神経電位操作式義手ーーカイナ
僕は神経電位操作式義手ーー通称カイナを10才から取り付けている。
何年も研究開発試作が重ねられ、現在はまるで元の手のような滑らかな動きを見せる。
自分に取り付けられているのは最新式であるが、同時に研究のための義手でもある。
世間ではこの動きをするだけで高い評価を受ける。
しかし彼の理想はまだ遠く、少しでも目標に近づけるために、毎日義手のモニタリングと調整をする。
義手を取り付けた彼は着替えを済ませ顔を洗い、朝食の準備に取りかかる。
人工の樹脂でラバーコーティングされた義肢は人間の皮膚と見分けがつかない位良く出来ており、衛生面でも問題はない。
彼の理想とする義手は日常生活でも当たり前のように使用できる事が必須である。なので基本的に常に義手を着けたまま、彼の家の家事全般を行っている。
これも試験の試みであるが、半分くらいはこの家主の家事の壊滅的な能力ゆえに覚えざるおえなかったスキルでもある。
今日の朝食はオーソドックスに目玉焼きである、一見簡単そうに見えるが機械義手で料理を行うのはとても難しい。
フライパンなどの器具を持つ、包丁を使って肉や野菜を切るなどの単純な作業はなんとか出来る。
だが素材を義手で調理するという微妙な作業は難しい。
その中でも卵を綺麗に割るという作業は至難を極める。
卵を持ち調理台の角で殻にひびを入れる、弱すぎてはひびをが入らないし、強すぎては卵を潰してしまう。
ゆえにとても繊細な力加減か必要であり、一流の機械義手とその操作者にとってはこの作業が出来るかできないかが、一つの試金石となっているとも言える。
だがその困難な作業を彼は事も無げに行う、しかも片手で卵を器用に割る。
その時点でこの義手と彼の操作の熟練度が伺える、そのレベルは世界でトップレベルに位置すると思われる。
だが彼にとってはこれは義手研究の一環でありそれを世間に公表する気も誇る気もない。ただ理想にはまだまだ遠いなと思うだけである。