18話 エピローグ
翌朝になると、囚人たちの移送作業が開始された。
戦いの余波で至る所が損傷しており、これまでのように監獄として運営していくには難しいらしい。
ベレツィの村人たちを含め、全ての囚人は中央教会に連行されることになる。
昨晩の戦いは苛烈なものだった。
グレンは欠伸を噛み殺しつつ、微かに残る腕の疲労に辟易とする。
「まだ疲労は抜けていないようですね」
シェーンハイトが横に腰を掛ける。
彼女の治癒魔法がなければ、きっと今朝の寝覚めは最悪なものになっていただろう。
「まあ、あれだけのバケモンを相手にすればな」
初めて対峙した『穢れの血』は、彼の想定を遥かに上回る怪物だった。
老齢の聖職者でもグレンと真正面から打ち合えるだけの肉体へと変異してしまうのだから、元から腕の立つ戦士などが力を得てしまうと厄介だ。
或いは、ヴァンのように特異な力を発現させている可能性もある。
「あの打ち合いは見事でした。正直、人間業とは思えないほどです」
「努力はしてきたつもりだ。今回ばかりはさすがに焦ったが」
傭兵稼業を続けていく中で窮地に陥ったことは何度もあった。
数に圧倒されることもあれば、麻痺毒によって動きが鈍ってしまったこともある。
特に巨竜を討伐した際は酷い手傷を負ってしまい、しばらく安静に過ごさなければならないほどだった。
だが、シュラン・ゲーテは違う。
純粋な力勝負でグレンに危機感を抱かせたのはこれが初めてのことだった。
限界まで鍛え上げた肉体でも、穢れによって凶悪化した相手では十分ではないのかもしれない。
「……一つ、質問してもいいでしょうか?」
シェーンハイトが尋ねる。
特に断る理由もないだろう。
真剣な面持ちを見れば、取るに足らない話題というわけでもないらしい。
グレンが頷くと、一息置いてシェーンハイトが問う。
「貴方はなぜ、そうまでして強さを手に入れたのですか?」
傭兵として生計を立てるだけであれば、ここまで強くなる必要はないはずだ。
その強さは明らかに人外の領域に足を踏み入れている。
彼女も枢機卿として技術を磨いてきたが、それでもグレンほど鬼気迫るような鍛錬は積んでいない。
――戦う理由が知りたい。
それが、シェーンハイトの純粋な疑問だった。
信仰があるわけでもなく、傭兵として各地を旅するグレン。
その強さの元となっているものは何なのか、それを知ることで自身の成長にも繋がるのではと思っていた。
「そう、だな……」
グレンは言葉を詰まらせる。
それは思い出すだけでも心が酷く痛む、忌まわしい記憶だ。
「……復讐のためだ。俺には、殺さなきゃならねえ奴がいる」
「復讐、ですか。もしかして相手は――」
――『穢れの血』。
言葉に出そうとして、シェーンハイトは思わず口を閉じてしまう。
グレンから凄まじい殺気が漏れていたからだ。
仇の顔を思い出そうとすると、その心を強烈な憎悪が満たす。
「……すまねえ。今のは洒落にならなかったな」
グレンは平常心を保とうと深呼吸をする。
脳裏にこびり付いた不快な哄笑は、今もなお彼の心を蝕んでいた。
自分は戦闘狂ではない。
それは断言出来ると思っている。
あくまで故郷を、そして家族を自分から奪った『穢れの血』に復讐するために力が要る。
彼にとっては自分自身さえ復讐の道具なのだ。
そのためならば極限まで肉体を酷使することを厭わない。
傭兵稼業で生計を立てているのも、来るべき時に備えて経験を積む必要があるからだ。
元より、彼がアーラント教区を訪れたのは仇である『穢れの血』の手掛かりを探すため。
もしかすれば何か知っているのではないかと思い、シェーンハイトに問いかける。
「情報が欲しい。質の悪い『穢れの血』について、手配書でも持ってねえか?」
「そうですね……外見的特徴などは?」
「長身で、血色の悪い痩せ気味の男だ。完全に頭がイカれてやがる」
その男は完全に理性が飛んでいた。
人の悲しみを愉悦とする最低な趣味を持つ狂人だ。
シェーンハイトは少し悩んだ様子で瞑目する。
僅かに心当たりがあった。
それを話すべきか否か、逡巡するが今更隠すような必要もないと思い至る。
「……これは上層部のみに解放されている『穢れの血』の手配書です」
羊皮紙の束を取り出す。
そこには何人もの凶悪な『穢れの血』の情報が事細かに記されていた。
「いいのか、こんなものを見せちまって」
「構いません。貴方に見せることはエルベット神教にとっても利があると判断したので」
そして、その中から一枚をグレンに手渡す。
「名はシャーデン・フロイデ。各地で様々な災害を引き起こし、有力な貴族から貧しい子どもたちまで見境無く標的にする凶悪犯です」
「こいつは……」
その顔は、確かに記憶に残る滲んだ男の影に似ていた。
乱れた長髪に痩せこけた頬。
その眼光は鋭く、睨み付けるような三白眼をしている。
――シャーデン・フロイデ。
その名を噛み締める。
僅かな手掛かりさえ掴めなかった仇の名が、今こうして手に入ったのだ。
考えてみれば、リスティルはこれを見越して『旨い話がある』と声を掛けてきたのかもしれない。
「間違いねえ。こいつだ」
グレンには確信があった。
シャーデンという男が記憶に残る仇に酷似しているのもそうだが、心の奥底に封じ込めた本能的な恐怖が呼び起こされるような感覚があるからだ。
これほど悪質な輩が大陸に何人もいてほしくないという思いもある。
「……この男は危険です。少なくとも、エルベット神教では何度も捕縛を試みて失敗しています」
「そんなに強いのか?」
「腕も立つのですが、それ以上に悪知恵が回る手合いです」
大陸に広く信仰されるエルベット神教に狙われ続けているというのに、この男は上手く立ち回りながら罪を重ねていっているのだと言う。
探し出して殺す、というような単純な話では済まないかもしれない。
「これだけ情報をもらえれば十分だ。助かる」
グレンは手配書を仕舞う。
以前のように何の手掛かりもなく探していた時と比べれば随分と進歩しただろう。
問題は、相手がこちらの想定を上回る動きを見せる可能性があることだ。
足取りさえ掴めれば追い詰められるだろう。
巧妙に足跡を消されてしまったとしても、相手が『穢れの血』である以上はリスティルが感知することが出来る。
そこまで思い至ってグレンは肩を竦める。
どうやら、もうしばらく二人と旅を続ける必要があるらしい。
利害が一致しているのだから断る理由もない。
「それでは、私は部隊指揮に戻りますので」
そう言って、シェーンハイトは背を向けて立ち去ろうとする。
だが、すぐに足を止めて振り返る。
「……また会う機会があれば、今度は二人で食事でもいかがでしょうか」
「そりゃ光栄だ。テーブルマナーを覚えねえとな」
グレンの返事を聞いて、微かに口元を緩めて去っていった。
任務に私情は挟まない冷徹な人間のように思っていたが、案外人間らしいところもあるのかもしれない。
馬車の準備が終わると、囚人たちが騎士に連れられて荷車に押し込まれていく。
ベレツィの村人たちは元々マルメラーデ監獄にいた罪人とは別の馬車に分けられるらしい。
シェーンハイトの指示の下、丁寧な扱いを受けていた。
その表情に悲壮感は無い。
中央教会で再審議されることになるが、枢機卿の一人であるシェーンハイトの口添えがあるのだから心配するような事態には陥らないだろう。
どこか安堵した様子で馬車に乗り込んでいく。
「グレンさんっ!」
列に並んでいたユリィが眩しい笑顔で手を振っていた。
横に立つクラウスも、感謝の気持ちを込めて深々と頭を下げる。
この短期間で多くの命が失われてしまった。
思うように事が進まず焦燥に駆られることも多々あった。
だが、悲惨な死の運命から解放された二人の様子を見て、あの親子が無事に生き延びただけでも良しとしようと思えた。
やがて全員が乗り込むと、馬車がゆっくりと移動を始めた。
これで一通りの役割は果たした。
後はリスティルの評価次第だろう。
世界に穢れを齎した『六芒魔典』の存在。
恐らくは、リスティルと因縁を持っているであろう危険な輩だ。
今後も敵対しなければならないのだとすれば、確かに彼女が傭兵である自分に声を掛けたのも納得出来た。
あの幼い少女は、大きな使命を持って旅をしている。
しかし、その詳細は未だに知らされていない。
現状では、お互いに信用できるか試している関係性なのだ。
「俺の仕事には満足してくれたか?」
横に並んで馬車を見送るリスティルに問いかける。
満足げな彼女の笑みを見れば、聞くまでもないことは明らかだった。
「正直、期待以上だった。実際に見るまで半信半疑だったが……『穢れの血』でなくとも、英傑はいるものだ」
「そりゃ良かった。なら契約は継続ってことだな」
リスティルが頷くと、グレンは胸を撫で下ろした。
監獄での一連の事件を考えれば、今後も過酷な旅になるのは明らかだ
互いに利益があるからこそ契約は続く。
「なあリスティル。そろそろ俺に、詳細な目的を教えてくれてもいいんじゃねえか?」
「ふむ、確かにそうだな」
リスティルは少し考えるように瞑目する。
「私の目的は、大災禍によって齎された全ての穢れを奉還することだ」
「奉還? どういうことだ?」
穢れを差し出すべき場所があるのだろうか。
その疑問にもリスティルは答える。
「『六芒魔典』は深界への扉を開くことで、この世界に悪しき力を蔓延させた。私はそれを、あるべき場所に戻すために旅をしている」
故に、これは奉還なのだ。
深界に全ての穢れを戻すことが出来れば、世界各地で起きている異変は収まることだろう。
そのために『穢れの血』を探し出して穢れを回収している。
「ある程度の穢れを回収すれば、儀式方陣《バロティアの魔喰門》によって全ての穢れを深界へと奉還出来るだろう」
「便利なもんだが……お前は穢れを取り込んで平気なのか?」
「問題ないさ。何と言ったって、私は聖女だからな」
リスティルはそう言うが、グレンからすれば幼い子どもにしか見えないため不安だった。
もし不調が出てきてしまうなら他の手段を考えなければならないだろう。
今のところは問題無いようだが、大量の穢れを身に宿して平気でいられるとは思えなかった。
「そういうわけだ。よろしく頼むぞ、グレン」
「ああ。頭脳戦以外なら、いくらでも頼ってくれて構わねえぜ」
冗談めかして言うと、リスティルは年相応の笑顔を見せる。
案外子どもらしいところもあるものだと思った。
そのやり取りを見てヴァンは心底残念といった様子で大袈裟に溜め息を吐く。
「はあ……こんな粗暴で信仰心も無い男が加わるとは」
「残念だったな。まあ、そういうわけだからよろしく頼むぜ」
相変わらずの様子だったが、以前のような敵意は感じられなかった。
今回の一件でヴァンにも少し思うところがあったらしい。
「……まあ、貴方もほんの少しくらいは役立つみたいですし。リスティル様の判断であれば、我慢するしかありませんね」
素直じゃねえな、とグレンは心の中で呟く。
事ある毎に殺気を向けられないだけ、多少は信用を築けたのかもしれない。
「それで、次の目的地はどこなんだ?」
「アーラント教区から北に位置するデオン伯爵領だ。近々、そこに『穢れの血』が凱旋するだろう」
リスティルは既に詳細な情報を持っているようだった。
昨晩の未来予知によって、前回より多くの情報を得られたらしい。
凱旋という言葉が僅かに気になっていた。
「では、次なる地へ征くとしよう」
自信に満ちた笑みを浮かべるリスティルを先頭に、一同はデオン伯爵領を目指して移動を始めた。
◆◇◆◇◆
「――以上が事の顛末になります」
マルメラーデ監獄における一通りの出来事を説明し、シェーンハイトは着席する。
当然ながら、グレンたちの情報に関してはある程度暈して説明した。
十字架を模した大きなテーブルを囲むように、室内には彼女を含め四人が集まっていた。
エルベット神教上層部、その中で最も強い権限を持つ四人の枢機卿。
彼ら聖十字卓議会は、信仰に身を捧げ戦う一騎当千の騎士たちだ。
この場には一人とて弱者は存在しない。
「まさか、グレゴール大司教が『穢れの血』だったとは」
壮年の男性が意外そうに呟く。
その顔には古い傷跡が残っており、見る者に過酷な戦場を生き抜いてきたのだと悟らせる。
大柄で体格も良く、しかしその表情は温厚さが窺えた。
枢機卿序列三位『鉄槌』ゲオルグ・ロイエ・ア・ポステル。
元は辺境の教会で神父をしていた男性である。
その出自は平凡なものだが、信心深さと優れた身体能力を買われて騎士となり、実績を積み重ねて枢機卿となった人物だ。
「上層部に邪教徒が紛れ込んだと知れたら、間違いなく混乱が起きるでしょうな。この話は我々のみで握り潰さなければ」
ゲオルグは困ったように対面に視線を向ける。
そこには可愛らしい兎の人形を抱えた少女が眠たげな表情で座っていた。
目の下には大きな隈があり、肌も青白く不健康そうな印象だ。
「はあ……面倒。身内の監視なんて、司祭共にやらせておけばいいのに」
枢機卿序列二位『天魔』アルピナ・フェルメルタ。
天才的な魔術の素質を持つ少女だ。
その小柄な体には強大な魔力を宿しており、大規模な魔術の行使を得意とする最高峰の魔術師だ。
才能に溢れる反面、本人は酷く無気力。
信仰心も無いわけではないが、積極的に仕事に取り組むようなことはしない。
戦争など有事の際のみに駆り出されるため、普段は自由に過ごしている。
「シェーンハイトさあ、わたしまで呼ばなくてもよかったんじゃない? 眠いんだけど」
「必要な事態だと判断しましたので」
「……あ、そう。それじゃ手早く済ましてね」
そう言って、アルピナは下を向いて兎の人形を弄り始めた。
ゲオルグに視線を向けると、彼は仕方がないといった様子で肩を竦める。
「それで、シェーンハイト卿。我々を招集するほどの事態とは?」
「今回の一件ですが、グレゴール大司教は素性を偽っていました。その正体は『六芒魔典』の一人、シュラン・ゲーテです」
その言葉にゲオルグが目を見開き、アルピナも手遊びを止めて顔を上げる。
信じられないといった様子でこちらを見ていた。
「長年影を潜めていた『六芒魔典』が今になって姿を現すとは……」
「嫌だなー。なんか面倒なことになりそうだし」
それだけ異常な状況だった。
上層部に邪教徒がいただけでも驚きだというのに、その正体が大災禍を引き起こした『六芒魔典』だというのだ。
当然、すぐには信じられないだろう。
会議室に重苦しい沈黙が訪れる。
軽々しいことを発言できる空気ではなかった。
「……これは由々しき事態だ」
それまで黙していた男が声を発する。
眩い金髪の青年だった。
その眼光は鋭く、険しい表情を浮かべてシェーンハイトを見つめる。
枢機卿序列一位『剣聖』ラインハルト・ハーケンシュタイン。
信仰に全てを捧げ、邪教徒の排斥を目指す気高き剣士。
少なくとも、シェーンハイトが知る限りでは最も強いであろう人物だった。
「これはエルベット神教の威信に関わる問題だ。マルメラーデ監獄における出来事は口外すべきではないだろう。当然、その場に居合わせた者も可能な限り処分する必要がある」
「な、何を言っているのですか……?」
シェーンハイトは困惑したように尋ねる。
だが、ラインハルトは冷酷な表情を浮かべている。
彼からすれば、監獄から移送されてきた囚人の命など取るに足らないことだった。
「分からないのか? ならば、シェーンハイト卿。愚鈍な貴女に分かりやすいよう、この俺が教授してやろう」
嫌な予感がしていた。
彼が行おうとしているのは、あまりにも非道な選択。
絶対に耳を傾けてはならない。
「殺すのだよ。移送されてきた囚人を、一人残らず処刑する」
「そんな……ッ!」
シェーンハイトは呆然とする。
まるで彼の考えが理解出来ない。
許容してはならない。
だが、ラインハルトは冗談を言っているわけではない。
彼にとって最も重要なことはエルベット神教の存続であり、貧しい無辜の民が少数死ぬ程度のことは気に留める必要もない。
「精々十数名だろうに何を嘆く必要がある。その命を生かすことで危険が生まれる方が問題だ」
「いえ、しかし……ッ」
抗議する言葉は見つからない。
この場に居る者たちは全員、エルベット神教を守るために集められた枢機卿だ。
ゲオルグとアルピナに視線を向けるも、彼らは突き放すように視線を合わさなかった。
「シェーンハイト卿。俺には、なぜ貴女がそうまで甘い判断をするのか理解が出来ない」
「んー、面倒だし村人なんて殺しちゃえばいいよ」
「アルピナ卿の仰る通りですな。『六芒魔典』が暗躍している以上、こちらも無用な危険を抱えるわけにはいかないでしょう」
他の三人は、ベレツィの村人たちを容赦無く殺す気でいるようだった。
元々はシェーンハイトも同意見だったが、監獄での一件で僅かに心が揺らいでいた。
その揺らぎをラインハルトは見逃さない。
「先ほど『穢れの血』を討伐する際に協力者がいたと言っていたが、その者たちについても少し話してもらおう。『六芒魔典』を相手にできるとあれば、相応の強者なのだろう?」
シュラン・ゲーテはシェーンハイト一人で対峙出来るような相手ではないと考えていた。
同じ枢機卿として互いの実力を正確に把握しているからこそ、協力者の存在が大きいのだとラインハルトは気付いている。
「……三人の旅人でした。一人は高貴な身分の少女で、一人はその従者。もう一人は傭兵です」
「傭兵風情に助けられただと?」
ラインハルトの表情が険しさを増す。
崇高な目的を掲げて戦う枢機卿が、金で雇われるような傭兵の力を借りるなど言語道断。
場合によっては、彼女の信用に関わるとさえ考えていた。
「傭兵の名は?」
「……グレン・ハウゼンです。『狂犬』の異名を持ち、傭兵界隈では名の通る人物だと聞いています」
ラインハルトには聞き覚えのない名前だった。
そもそも傭兵に興味を持っていないのだから当然だろう。
「そのグレンとやらは『穢れの血』を相手にできるほど腕が立つのか?」
「はい。私も少し助力しましたが、恐らく彼一人でもシュラン・ゲーテと互角以上に渡り合えたことでしょう。私の見立てでは、ラインハルト卿に匹敵するかと」
最後の言葉に、ラインハルトはあからさまに不機嫌な様子を見せた。
彼は技量に絶対の自信を持っており、戦いにおいて自分の右に出る者はいないとさえ思っている。
それ故に、シェーンハイトの発言が気に障ったらしい。
「……少しばかり興味が湧いた。シェーンハイト卿がそこまで称賛する男に一度会ってみたいものだ」
強烈な殺気が漏れていた。
会議室に剣呑な空気が漂い、同じ枢機卿であるゲオルグとアルピナでさえ気圧されてしまう。
あくまで同じ肩書でしかない。
順に上から並べた四人を枢機卿に据えただけであり、事実として他の三人とラインハルトには実力に大きな隔たりがある。
凄まじい力を持つからこそ彼は『剣聖』と呼ばれるのだ。
「さて、それでは閉会としよう。各自、『六芒魔典』について優先して調査を進めてくれ」
「ラインハルト卿。まだ囚人たちの処遇について――」
「くどいな」
ラインハルトは突き放すように言う。
彼を説得出来るだけの言葉をシェーンハイトは持っていなかった。
「移送されてきた囚人は今晩処分する。これは決定事項だ」
有無を言わさぬ冷酷な声色で宣言すると、ラインハルトは会議室から去っていった。




