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週末のラグナロク  作者: 黒石翼
Ragnarok 1
4/7

world 3 To be strong.

 次の日。私ことリーア・セルドは、朝ごはんにパンに何を塗るかを和紀に問われ、今日はマーガリンにトライしてみることにした。意外と美味しかった。でもいちごジャムの方が好き。

 目玉焼きを食べているときに(この目玉焼きは絶妙なタイミングで焼き上げてるんだ、と昨日和紀は言っていた)、和紀が「今日はバイトに行かなきゃならない」と言っていた。だから今日は朝八時半から午後三時まで帰ってこれないって。「ばいと」って何だろう。でも留守番は嫌だ。寂しい。だから、

「…私もついていきたい」

と言った。すると和紀は、

「バイトって言っても仕事だからな…いいのかな…?」

なるほど。「ばいと」は働くことなのか。

「…なら私も…そこで『ばいと』する」

「ん!?なるほど…まあ交渉だけでもしてみるか…」

 それから私たちは準備をして、八時半くらいに家を出た。


 話しながら歩くこと二十分。和紀はとあるカフェの扉を開いて中に入り、

「西田です、おはようございます、今着きましたー!」と言った。

 すると店の奥から、

「はーい、朝早くからすみませんですー!」

と女性の明るい声が聞こえてきた。

 ほどなくして、その声の主が現れた。

「おはようです、ん?そっちの子は?あ、とうとう彼女ができたですか?」

若い女性…美人…といえるのかな。日本人の「美人」基準はよくわからない。

「ちがいますよ…ちょっと訳ありの子で。『過門(カオス・ゲート)』から『帝剣創造(ソード・クリエイト)』を授かった、」

と、和紀が私に目配せをしてきた。自己紹介をしろってことなのかな。

「リーア・セルドです…リーアって呼んでください。えーと…ここで働かせてくれませんか?」

「チェスター所持者のリーアさん?まあ、いいじゃないですか、いいじゃないですかぁ。なんでこんないい人材もっと早く連れてこなかったんですかぁ?」

とその女性は笑いながら言う。ちなみに『チェスター』とは私の能力の愛称というか…ニックネームというか…。なんでこの女性はその名前を知っているのかな。

「いやー、僕も最近知り合ったばかりで」

なんて和紀も笑顔で言っている。これは…ここで和紀と一緒に働けるってことでいいのかな。

「ああ、申し遅れました。私はここの店長の空島といいます。覚えてもらうことはそんなにないけど、気を抜かずに頑張ってくださいねぇ。ちなみにリーアさんは、日本に来て長いですか?」

「いえ、まだ…一カ月くらいです」

「えぇ、その割には日本語が上手ですねぇ」

「チェスターの能力の応用で、翻訳の剣を小型化して口の中に入れて、喋っています。両耳にも同じものを入れています」

これはもう和紀には説明済みだ。

「口の中に!?危なくないですか?」

当然の疑問。でもこの答えは簡単。

「チェスターはどんな剣をも創造できます……切れ味のない剣を口内に張り付かせれば…それでいいです。健康面への影響も皆無です」

大抵の日本語はわかるが、店名や商品名はわからない。

「へぇー…私もまだまだ『過具(カオス・ウェポン)』への勉強が足りないです…」

過具(カオス・ウェポン)』は私のチェスターや和紀の聖槍などが当てはまる。『過門(カオス・ゲート)』からの武器のことを指す。そういえばなんでこの空島さんは過門(カオス・ゲート)のことを知っているんだろう。

「…なぜ過具(カオス・ウェポン)のことを…?」

「え?だって私ももってるから。ホラ!」

そう言って彼女は自身の周りに花を咲かせた。今一瞬異空間との境目が見えた…異空間から花を咲かせたのかな。

「これが私の、『聖花咲(フラワーアンビシャス)』。花を操る能力です。まあ極めれば植物全般を操れるのですが。攻撃も回復もお手の物です!」

な、なるほど…。強そうな能力。

「でも空島さん、相当過具(カオス・ウェポン)について詳しいでしょ」

「まあ今までいろんな人と出会ってきましたからねぇ。で、かずさん、魔力は使いこなせるようになったです?」

「いやー、まだ弱い魔力しか…本来は聖槍ですから…難しいですよ。まだ特訓が足りないですね」

「そうですかぁ。…で、リーアさんはどれくらいのお強さでぃ?」

…う。それは痛いところを…。

「そ、それは…」

「かずさん、どうなんですかぁ?」

「うーん…今まで出会った『過具所有者(カオス・ロゥーラー)』の中ではかなり…」

「強い?」

「いえ…」

「あら。そうなんですかぁ。でも気にしないでくださいです。特訓すればだれでも強くなれるですよ」

「そ、そうですか…」

「じゃ、さっそく働いてもらうですかね」

「えっと…じゃあ何をしたら…?」

「簡単です。リーアさん…あなたは接客得意ですか?」

「お世辞にも得意とは言えないと思います…」

「あ、そうですか。じゃ、奥で洗い物してたりお願いするです。…それくらいはできますよね?」

「は、はい…」

「じゃ、今日も頑張りましょ!」


   ※


 洗い物は慣れている。ミコロリベドの家で、毎日家族全員の食器を洗っていたから。でも、仕事をして感謝されるのは初めてだ。

 私は、仕事も悪くない、と今日初めて感じた。こんなに充実感のある労働は初めてだ。

 そうして午前中は終わった。洗い物の食器の数を見るに、それなりにお客さんは入っているみたいだ。


 正午。少し休憩が入った。一時間ほどの休憩だ。みんなで軽食を食べながら少し話をすることになった。

「リーアさん、すごいです。手慣れてます。ひょっとするとかずさん以上かも」

「そうか、あんまり見てなかったけど、すごいな」

私は皿洗い、空島さんが料理を作り、和紀が運ぶ、という三角関係でやっていた。

でも褒められて、私は少し恥ずかしくなった。

「大丈夫…です。な、慣れてますから。午後も…こんな感じですか?」

「うん、そうなんですけどね。今日は予想以上に頑張ってくれましたし、もういいですよ。今日は日曜だから、あと三時間くらいで店閉めますし」

「え…何ですか、それ。一人じゃ回らないでしょ。俺もリーアもまだまだ働けますよ?」

「ええ。一人では大変です。でもこれから助っ人が来るですよ」

「助っ人?」

「そろそろ来るはずです」


 入口の方から元気な声が聞こえてきた。

「空島さーん!こんちはー!」

「あ、南くん。いらっしゃいです。紹介します、こちら、新入りの」

「南秀仁と申します!過具、『過世界の風魔斧(アナザーアックス)』に選ばれました!よろしくお願いします!」

南さん…魔の斧使い……強いのかな。

 和紀が挨拶する。

「えっと…あ、僕は西田和紀と申します…それで、南さん」

「秀仁でいいっすよ、で、何すか?」

「あ、じゃあ秀仁くん、まず…その斧は強いの?」

和紀も知らない過具なのかな。

「んー…かずさんの聖槍には敵わないかなあ。でも、パワーはありまっす!たとえば…ここらへんの家程度なら一振りで粉砕っす!」

「ほう…じゃ、パワーだけなら俺の強気の聖槍程度ね…」

すごい会話だ。

「そう、そういうわけで、もう今日は大丈夫です。まあ、もしまだここにいたかったらいいんですけど」

「んー、リーア、どうする?俺はどっちでもいいけど」

帰れるんだったら、帰りたいかも。

「じゃあ帰りたい…かも」

「わかった。じゃあ、もう帰りますね」

「はい。今日は本当にありがとうです。また来てほしい時に連絡するですね」


   ※


 店を出た私と和紀は、和紀に「ちょっと来てくれ」と言われて、とある廃墟の地下に行った。

 そこは広い…運動場…?だだっ広い。端から端までどれくらいだろう、五百メートルはあるかな。

「ここは、俺の特訓場なんだ。空島さんが暇なときは一緒に特訓してたりするんだけど。ってなわけで、特訓、やろうか」

「…わかった。で、私、何をすればいい?」

「そうだな…じゃあまずは体力増加からか。よし、走り込みやるぞ」

「…どれくらい?」

「今日は初日だし…十キロくらいでいいや。そこのトラック、十周」

え…いつもは優しい和紀が鬼みたい。

「そ…そんなに?」

「ああ。さあ、やるぞ」

「…一緒にやろ」

「……わかった」


 私たちは一時間くらいかけて十キロを走り切った。隣に和紀がいなかったら確実に無理だっただろう。はあ…疲れた……。

「そ、それで…今日他に何を…する…?」

「うーん…じゃあ、色々な剣を創造するために、軽く勉強するか。こっちに来て」

 和紀についていくと、運動場の端にドアがあった。そこに入ると、まるで学校の教室の縮小版のような部屋に出た。いくつかの机と、たくさんの本棚、ホワイトボードも。あ、革張りのソファもある。

 ソファに座り、和紀は言う。

「やっぱり攻撃方法は多彩な方が、何かと便利だし、有利だ。属性投与は、今どれくらいできるんだ?」

「す、水滴くらいの水を塗した水剣と…触れるとちょっと痛いくらいの電気を纏った電剣と…火種剣をつくれる…かな」

「はぁ…そうか。じゃあ、最初に水を極めるか。こういう本を読んでみよう」

 そう言って和紀がもってきたのは、水道の絵が描いてある図鑑みたいに厚い本や、水を浴びた格闘家がこちらに向けて殴りかかってきている写真が表紙の本や、忍者が水手裏剣を投げている巻物のような書物などといった水関係の本だった。あ、でも。

「…私、日本語が読めない」

「あちゃー。そうか、話すだけだもんなぁ…じゃ、今日は簡単に日本語を読めるようにするか」

そう言って、それから私は和紀から日本語を学んだ。和紀の教え方はすごくわかりやすかった。でも、「れ」と「わ」って似すぎ…。

 それから二時間後。

「あー、ちょっと疲れたな。今日はもうやめにするか」

と和紀は言った。私もそれに賛成だった。

「よし、じゃあ軽く実践練習するか」

…え?


 場所、先ほどのグラウンド。時間、午後四時半。私はもう一度、和紀と戦うことになった。

「いいか、全力でこい。俺は…全力を出したらお前が消え去っちまうだろうから、この前のときと同じくらいでいくぞ、いいな?」

「…わかった。よろしく」

「どうぞ」

また、先行は私だ。私は、このグラウンドの端にあった武器庫の中からとある魔法剣を借りていた。和紀曰く、私と相性がいいかもしれないとのこと。

 私は一度深呼吸をして、剣に意識を込める。そして、『速度の剣(スピニングソード)』を生成して自らの足を俊敏化させる。和紀の周りを走り回り、魔法剣を彼に向けて振り下ろす。と、簡単に聖槍で防がれた。

「行動が簡単すぎる。もっと手の込んだ動き方をしてみな」

そう言われ、私はジグザグに走って剣を振り下ろす。これもまた防がれた。

「そうか、早さが足りないな。もっと『速度の剣(スピニングソード)』の精度を上げないとな」

今度は重い剣を生成し、斬りかかった。が、聖槍の一振りで私は後ろに吹き飛ばされた。衝撃波が来たから。あのひと振りで…まともにくらったらどれほどの威力なんだろう…。

「どうやら攻撃が通じないみたいだね。じゃあ、次は俺の番」

和紀が地面に槍を突き刺した。刹那、このグラウンドが氷結世界と化した。ど、どうしようかな…。

 私は少し苦しみながらも魔法剣に火属性を付与して、火種剣を生成した。この能力、想像以上に体力の消耗が激しい。そして、ちょっと振り回してこの世界を融かそうとした。でも、この氷や雪は私の火を全く受け付けなかった。

「さて、じゃ、これはどうかな」

和紀の周りから十本ほどの氷の棘が飛んできた。この前の炎刺よりはゆっくり…?私はその棘に向けて火種剣を振った。半分くらいは消えたけど、まだ全然残っている。私は頭の中で火のイメージを強く持ち、火種剣に強く意識を込めた。

すると、火種剣が燃え盛り火炎剣へと昇華した。私は残った五本の棘に向けて斬りかかった。すると、いとも簡単に棘が融けた。

「やった…!融けた…」

私は思わずそうつぶやいた。その瞬間、和紀から大きめの氷の槍が飛んできた。あれは…『祝聖の三叉槍(セイント・トリアイナ)』そのものじゃない…和紀が自分で作りだした槍?

 その氷槍は、私の隣八ミリ辺りに深々と突き刺さった。

「よし、今日はここまでだ。お疲れさん」

そう言って和紀は氷結世界を融かし、私たちは元のグラウンドに戻ってきた。


 正直言って、あの槍は怖い。私が弱すぎるのはあるけど、それでも強すぎると思う。


 二人で『錦荘』に戻ってきて、仲良く晩御飯を食べた。お腹が極限まで空いていたけれど、和紀はこれを見越していたのか、大量にごはんを炊いてくれていた。

 今日のメニューは生姜焼き。生姜って食べたことなかったけど、意外と美味しい。

「和紀」

「ん?どうした?」

「おいしい」

「ありがと。毎日そう言ってもらえるから頑張れるな」

「ねえ」

「うん?」

「あの槍…強すぎる」

「そうか?まあ確かに破壊力・瞬発力・属性力に長けてるからな。向かうところ敵なし、ってな」

「それ…無敵?私は…そう思うけど」

和紀は少し考えてから言う。

「いや、ドラゴンには弱い。あと、神々には勝てるか怪しいかな」

「ふーん…でも、それ以外なら勝てる?」

「そうだな…どうした?何が気になる?」

「いや…今日、改めて思った…それ、強すぎる」

「はは、そうか。でも大丈夫だ。一度過門とつながった人間は寿命がかなり延びるらしいし、ゆっくり強くなっていこうぜ」

「…うん」

「ほら、飯が冷める。食え食え」

 安心したら、すごくご飯も美味しかった。今日は和紀の分までとらなくて済んだ。


   ※


 それにしても、私は弱い。まずは、体力増加だろうと和紀は言ってた。なら、毎朝走れば体力増加にはいいんじゃないかな。晩御飯後にそう和紀に伝えると、

「そうだな。よし、じゃあ今日は早めに寝て、明日は早朝から一緒にランニングといくか」


 そんなわけで、次の日、私たちは朝五時半に起きて走り込みをした。和紀曰く、この灰田町を一周すれば12キロくらいでちょうどいいらしい。12キロ…疲れるけど、隣に和紀がいるならいいや。


 はあ……疲れた…家に帰って時計を見ると、朝七時前になっていた。と、そこに和紀は言う。

「今日…俺学校あるんだけど…どうする、留守番は…」

私は全力で首を横に振る。

「そうだよなあ…でも学校はなあ…ツネちゃんに話すだけでも話してみるか…」

『ツネちゃん』とは和紀の担任の先生の愛称らしい。

 でも、私もその学校に行きたい。話は聞いてるし、楽しそうだ。

「行きたい…」

私はそういうと、和紀は「仕方ないな」とつぶやいて、それから朝ごはんにすることになった。


 今日は早めにご飯を食べ終えて、和紀は制服に着替えだした。私は制服を持っていないから、例のジーンズとパーカーで行くことにした。なんでも和紀の通っている『雫高校』は制服でも私服でもどっちでもいい、珍しい学校なんだそう。

 私たちは七時半くらいに家を出た。そして二人で話しながら駅まで歩いて、電車に乗った。青色がきれいな電車だった。

 駅を出て、十五分ほど歩いた。

 校門が見えてきて、和紀は「ついてきて」とだけ言い、校舎に入っていった。私も言われた通り、ついていった。


 校舎に入り、靴を脱いで、階段を上り、職員室に着いた。すると和紀は「少しここで待ってて」と言い、私はドアの外で待っていた。と、その二分後、若い…?女性が出てきた。

「こちらがリーアさん。リーア、自己紹介して」

と和紀は言う。

「あ…はい。リーア・セルドです…あ…ギリシャ出身です…15歳です…」

「あ、リーアさん?本当にここに入りたいんですか?」

「え…はい」

「じゃ、西田君、2-3に連れて行ってあげて」

 あれ、意外とあっさり…?


 朝のホームルーム。私は皆さんの前に立って、自己紹介をした。中々人気が出た。なんでだろう。

 それにしても、授業で先生が言っていることはわかるけど、私はまだあまり日本語を書けない。でも、隣の和紀が細かく教えてくれた。ちょっと嬉しかった。


   ※


 そんなこんなで一日も終わり、和紀と一緒に帰る。

 …今日一日、すごく楽しかった。どうやら私の入学がスムーズに進んだのは、和紀が『過具(カオス・ウェポン)』能力を使ったかららしい。本当にその槍は便利だ。

 友達もできた。アイドルが大好きな白石萌華さんと…勉強ができて面白い仁畑菫さん。あと、アニメ好きな嘉村優斗くんっていう人もいた。どうやら和紀の昔からの友達らしい。見た目はかっこいいけど、ちょっと変態っぽかった。でも悪い人じゃないと思う。

 和紀に「『過具(カオス・ウェポン)』のことは黙っててくれないか」と言われたから、きっと和紀はあの槍のことを周りには話していないんだろう。


 …帰る途中、嫌な「気」がした。「予感」と言ってもいい。


 裏道(私と和紀が会ったあの道)を歩いていると、後ろから声がした。

「見つけた。まーだ元気に生きてたのかあ」

兄だった。


これから新キャラが増えます!...が、主要キャラ以外は特に覚える必要はございません。あと、今回から一回一回が長くなります!どうぞこれからもよろしくおねがいします。

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