自称親友
入学式
叔母を送り出し後顧の憂いがなくなった僕は学校に行く準備をして家を出た。
学校は最寄りの駅から、快速電車数本の距離で、通うにはちょうどいい。家から最寄り駅まで徒歩10分程の距離を進む。これから毎日通う道新たなる門出だ、と清々しい気持ちで歩いていく。
「オーイ、そー。」
清々しい空気が霧散してしまう予感がしたので、振り返らず無視する。
「オーイ、創ー。」
これが近所に住む女の子だったらどれだけ良いだろう。と、野太い声を脳内変換して現実逃避を図る。声優は花澤香菜だ。
「おい、創ってば!」
チッ、だんだん近づいてきやがったか。
一緒に登校したくないから早めに家を出たのにとんだ誤算だ。自称僕の親友はまるでそれが当たり前というように僕の隣にやって来た。
何度か僕に呼び掛けてくるが出来る限り無視してみるが、とうとう乱暴に肩を掴まれた。
「おいってば、何で無視すんだよ。」
「ああ、翔か、おはよう。ごめん、ちょっと音楽を大きなボリュームで聴いてて、周りの音がよく聞こえなかったんだよ。」
本当は無視したかったんだが無視したらしたでよけい鬱陶しくなるので、ここは大人の対応で嘘をつく。もちろん僕は周りの音が聴こえない程の大きな音など出しはしない、そんな音出してたら危ないし周りに迷惑がかかる。僕はマナーは守れる人間だ。
「ん、そうか。でもそんな大きな音だと周りの音が聴こえないから危ないぞ、音が周りの迷惑になるし。気を付けろよ。」
「うん、分かったか気を付けるよ。」
尤もな言葉だが、この男の上からの物言いに若干イラっとするが、一々気にしていても仕方がないので、素直に受けておくことにする。
この朝っぱらから僕を不快にさせてくれたくれた男は、近所に住む 神崎 翔という。
信じられない事であるが、栞さんの弟である。この男に興味はないので詳しくは知らないが、どうやら遠くの親戚の子供を引き取ったらしい。
しかし少しとはいえあの女神のような栞さんの血が、目の前の野人の体に入っているとは、コイツに会うたびに人体の神秘を考えさせられる。
「なんだ、朝から死んだ魚みたいに濁った目をして。」
朝から軽いジャブを食らう。誰のせいだ誰の!
「君こそ、朝から犬のような臭いを醸し出してるね。」
すかさず反撃。僕はやられたらやり返す男。
「はー、相変わらずだなお前も、これから高校生だってのにそんな事言ってると、そのうちイジメられるぞ。俺がいつも助けてやれる訳じゃないんだからな。」
「そういうのブーメランって言うんだよ。」
「相変わらず口が減らない。・・・あ、そうだ、ねーちゃんは量子さんを向かいに行けたか?朝見かけたときなんか気合い入ってたけど。」
「なんとかね、なんか誘拐現場みたいになって、近所の人に心配された。」
朝の騒動の後近所のオジサンが誤解して警察に通報しかけた事を思い出して嘆息する。
「いいなー、量子さん。顔はいいしスタイルはいいし頭はいいし性格は明るいし。どんなヒロインキャラだよ。」
「人の家の叔母をキャラ扱いしないでよ、飯が不味くなるだろう。」
人の気持ちを知ってか知らずか翔は人の話を聞かず、訳のわからない事を宣う。
「いやでも、実際羨ましいって思ってるやつ多いと思うぞ。」
「じゃあ君にあげよう。結納金として十万円下さい、返品不可です。」
外見だけはいいんだよなと素っ気なく話す、すると翔は変な顔をして少し黙り話始める。
「・・・・・なあ。ぶちゃけお前って量子さんの事嫌いなの?」
「どうだろ、好き嫌いで一緒に暮らしてるわけ時じゃないから、ただ時々引っ叩きたくなるだけ、実際にはやらんけど。」
「・・・・・お前って鬼だな。そこは嘘でも好きって言っておけよ、あんな好き好きオーラ出してる人によくそんなに冷たく出来るよな。」
「嘘を言ってはいけませんと叔母さんに教えられたからね。それに北風と太陽って話くらいは知ってるでしょ、何事も加減だよ加減。」
「お前の血の色ってなに?」
「え、赤だけど? ほらそんな事より電車来たよ、行くよ親友。」
「・・・・。」