事の顛末
そんな事を話しつつ入学式は滞りなく進んでいく。
人も多いし僕達二人くらい喋っていても誰も気にしないだろう。それに翔と話すことは栞さんの情報を得る事にも直結する。将を射んと欲すれば先ずその馬を射よ、昔の人はいいこと言うものである。それにしても栞さんの意外な一面を見た気がする、そうかーBLが好きなのかー、やっぱり好きな人の好きなものは勉強しておくべきか、叔母には知られないように教材を調達せねば。
「しかし、正直お前と一緒にいると、薔薇色の高校生活は絶対に送れそうにない気がしてきた。既に結構な数の女子学生に睨まれてるじゃねーか。」
「そんなにモテたいなら、今すぐ女の子の所に行って、小粋なジョークでも言いつつ、プレゼントと称して訳のわからんデザインのブランド物を貢ぎつつ、ホテルにでも行けばいいじゃないか。この権力に屈した腐った豚が。」
「お前なんで、いきなりそんな辛辣なこと言うんだよ。何かテンションおかしいぞ。」
「いや、高校入学でハイになってて、それなのに君がさっきみたい僕を煽るから。大体これはモテるための布石だよ。」
「どおゆう事だ?」
「いや、まず最初に嫌われる事からはじめて、最後に惚れさせるって事だよ。」
「うん、なるほど訳がわからん。」
「やれやれ、全く。これは君が貸してくれたマンガやライトノベルを参考にしたモテるためのテクニックでしょうが。」
「いや、こんなゲスな会話をする主人公が女の子にモテるようなトンチキな話はなかったと思うんだけど。」
「全く分かってないな君は、いいかい。マンガやライトノベルなんかでは、主人公が最初に女の子のスカートの中に頭から突っ込んだり、女風呂に間違えて入ったりして女の子のに嫌われるんだけど、それがきっかけとなり女の子との心の距離が縮まるよね。」
「まあ、全部が全部そうじゃねえけど、大体そういうテンプレートってのを踏襲するな。」
「だよね、でも僕達が実際にはそんな事を女の子達にしてごらんよ、どうなると思う?」
「確実に捕まるな、よくて厳重注意。」
「でしょ、それどころか異常者としてレッテルを張られ、人からは白い目で見られ、女の子達から社会的に抹殺されちゃうよ。」
「まあ、そうだな確かに冷静に考えると女の子達の心の距離は縮まるどころか、地獄の底のような深い溝が出来そうな気がするな。」
「でしょ、まったくこの国は昔は大衆銭湯に覗くため専用の窓がついていたり、男も女も夜這いする習慣があったり、性に対してはおおらかな文化があったのに、全く嘆かわしいよね。」
「なるほどな、何でお前がそんな話を知っているかはこの際置いておくとして。かなり話が脱線してきてるが、結局お前は何が言いたいんだ。ゲスな会話と女の子にモテる話と何が繋がるんだ。」
「分からないかなー。つまり最初に許されるギリギリのエロい状況を僕達が作っておき、女の子達自らエロい状況に慣れてしまえば。僕達と女の子達の心の距離は縮まり、自然と僕達は女の子達からモテる事に繋がるんだよ。どうだい僕の女の子達にモテるための三段論法は、新機軸だろ。」
「なるほどなよく分かった。お前が大馬鹿野郎だって事が。」
この後、僕達は入学式の序盤にもかかわらずに、教員達から強制的に会場から退場させれた。
式が終わった後の新入生同士のレクリエーションにも出られず、正座で一時間程説教させられ、明日までに反省文400文字10枚という罰を食らわされた。入学式の最初に偉そうな学園長が「この学校では自由にしていい、好きなように行動しろ、学生の自主こそがこの学園のルールだ」と言っていたので、親友とゲスな会話をしたのが何故いけないんですかと無垢な質問をしたのだが、反省文が倍の20枚の提出という結果に相成った。
子供が親に向かって「赤ちゃんはどうやって産まれるの?」という質問と同様に、無垢な質問というのは大人を困らせてしまう事が分かり僕達はまた一つ大人になった。また僕達親友同士は「お前のせいだ!」「いや、お前のせいだ!」と責任を擦り付けあって、熱い友宜を確認する事も忘れない。
教員達からお前達は自分で学園内施設の場所を勝手に調べろ、と言われ学園のパンフレットと授業のカリキュラムを渡され、しっしっと手で追い払われその場を後にした。
教員達から受けたこの厳しくも優しい指導は僕達を強い大人にしてくれるに違いない、この事を忘れないように叔母さんから貰ったはいいが今まで開いた事さえない日記を思いだし、今日の思い出を綴る記念の一ページに教員達の名前を書こうと決めた。いやー叔母さんもたまに役に立つもんだ。
そんな事を隣で歩く親友に話してみると。「デ○ノートかよ。」と言われたが、まだ読んでないマンガなので今度貸してもらおうと思った。