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週末のラグナロク  作者: 黒石翼
Ragnarok 1
7/7

world 5 進化

 ―なんで…こんなことに……?


   △▼△


 さかのぼること一時間前。下校時に俺、リーア、木津さん、博成くんの四人がたまたま揃ったから、みんなでカラオケでも行こうかということになり、街中へ出た。


 カラオケ店を出て、駅に向かっていた時、激しい揺れが街を襲った。…地震か?

 音のした方に駆けていくと、大きな狼が街を荒らしていた。

 本当に大きい……全長20メートルはあるか…?

 「これは……」

 俺は絶句してしまう。

 「…大きい。とても……丈夫そう」

 「なっ…!ついに『組織』も我を潰すために本気を出してきたというのか……!」

 「これはなかなかの強敵ですね……。『神噛狼』フェンリル…!」

 各自戦慄している。…さて、どうしたものか…?

 「リーア、翻訳の剣を二つ創ってくれ!」

 「え、あ、はぁぁぁぁ…!…で、できた」

 俺はその剣を片手に握りしめ、耳の近くに押し付けフェンリルに話しかける。

 「な、なあフェンリル。お前、どうして急に暴れだしたんだ?」

「へっ、忌々しきクソ親父が封印されたからよ、しばらくぶりに暴れてやろうと思ってな。で、どうやらお前、あのオーディンのクソと同じような聖槍のオーラを感じるな。お前も同類か。なら、ぶっ壊しても問題ねえよなあ?」

やっぱり説得は無駄か。でも、こんな街中で戦うわけにもいかねえしな…。

 「隙ありですっ!」

 木津さんがいつのまに弓矢でフェンリルを射抜く。しかし、ダメージは特に無さそうだけど…?

「…?なんだ、今の。…ん?」

 フェンリルが眩い光に包まれ、消えていった。

「あんまり話してなかったですけど、これは転移の矢です。鏡世界に転移させました。でも長くは続かないと思います…」

 なるほど、鏡世界…。

 木津さんは何やらブツブツ呟いている。

 と、いきなり大きな鏡が出現した。

「よし、これで鏡世界へ行くことができます!四人くらいなら簡単に通れます…けど、ヒロ、あんたは来ない方がいいと思うけどね…」

「何を言う。我は無限の魔力を秘めている。『組織』ごときに臆したりはしない」

「はいはい。あのね、フェンリルは危険なの。昔、北欧神話はアースガルズの主神オーディンも致命傷を受けたとされるほどの攻撃力をもつのよ?あんたは先に帰ってなさい」

 毎回思うけど、木津さんは博成君との会話になると急に話し方が変わるな…。

 ところでアースガルズ…北欧神話に登場する王国だっけか。あのオーディンに致命傷を与えるほどの獣…。恐ろしい限りだ。下手な神よりも強いってことじゃないか…。

 「仕方あるまい。我が手を出すと強大すぎる力故に様々な弊害が発生するのだろう。今回だけ、我は引こう」

「はいはい」

 一応、空島さんにも連絡を入れる。

「あの、今来てもらうことってできます?フェンリル討伐のために自然公園にいるんですけど」

「…すいませんです、ちょっと来客が来てましてです」

「そうですか…すいません、頑張ります!」

「あ、自然公園なら……よし、これで届くはずです」

「ん?」

 近くの小さな木が倒れ、倒れた跡に光り輝く物が。

「それは鳳凰の羽根…の一部です。不死鳥と称された伝説の鳥の羽根…かなり小さいですけど、一人くらいなら生き返らせることができると思いますです」

 鳳凰の羽根…!これは有り難いなんてもんじゃないな。てか、遠距離でも植物を操れるのか。空島さんの能力も本当に可能性が無限大ですな。

「あ、ありがとうございます!」

「いえいえ。勝てるようにお祈りしてますですよ」


 さて…。俺、木津さんは戦わなくてはならないけど、リーアはどうしよう…?

 流石に神クラス相手には手も足も出ないと思うけど…。

「リーア、お前は…」

「行きたい」

「……そう言うと思った。でも、相手は神様くらい強い。正直、俺でも勝てるかわからない。…最悪、死ぬかもしれないんだぞ」

「………大丈夫。これでも毎日特訓してる。『魔物殺し(アンチビースト)』の剣も創造できる。…頑張れる」

 …どうやら本気らしい。眼を見てもわかる。

 仕方ない。リーアを守りつつの戦いになりそうだ。


   ※


 木津さんの作った転移鏡を潜り抜けた先にあったのは、黒と紺色が混じり合ったなんとも言えない…広い空間だった。

 「ここのどこかにフェンリルはいます。広さとしては…大体あの街くらいはありますか…」

「なるほど。ところでここに時間制限とかは?」

「約一時間。一時間半は空間がもたないです」

 なるほど。じゃあ早く見つけ出さないとないとな。

 「…あっちから…異臭がする」

「おそらく…フェンリルでしょうね。ここに住み着く生き物はいませんから」


 リーアに速度の剣を生成してもらい、臭いのする方に走る。

 五百メートルほど走っただろうか。後姿が見えた。…やっぱり大きいな…。


 先手必勝。俺は槍に滅びの力を籠め、槍を振るって雷を落とす。

「いてっ、おう、なんだ、さっきの奴らかよ。ん?どうやら一人強そうなのが消えたな。まあいいや。出会い頭に電気ショックを浴びせてくるなんていい度胸じゃねえかよお」

 …電気ショック…?渾身の雷を…?

 なんという防御力…。

 ってか、強そうなやつ…?そんな奴いたか?博成君はただの中二病だし…。

 まあいいや。俺は構わず電槍で連続突きをかます。大体の輩はこれで灰なんだが…。

「おうおう、チクチクするなあ、おい」

 効いていない…。こいつ、規格外の化け物だ。仕方ない。

「「『我、精霊との追約、覇の(ことわり)において、汝を限滅へと導く』、『狂精による永罰槍(クレイ・スピリスピア)』!!」!!!」

 よし…これでダメなら流石にしんどいぞ…。

 とりあえずティラーを召喚。さらに、亜空間から呪剣セルを取り出す。左右から斬りかかるが…。

 「よいしょ」

一噛みでティラーが砕け散った…。

 なんてやつだ…!ちょっと力不足すぎるな。仕方ない。奴を呼ぼう。

「『天の王テュポーンよ!その禁じられし封印を解き放ち、混沌をもたらしたまえ!』」

『オオオオオォォオオオォオオ!!!!』

 伝説の龍王、テュポーン!

 「テュポーン!協力してくれ!」

『なんだ、そこの狼か?いいだろう。久しぶりに暴れてみせようではないか!』

 テュポーンは身体をくねらせながら自在に飛び回り、特大級の火炎を放つ。

 流石に効いているらしい。もがいている。


 木津さんも遠くから流氷矢で援護をする。

 これも地味に効いている。何やら氷の中に強力な聖力が込められているらしい。フェンリルも立派な魔物だからな。

 リーアも、回復のオーラを飛ばしてくれている。これは特訓の成果だ。

 ―回復の剣を創れるんだから、その中身のオーラだけ取り出すことはできないか?

 答えはイエスだった。

 とにかく練習したからな。完成した時は俺の方が感極まって泣きそうになってしまったくらいだ。


 テュポーンと俺の聖槍、木津さんの聖矢によって、相当ダメージがたまってきたのか、フェンリルは次第に動きが遅くなり、防御力も下がってきた。

『なんだ、こんなもんか?神クラスと聞いてたから期待したんだがな。俺はもう帰らせてもらおう』

 テュポーンが嘆息し、姿を消す。まあお前が相当なバケモノだからな…。

「ぐっ…そうか、わかった。お前らは俺を…否、『俺たち』を敵に回したのだな…!」

 ん?『俺たち』?

 疑問に思う俺たちを尻目に、奴は何やら唱えだす。

「『到来せよ終末(ラグナロク)。待ち焦がれし黄昏。眼前の者に滅びを与えんがために…!』『召喚・ヘル』!!!!」

 バリっと空間が避け、そこから謎の女性が現れる。

 「おい、ヘル、加勢しろや」

「いやですよ。冥界も忙しいんですから」

「じゃあせめて回復だけでも」

「もちろん。それと、強力な助っ人を連れて来ましてよ」

 ヘルと呼ばれた女性……冥界の女王、ヘルか!こいつもたしかロキの子供だったよな…。

 ヘルがフェンリルに白銀のオーラを飛ばす。するとみるみるうちに傷が癒えていった。

 さらに、ヘルが魔法陣を創り出し、そこからドラゴンが現れる。

 …見たことがある。たしか、ヨルムンガンド…!神々の黄昏にも関わりの深い、不死龍ことヒュドラと並ぶ、厄龍と呼ばれるドラゴン…!

 「グエエエエエエエエエ!!!」

ヨルムンガンドが雄たけびを上げる。

 まずいな、相当な魔獣が二匹…。これはかなりの強敵だ。


 全力で斬りかかるも、ヨルムンガンドの硬い鱗に防がれてしまう。さらに、フェンリルもヨルムンガンドも素早く、攻撃をかわされるし、魔力弾で攻撃してくる。リーアの回復も追いつかない。どんどん追い詰められていく…。


   ▽▲△


 結局、災厄の魔獣二匹を相手に、俺らはほとんど何もできずに倒れこんでいた。

 あ、あとちょっとでこの世界も壊れてしまう。

 でも、もう力が入らない…。


 と、いきなりリーアの剣からすさまじい魔のオーラが発生した。

 そのオーラは人の形になり……あ、女性か?王族のような身なりをしているが…。

「あーああ、あーあ、ようやく出られたあー!狭いし暑いしい!なんだか久しぶりの外出、と思いきやこれめっちゃピンチじゃない?やばやば。…ん?そこにいるのティザー?」

え。誰ですか。てかなんでティザーのこと知ってるの?

『よ、相棒。五千年ぶりくらいか?』

なんか僕の槍が急に話し始めたんですけど。え?知り合いなの?

「わー、本当にティザーだ!また前みたいに暴れてみる?」

『いいだろう、派手に行くか!』

そして、その女性は語りだす。

「『ベルゼブブ、アスモデウス、ベルフェゴル、ベリアル、そしてルシファー。真なる魔王の名において、天災を下す』『封じられし(プリヒビリット・)魔王(エンドサタン)』!!!!」

 次の瞬間、フェンリルの首がはじけ飛んだ。

 あまりの速さに誰も反応できなかった。さらに、呆然としてしていたヨルムンガンドに向けて、その女性は槍でピッピッと横に振った。

 刹那、ヨルムンガンドの全身に傷跡が深く刻み込まれ、奴はそこに倒れこんで血を吐いた。


 …強すぎる。明らかにまともじゃない。

 まったくもって動きが見えなかった。

「どーも、初代魔王『マゼラウム・ルシファー』、通称、「マゼ」でーす。えーと、そこのキミ、現聖槍使い?」

「え、あ、はい」

「なんでこれしきの相手も倒せないの?…あ、油断してたの?油断大敵だよお?」

「え、えっと…一応頑張ったんですけど」

「…あのねえ、この槍をちゃんと使えば神様だって簡単に屠れるんだからさ、もっと特訓しな、ね?特訓・特訓・さあ特訓!」

 すごく…明るいですね。性格が。

 と、マゼさんの体が光り輝きはじめる。

「え、ちょっと待って。あー、また過具に封印されるの?えー、嫌だ嫌だあー」

 なるほど、薄々勘づいてはいたが、やはり封印系か。これは空島さんに報告しないとな。


 少しして、マゼさんのオーラが完全に消えた。

 …さて、これはどうしたものか。

「えーと…もうこの世界も壊れそうなので、脱出しましょう。今転移鏡を作りますね!」


   ※


 街に戻り、木津さんと別れ、空島さんに電話をかける。

「なんとかフェンリルを倒せました。それでですね、いくつか報告したいことがあるんですけど」

「わかりましたです。今来客の方が帰られたですから、私の家に来てくださいです」


 空島さんの家に着く。またあの地下室に行く。

「えーと…どこから話していいかわからないですけど、まず、フェンリルについては、僕のテュポーンが倒しました。でも、何やら『冥界の女王』ヘルがフェンリルを回復させて、さらに厄龍ことヨルムンガンドを連れてきて消えました。もうそこからはほとんど何もできませんでした」

「すごく…大きくて硬かった」

「おいリーア、誤解を招く発言はやめなさい。…その通りだったけど……大きいお友達が喜ぶ展開になっちまう。…えーと、閑話休題。ピンチになってしまったんですけど、その時にリーア…というより過具から魔のオーラが溢れ出しまして、そこから初代魔王と名乗る女性が出て来ました。その女性―マゼラウム・ルシファーと言いました―は僕の聖槍を借りて、目にもとまらぬ速さでその二体を切り捨てました。どうやらその女性と僕の聖槍には関係がありそうでした。っていうか、僕の聖槍が喋ってたんですよね…過具って喋るんですね…」

「えーと……まずですね、初代魔王マゼラウム・ルシファーについては、例の『閉訳聖書』に登場しているです。えー…魔王というのはですね、約500年ごとに入れ替わります。初代がルシファー、二代目がベルフェゴル、三代目がベルゼブブ、四代目がベリアル、そして今の魔王はアスモデウスです。初代は『擬態』の能力に長けていたと聞きます。何かに化けたりすることも得意だったそうです」

「今が五代目ということですか」

「そうです。魔王―つまり悪魔のことですが―というのはもともと天使でした。別名『堕天使』ですね。欲におぼれた天使が悪魔と化するのです」

「なるほど…それで、僕の聖槍と初代魔王が知り合いのようだった、ということについては?」

「それはわからないです。どのデータにも、初代魔王と聖槍の関係は記されていませんです」

「そうですか……すいません、いろいろとありがとうございました」


   ※


 家に着く。時計はもう夜8時を指している。

 夕飯をつくって、二人で仲良く食べる。

「なあ、どうだ、あれから魔王のオーラとか感じるか?」

「…少しも。なんか『過具』の意識の奥深くに閉じ込められちゃったみたい」



 ま、いっか。


第一章はもう少しで終わりです。今回も読んでくださり、誠にありがとうございます。よければつづきもよろしくお願いします。

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