画が用意されている。


通報などをして公開を止めるには、パスワードが必要な特殊なプログラムが組み込まれている。

パスワードのヒントは―――『最後の動画の犯人の名前』

先にタイトルだけ明かされている最後の動画は、『30 秋空の轢死』。中学3年の秋に駅で線路に転落し、電車に轢かれて死亡した、庄司英理さんの出席番号が冠されている。

つまりこれらの情報は、暗に庄司さんが事故に見せかけ殺されたのだという事を示唆している。

『撮影者』はクラスメイト達の秘密を握り、迫っているのだ。その秘密をバラされたくなければ、犯人を見つけ、罪を償わせろと。


(単純にクラスメイトの誰かの名前を書くだけじゃダメみたいだ。全員の名前を試してみたけど、どれも違った)

パスワードのヒントは、『ヒント1』と書かれていた。つまりヒント2以降の何かで、犯人の名前を変換するなり、何か付け加えるなりする必要があると思われる。

最も、犯人がクラスメイトの誰かとも限らない訳だけど・・・だったらクラスメイトに犯人を捜させても辿り着けないか。やはりクラスメイトの誰かだから巻き込んだんだろう。


原稿が上がった日曜日、自宅で何となくTVを見る。丁度野球の試合の中継が始まっていた。


「・・・あー・・・『彼』は今日も出ないのか?・・・まぁ、無理もないか・・・」

あまり見る意味も無さそうなので、スマホに視線を落とす。


(あと30分弱で、3つ目の動画の公開時間か・・・)

楽しみ・・・だなんて思わないけど、動画以外に『撮影者』に繋がるヒントも無いと思うし、つい待機してしまう。

その直後―――




ピンポーン




「・・・? 誰?」

突然自宅のインターホンが鳴った。


「はい、どちら様ですか?」

『あ・・・俺だ。海崎』

「海崎君!?」

『あぁ。上がらせて貰って良いか?』

「・・・別に良いけど・・・よく分かったね、僕の自宅。まぁファンレター募集で普通に公表してるから分かるか」

玄関を開くと、元クラスメイトの海崎君が立っていた。


出席番号7番 海崎 慎哉


彼こそが、今夜の『公開』処刑の標的となっている男だ。


(・・・やっぱり、服の上からでも分かるぐらい、しっかりしたガタイをしてるなぁ。中学の頃から、もっと引き締まった感じがする)

「・・・おい、俺はそっちの気は無ぇからな?」

「分かってるよ。単に体格の参考資料にしたいだけだから」

「あぁ、漫画家だったな」

玄関に立たせてばっかりも悪いので、とりあえずソファに案内した。


「それで、何か用?」

「あぁ、これなんだけど・・・」

そう言って海崎君は、懐から財布を取り出し5万円を僕に渡して来た。


「え、これ・・・」

「釣りは利子っつー事で、そのまま貰ってくれ」

「でも・・・」

「・・・分かってる。こんな程度じゃ償いにならねーかもしれねぇってのは・・・所詮俺のためだ。『公開』処刑が少しでもダメージにならねーようにってな・・・」

「まぁ、そうだけど・・・」

とはいえ、僕は海崎君に対しそこまで悪印象は無い。あくまで他と比べて、だけど・・・




『よぉ~真壁!相変わらずデブってんな~』

『海崎君・・・』

『どーせスポーツとかやって痩せる予定無ぇだろ?ならちーとばかし、部活でカロリー消費しまくるスポーツマンに恵んでくんね?』

『えぇ、また?三日連続じゃないか』

『今度埋め合わせすっからよぉ!』

『そう言われても、返して貰った試し無いんだけど・・・』

『ほら、あれだ。出世払いって事でな!』

(・・・踏み倒す将来しか見えない・・・でも、これ以上いじめてくる人を増やさないための投資と思えば・・・)

『はぁ・・・何が食べたいの?』

『やりぃ!持つべきモンは友達だよな!』

(タカってくる関係を堂々と友達と言ってのける図太さが羨ましいよ・・・)




彼はいじめられている現状を圧力に、しょっちゅう軽食をたかりに来た。ただ、された事といえばそれぐらいで、懐はキツかったもののそれ以上の実害は特に無かった。

まぁ・・・お陰で自分のために使うお金はほとんど無かったんだけど・・・


(まぁ、返す気があっただけ良かった・・・と、言って良いのだろうか?こんな事でも無ければ絶対返さなかったと思うけど・・・それに・・・)

「なぁ、真壁・・・」

「え、何?」

急に話しかけて来た海崎君のために、思考が途切れた。


「・・・動画があるって事は、『撮影者』は庄司を殺した犯人を知ってるって事だよな?ならさっさと告発すれば良いじゃねえか。どうして俺達に犯人捜しをするよう仕向ける?」

「・・・分からない?そうした所で、罪を償わせられるのはその犯人だけじゃないか」

「は?そりゃあ庄司の復讐でやってんなら、償うべきはその殺人犯だけだろ?」

「・・・それが単なるいじめの一環で、ビビらせるだけのつもりが勢い余って線路に落としてしまったとしたら?」

「なっ・・・!?」

「そんな理由で死んだとしたら・・・他の誰に殺されていたとしてもおかしくなかったよね?・・・実際、暴行まで加えていた人だって少なくなかったし」

「それで俺達も連帯責任だっつーのか?俺は庄司には何もしてねぇぞ!」

「それと同時に・・・犯人捜しを通していじめを償えって考えなんだと思う・・・どうせ庄司さんの事なんて、綺麗さっぱり忘れてたんでしょ?」

「っ・・・そんな事・・・」

「・・・まぁそんな訳だから、明日から罪滅ぼしに犯人捜しでもしてみる?どうせ当分暇でしょ?」

「それは・・・」

海崎君は、『暇』というキーワードを受けて俯いてしまった・・・


彼は中学の頃からの生粋の野球部員で、今はプロ野球選手にまでなっている。

それだけではない。チームを背負ってマウンドに立つ、先発投手なんだ。

頭一つ抜けた速さのストレートを、七色の変化球に織り交ぜて投げる、決して軌道を読ませない投手。プロの試合で完全試合を達成した事だってある。


まさに天性の神腕ピッチャー。修仁中学が誇る天才アスリートだ。


そんな彼だが・・・今週の月曜日の試合から、少しずつ、加速度的に調子を落としていった。

打ち取られる回数がどんどん増え、木曜日はついに満塁ホームランを許してしまう。

金曜日はラジオによるとコールド負けを危惧され途中でリリーフと交替し・・・

今、生中継で試合が行われているにも関わらずここに居る通り、ついにベンチからも降ろされてしまった・・・


(無理も無い・・・『公開』処刑で一体何をバラされるか分からないんだ。被害者は気が気じゃないはずだ。もうこの時点で、海崎君は既に実害を被っている・・・)

しかも動画のタイトルは『籠の中』・・・・タイトルで動画の内容を示唆している割に、何の事かさっぱり分からない・・・

だから降板した事を利用して、心当たりを回って禊をしているんだろう。


「・・・僕の所が最後なの?」

「つーか、お前におごらせていた事以外に心当たり無いんだけど・・・」

「・・・本当に?」

「本当だって!」

「その程度の事で、降板させざるを得ない程調子が落ちるとは考えられないけど・・・」

「・・・そ、それぐらい後悔してたって事だ!」

「先発投手になって稼ぎまくっても、返す気なんて毛頭なかった割にはねぇ・・・」

「わ、悪かったって!今ちゃんと耳揃えて返したろ!」

「あのねぇ・・・っと、そろそろか」

時計で公開目前だという事に気付き、慌てて動画再生の準備をする。海崎君も隣から覗き込んで来たので、一緒に見られるようスマホを間に持つ。




・・・後から思えば、疑問に思うべきだったのかもしれない。




―――奢らされる『程度』で済んでいた事を




『よぉ岸本・・・今帰りか』

『あ、はい。そうです』

『ふぅん・・・』

「・・・え?」

まだ始まったばかりだというのに、海崎君は疑問符を漏らしながら真っ青になっている。


「何で、ここの動画があるんだよ・・・」

それもそのはず―――動画の舞台は明らかに、野球部関係者以外は普通立ち入らない、野球部の部室内だからだ。

そして・・・この時点で真っ青になっているという事は、つまり―――


ガチャッ


『・・・?ど、どうしたんですか?カギなんて掛けて・・・』

『お前さぁ・・・せっかく監督に目を掛けて貰ってショートに抜擢して貰った割に、この前の練習試合、思いっ切り取りこぼしやがったな』

『う・・・そ、それは・・・すいません・・・まだまだ練習が足りなかったです・・・』

『そうだな。だからお優し~い俺が、直々に特訓してやろうと思ってな』

『本当ですか!・・・あれ?でも、それでどうしてカギなんか掛ける必要が・・・』


ドンッ!


『痛っ!』

動画の中の海崎君は、後輩と思われる部員を壁際に追い込む。


『な、何を・・・』

『ほら、ちょっと小突いたぐれぇで簡単によろめきやがって・・・体幹の鍛え方が足りねぇんだよ!ペラッペラな体しやがって。どうして監督がお前なんか抜擢したか、理解に苦しむぜ』

『うす!すいません・・・』

『謝るぐらいなら、特訓に耐えて見せろ!』

『え・・・な、何を・・・』




ドゥッ!




『が・・・はぁ・・・っ!!?』

突然衝撃を受けた後輩は、おなかを抱えてうずくまる。




海崎君の手には―――木製のバットが握られていた。


『おら!何うずくまってんだ!さっさと立て!』

海崎君はバットを持っていない方の手で後輩の首に喉輪をかけ、無理やり立ち上がらせた。


『おら!次行くぞ!』

『アハッ!ゲホッ・・・!!』

『まだまだ!100回ぐらいやらねぇと、まともな腹筋なんて出来ねぇぞ!らぁっ!!!』

『ガ・・・!も、もう止め・・・ゲボァッ・・・!』

ついに耐えられなくなり、後輩はゲロまで吐き出してしまう・・・


『ったくよぉ、たった3回で吐くとか貧弱過ぎんだろ?やっぱ監督に言って、お前なんか降板・・・いや、部活辞めさせっか。お前みてぇな無能、要らねぇもん』

最早立ち上がる事すら出来ない後輩の腕を無理矢理引っ張り、木製の大棚の桟に紐で括り付け始める。


『こんな事・・・して・・・あんたこそタダで・・・済むと・・・』

『思ってるけど?むしろ監督から泣いて土下座して残ってくれって言われてるぐれぇだから。黙認とか当たり前だし』

『そん・・・な・・・』

『おら!野球部での最後の特訓、あと97回!』

『がぁっ!ぼはっ・・・!?』

『これに懲りたら、上手く次に繋げろよ~。次があるかは知らねぇけ・・・ど!』

『ぎゃはぁっ・・・!!!』

紐で大棚に括り付けられて無理やり立たされた後輩は、最早ただのサンドバッグだ・・・




「・・・・・・・・・・・・」

空いた口が塞がらない・・・と、同時に、納得した事もあった・・・


そうか・・・海崎君のような体育会系からのいじめが、たかりだけで済んでいたのは・・・


この、度を越した後輩いびりで事足りていたからってだけだったのか・・・


「・・・ん?」

これ以上見てられなくて思わず動画を閉じたら、とんでもない量の通知が届いている事に気付く。


(僕や穂村さんの時も凄かったなぁ、TUITTARの通知・・・)

あまり罵詈雑言を見るのもキツいけど、一応覗いてみる。


「何でだよ・・・何でこんな・・・誰なんだよ、これを撮ったのは・・・誰が裏切りやがった?・・・つーか、撮られた覚えねぇぞ・・・?俺達以外に誰も居なかったはず・・・」

「・・・・・・」

数分後、海崎君の呟きで顔を上げる。

天才先発投手のおぞましい素顔を『公開』処刑され、完全に気が抜けている・・・


「『籠の中』・・・か・・・野球部の部室という、環境的にも物理的にも部外者の入って来ないはずの籠の中で、安心して傍若無人な振る舞いをしていた君を皮肉ったタイトルだったんだね・・・」

その程度で、上手く隠したつもりなのか?・・・と。


「ぐっ・・・!?」

その言葉がカチンと来たのか、海崎君に僕の胸倉を締め上げられる。


「・・・テメェは良いよなぁ・・・バレてもこれっぽっちも困らない秘密だったんだもんなぁ!」

「バラされて困るような事をしていた・・・君の自業自得じゃないか・・・!」

「るせぇ!テメェみてぇなインドアに分かる訳ねぇよな!天才と持て囃され、常に最前線に立たされるプレッシャーが、どれ程の物かっつーのはよぉ!」

「がっ・・・!」

怒り任せの海崎君に、殴り飛ばされる。机の角に背中もぶつけて、あちこち痛い・・・


「どいつもこいつも俺じゃなきゃ勝てねーって泣きついてくる癖に、それでいて少しでもミスしたら、もっと出来ただろうって偉そうに文句言いやがってよぉ!どんだけストレス溜まると思ってんだ!!どうせ他の無能共なんかに俺の代わりなんて務まらねーんだ!だったらストレス発散の手伝いぐらいしてみせろってんだよ!無能共はそれぐれぇしかやれる事なんか無ぇだろ!!!」

「そうやって黙認されるのを良い事に、好き勝手するとか・・・クズ過ぎるだろ・・・ああやって、何人潰して来たんだ・・・将来芽が出るかもしれなかった野球少年を・・・!」

「はっ!何が悪い?どいつもこいつも、俺が居なきゃ困るんだ!だったらそれぐらい、出来るヤツの特権だろうが!文句を言われる筋合いなんか無ぇ!!」

「・・・本当に・・・クズだ・・・・・・」

「まだ言うか!この・・・・・・」

更に殴りかかろうとする海崎君に、僕はスマホの画面を見せ付けた。




『俺もこの間やられました。体幹を鍛えると称したバット殴打』

『俺もだ。上層部に訴えても何の返事も帰って来ない。完全に揉み消された』

『俺なんか使えねぇ腕要らねぇだろって、利き腕を殴打された。骨折したし、危うく選手生命断たれる所だった』

『半年前に体調不良で引退した千堂居たろ?あいつの体調不良、海崎の『しごき』が原因。ボロ雑巾みたいにされて運ばれてった』

『こいつも上層部も腐れ外道過ぎだろワロタ』

『いや、ワロえねーし』

『失望しました。海崎選手のファン辞めます』

『つーか即刻クビにしろ。二度とTVで顔も見たくねぇし』

『大事な道具のバットで人殴るとか、野球選手名乗る資格無いだろ』

『人間名乗る資格もねーよ』




「こんな事を動画の中だけじゃなくて、今もまだ続けているなんて・・・!」




「な・・・ぁ・・・・・・!?」

TUITTERに転載された動画に投稿されているコメントの数々が、海崎君の顔と肝を冷やしていく・・・


「田茂!?何でこんな・・・眞鍋もだ!お前らには何もしてねぇだろ!この機に便乗して俺を引きずり落そうってのか!いかにも実力じゃ勝てねぇ無能が考えそうな卑怯な手だ!」

「君は卑怯じゃないのかと思うし、『お前らには』って事は、全員じゃないけど事実ではあるんでしょ?それより・・・そんな悠長な事を言っていて良いの?」

「んだと!?」

「ざっと見た限りだけど・・・君のチームメイト達のコメントは軒並み内部告発。本名で登録していないなら分からないけど、君を擁護するコメントを出している人は誰一人居なかったよ」

「それが・・・何だ・・・!?」

「君は上層部が自分を必要としているから何をしても許されると言っていたけど・・・」




―――もっと身近なチームメイトは、みんな君なんか要らないと言ってるんだよ




「だから、どうしたってんだよ・・・あんな奴ら、所詮この天才様の数合わせだろ・・・痛くも痒くも・・・」

「・・・ここからだよ、海崎君」

「・・・あ゛?」

「この動画と内部告発の嵐は、君1人のダメージじゃない。それを隠蔽していたという事をバラされた球団全体も大打撃を受けたんだ。下手をすれば、解散に追い込まれるかもしれない・・・どころか、野球界そのものにも泥を塗ったんだ」




今までは君の横暴を見て見ぬ振りして来た上層部は―――そんな大迷惑を掛けられても、君に守る価値があると思ってくれるのかな?




「・・・・・・・・・・・・」

蒼褪めるのを通り越して、海崎君は表情を失った。さすがにこれでも守って貰えるなんて甘い考えは持っていないようだ。


程なくして、海崎君の携帯が鳴った。


「は、はい・・・海崎で・・・戦力外通告?・・・クビ!?ちょ、待ってくださ・・・」

言葉が途切れたのを察するに、言いたい事だけ言って即刻切られたみたいだ。


「・・・はい。じゃあ、お願いします」

「お、おい、どこに電話掛けてるんだ・・・」

「警察に決まってるじゃないですか」

「はぁ!?俺がここに居るってバラす気か・・・」

「逃げる気だったの?それより・・・今自分がやった事、もう忘れたの?」




傷害罪の現行犯に決まってるでしょ?




「や、止めてくれ!球団内部だけじゃなく、外でも暴力沙汰を起こしたなんて知られたら・・・」

「間違いなく罪は重くなるだろうね。世間も、君は外でも日常的に暴力振るってたと思うだろうし・・・」

「か、か、勘弁してくれ!金、返しただろ?も、もっと要るか!?エース様だからいくらでも・・・」

醜い懇願をしてくる海崎君に、見ていられないを通り越して怒りが沸く。




「他人を逃げ場の無い籠の中で追い詰めて平気でタコ殴りにしていた奴が、いざ自分がボコボコにされる番になったら逃げるんじゃない!!」




「あ・・・あああ・・・・・・」

球界のヒーローの仮面が剥がれ、そこに現れたのは権力を隠れ蓑にした卑怯者の小悪党の顔だ・・・


その時、海崎君は何かの気配を感じ、振り向く。


「や、止めろ・・・来るな・・・」

何も居ないのに、壁際に後ずさりする。


「やめてくれええぇぇぇっ!!!」

そう言って、何かに怯えてうずくまる。


「いだい!いだい!いだいぃぃっ!!止めろ!止めてくれ!!」

そう懇願するが、僕も誰も、何もしていない。


「あと95回?・・・え?『1人100回!?』ま、待て・・・何人並んで・・・ア゛ア゛ア゛ギャアアァァァァァァァァッ!!!」




「今になって芽生えた罪の意識に、心が押し潰されたのか・・・」

僕には見えないけど、彼には見えているのだろう。恐らく、僕が言った『ボコボコにされる番』が引き金だ。




今まで自分が痛めつけて来たチームメイトたち全員が、報復にやって来たんだ。




「いだいよぉ・・・もう600発は越えただろ・・・勘弁し・・・あぎゃあっ・・・!」

「こっちの台詞だ!警察が傷付けてると思われるじゃないか!!」

僕が呼んだ警察に連行されている最中も、彼は自分だけが見える幻覚のチームメイトに殴られ続けているようだ。


(もし、何人のチームメイトを傷付けて来たか覚えてなければ、一生終わらないかもね・・・)

酷だとは思うけど、それだけの事をやって来たんだと彼自身がようやく認めた証でもある。


「ま、十中八九覚えてないだろうな。だって・・・」




彼が返しに来たお金、5万程度じゃ半分にも満たないんだけど・・・


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