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週末のラグナロク  作者: 黒石翼
Ragnarok 1
2/7

world 1 チョコと剣と家柄と(前編)

 学校からの帰り道。俺は学校を出た瞬間から嫌な「気」を感じていた。誰かに見られている。でも後ろを振り返っても誰もいない。

 なんとなく不快だな。さっさと帰ってチョコモンブランでも食べよう。試験も散々だったし、気晴らしでもしようかね。


 家から最寄りの駅で電車を降り、自転車に乗る。家まであと一キロちょっと。家までの間に狭い裏道を通らなくてはならない。廃墟ばっかりだし、夜は少し不安になる。…まあこっちには最強の槍、ティザーこと『祝聖の三叉槍(セイント・トリアイナ)』がついているけど。


 と、裏道の途中で、真っ黒なパーカーに真っ黒のジーンズの謎の人がいた。女性だろうか、フードで全く顔は見えないが。

 その人は言う。

「西田和紀…十六歳……伝説の聖槍に選ばれし男…とても強いと聞く……私、強くなりたい…貴方と戦えば…貴方を超えていけば、私は強くなれる…お手合わせを願いたい…私は『帝剣創造(ソード・クリエイト)』所有し…リーア・セルドと申す…!」

 ええと…本当の俺を知っている辺り、ただの中二病患者ではなさそうだ。それに、『帝剣創造(ソード・クリエイト)』はなかなか強力だ。あれを使いこなされたら…少し厳しい戦いになるかもしれないな。


 とりあえず、俺らは廃墟の中に行き簡単な戦闘を開始することにした。

 見た目からも相手は俺よりも年下らしいし、「どうぞ」と言って先制は譲ることにした

刹那、俺に向かって刃が伸びてきた。刃をまともにくらうとマズイ。俺は素早く避け…ん?えらく刃が伸びてくるのがゆっくりだ。俺は簡単に刃をかわし、弱めに槍を振るい、炎の棘を数個飛ばしてみた。それは見事命中し、リーアは「痛い、熱いぃぃいいい!」と叫んでいた。

 …こいつ、前途多難だな…。


 俺は雪を少しだけ発生させて、微量の炎で溶かし、リーアに水をかけてやった。ちゃんと水温は38℃くらいにしたから、ほどよいと思う。そして水をかけて消火した直後に激弱の風を起こして乾かした。ちゃんとドライヤー的に風を吹かせた。そこんところは決して忘れない。

 聖の力を極限まで弱め、その塊をリーアにぶつけた。魔物の類でもない限り、ほとんどの傷は癒えていくはずだ。その三秒後、リーアの深いため息が聞こえた。

「…また負けた……せっかく強くなれると思ったのに…もう嫌だ……ねえ、貴方が思う『強さ』って何…?」

 『強さ』…?っていうか、なんでこいつはそんなに強くなりたいんだろうか。悪い奴じゃなさそうだし、話だけでも聞いてみようか。

 「なあ、お前はどうして強くなりたいんだ?『帝剣創造(ソード・クリエイト)』は使いこなせば強いが、お前の様子じゃまだ下級剣士にも勝てないんだろ?」

リーアは、瞳を潤ませてこう言う。

「私は、ギリシャの田舎…ミコロリベドって町から来た…私の家はミコロリベドの中では有名な剣士の一家で…父も兄も母も優秀な『邪険祓い(エクソシスト)』で……でも私は何もできなくて…家族も一緒に暮らすのが嫌になったみたいで…この前大金を私に渡して…「これで私たちの前から消えてくれ」って……なんで…追い出された?」

 …酷い…本当に何故だろう。家柄を汚された、ってことで追い出されたのか。『邪険祓い(エクソシスト)』は悪魔や吸血鬼なんかの邪悪な魔物を人々から守る職業か。『帝剣創造(ソード・クリエイト)』の特性で、聖剣を創造すれば邪険祓いとしてやっていけそうなもんだが…。でもこの弱さじゃ仕方ないかもしれない。そんなことを考えていた俺の横で、リーアは俯いていた。


   ※


 少しして、雨が降ってきた。寒い。もう帰りたいな…でもこのリーアをおいていくのも気が引けるなあ…。

「なあ、雨も降ってきたし、帰りたいんだが…」

するとリーアはフードの上から頷いた。帰っていい、ってことだろうか…?


 裏道を出て、自転車に乗る。と、何故が重みを感じる。振り返ると、リーアが自転車の後ろを押さえていた。

「乗っけてって」

と言う。えぇ…?断るわけにもいかないよな…。

 とりあえず、リーアを後ろに乗っけて帰った。途中、リーアはずっと黙っていた。風が吹き、俺の首に涙が運ばれてきた。


 家に着き、「おい、着いたぞ」とリーアに言う。『錦荘』、俺の住むアパートだ。

「強者の家にしては、狭い」

「ああ、ただのアパートだからな。八畳1Kだ」

「はちじょうわんけー?何にしても、狭い」

 そう、俺は一人暮らしの身だ。八畳1Kの部屋にベッド、小さなテレビと冷蔵庫、電子レンジ、申し訳程度のシンク、大きめのバケツほどしかないユニットバス。あとちょっとした棚に、書類の類で埋め尽くされている小さな机と椅子。狭い。掃除もこの二カ月ほど怠っていたから、とても綺麗とは言えない。

「でも、これ新鮮。狭いのも、寂しくない。悪くない」

とリーアは壁をペチペチやりながら言う。

「…それで、これからお前はどうするつもりなんだ?」

「ここに住む」

…は?待て待て、俺は健康な男子高校生だ。そんなの、(俺の理性が)危険だ。

「待て、それは…駄目だ」

「何故?私、他に行くところない。ホテルはもう飽きた」

こいつ、ずっとホテルにいたのか。でもそんなの金がもたないだろ…。

「いや…ここで追い出すのもダメだと思うけど…ちなみにお前何歳だよ」

「15」

「うーん…」

アウトだ。18以上ならセーフかとも一瞬思ったが…いや、全然セーフじゃないな。

「布団ある?」

「いや、無い。って何泊まる前提で話してるんだよ!」

思わず全力でツッコんでしまった。

「困った。どうやって寝よう?」

はぁ…。もう仕方ない。俺も男だ。心を決めよう。

「…押し入れに座布団が三つある。それにタオルでもかければ寝れるだろ」

「このクマちゃんの座布団?」

「そ、そうだな。それにタオルをかければいいよな?」

「和紀」

「なんだよ」

「シャワー浴びていい?」

「あ、ああ」

「着替えは?これ、もう五日くらいずっと着てる。もう限界」

「…知るかよ」

「近くに洋服店は?」

「五百メートル先にユニ〇ロがあったはずだが」

「ゆ〇くろ?そこに、洋服ある?」

「あるある。腐るほどある」

「腐った服は嫌だ」

「言葉のあやだよ…今からだと開いてるかな…?」

たしかにもう午後七時だ。とりあえず行くだけ行ってみるか。


 丁度ユニク〇は閉まっていた。ここは田舎だから、六時には閉まってしまうのを忘れていた。

「どうする…和紀、私…困る」

「とりあえず…今日は俺の使ってないジャージで勘弁してくれないか」

「和紀」

「だから何だって」

「下着はどうする」

「知るか!」


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