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004

 幸いにもラルダは私以外には見えていないらしく、この一週間、何も問題なく過ごすことが出来た。

 それと共にこの世界が現実だと言う思考が私を支配する。

 …別に帰りたいわけじゃない。

 帰ったって、私には何もない。

 強いて言えば、祖母と祖父に全く親孝行出来なかった事…くらい。


 ここにいればみんなが私を見てくれる。

 父さまも、母さまも、私に笑顔を向けてくれる。

 親と一緒に食事ができる。

 私にとって、《親》という存在以上の幸福は無かった。


 私は、授業参観が嫌いだった。

 運動会が憂鬱だった。

 音楽会が嫌だった。

 …親が褒めてくれる同級生達が羨ましかった。

 祖母と祖父とはまた違う…《親》という存在。

 私はそれを、羨んだ。


 …ダメだ、思考がおかしくなってる。

 お忍びで街に出てみようかな。

 そうすれば、こんな事忘れられるし楽しいだろうから気分転換にもなる!


「キール」


「はい。エスメラルダ様」


「街に行きたいわ。平民の服と少量のお金を用意して」


「…お嬢様?」


 何を企んでいるのか、と訝しげに私を見てくるキール。


「良いから…命令よ」


 最終手段だ。

 キールは命令には逆らえない。

 お願い、と命令では言葉の重さが全然違うのだから。

 …知ってて使う私も私だが。


 エスメラルダは大人びてるし、身長も高いから、5歳だが7歳くらいに見えない事もないだろう。

 私は、引っ張りだしてきたストロベリーブランドのカツラと、焦げ茶のカラーコンタクトを取り出す。


「エスメラルダ様、用意出来ました」


「そこに置いておいて。…着替えるから一旦部屋から出てくれるかしら?」


「かしこまりました」


 一度礼をしてから…少し私を見てから…キールは部屋を出ていった。

 出ていったと言っても多分ドアの前で待っていると思うが。

 早速動きにくいドレスとコルセットを脱ぎ捨ててキールの持ってきた平民の服に着替える。

 それからヒールをぺったんこの靴に履き替える。

 最後に髪を上げてカツラをはめてカラーコンタクトをつける。


 私の部屋は一階だ。

 窓から出る事も難しくない…。

 心の中でキールに「ごめん」と謝った私はお金をポケットに入れて窓から外へ出た。

 そこから門番のいない隠し門を通り…やっと城下町に出る事が出来た。

 …今頃屋敷は大騒ぎだろう。

 再度…今度は皆に向かって「ごめん」と心の中で謝った私は、市場に向かって歩きだした。


 普通、貴族の令嬢は街に降りても仕草や言動で貴族とバレ連れ戻されるのがオチだが一応、前世?で平民の記憶がある私。

 そう簡単にはバレる事は無いはず…。



「あら、見ない顔だね。おつかいかい?」


 市場に着くと、ふくよかなパン屋のおばさんが話しかけて来た。

 ニコニコと笑い私の返事を待つ。


「はい!お母さんに、パンと野菜を買って来てほしいって言われて来ましたっ」


 イメージは小学生になりたての元気っ子。

 平成より昭和よりの子供は風の子的な子供。


「そうかい…パン、うちで買ってくかい?」


「うんっ。えーと…丸パンを五つちょうだい」


「はいよ。丸パン五つだね…銅貨五枚だよ」


「どーぞ。…おばさん、ありがとう!」


「また買っておくれ」


 私はキールから貰った銅貨二十枚のうち五枚を渡してパンを入れた袋を貰った。

 フワフワの丸パンはとても美味しそうだ。


 パン屋を出た私はもう一度一場をみてまわる。

 昼間でも賑わう市場は、ニートコミュ障の私にはちょっとキツかったが。


 だいたい店も回りきった時、私は酒場でみてはいけない人を見つけてしまった。


「…殿下?」


 そう。現第一王子ラガルハーネル殿下だ。

 変装はしているが《プラネット》を何回もプレイした私にとって見分けるのは簡単だった。

 何故かテーブルで大人とポーカーをしている様子。

 殿下は無表情で、その一方、相手は余裕ゼロだ。

 …陛下のポーカーフェイスを受け継いだ殿下には、よっぽどの自信がないと挑めない。

 ましてやポーカーフェイスだけなら良い、が…ポーカーフェイスに加えゲーム全てが強いのだ。

 私も嗜み程度には出来るが、あまり強くは無い。


 と言うか、なぜ殿下がこんなところにいるのか。

 疑問でならない。


 私は、好奇心を抑えきれず店へ入ってみた。

 エスメラルダだとバレれば今までの言動とから嫌われている私は不敬罪になるかもしれないが…。

 洋楽が流れ、アルコールの匂いが漂う…スナックに似ていると思う。

 私は、殿下のポーカーを見るため近くへと足を運んだ。


「僕の勝ちだ。…賭け金を渡してくれ」


 …王子とは思えぬ口ぶり。

 殿下は脱走常習犯なのだろう。

 私と一つしか歳が違わないのに…すごいと思う(てか精神年齢20越えなんだけど)。


 次々と相手が勝負を挑むが殿下は負ける様子がない。

 だんだんと挑戦者が少なくなって来た時、私は手を挙げた。


「私、やります!」


 殿下は私を一目見ると、向かいの席に座れと促した。


「賭け金は?」


 …私は黙ってブレスレットを外す。

 これはもしもの為に持っていた物で一見水晶に見える丸い玉は、全てがダイヤだ。


「子供の玩具オモチャを賭けると?」


 殿下はイラついた様子で私を見る。

 そして私は小さく、殿下にしか聞こえないように呟いた。


「水晶ではありません。全て、ダイヤです」


 その言葉に殿下は私のブレスレットをまじまじと見た。

 そして、ダイヤだと気付いたのだろう。

 驚いた目で私を見てきた。

 …そりゃ、平民なんかが持っている物ではないでしょうとも。


「お前…名前は」


 名前、何が良いだろう。

 すると私の頭の上で寝ていたラルダが目を覚ました。

 私は出来るようになったテレパシーの魔法でラルダに聞く。


『名前、私の名前何が良いと思う?』


『うーん…クレアは?クレアは?クレープクレープ』


『そうね。クレアにしましょう』


「で、名前は」


 答えない私に殿下はもう一度言う。


「クレア…クレアです。あなたのお名前は?」


 殿下はどんな名前にしているのだろう、と興味を持った私は、さし当りの無いように聞く。


「僕、僕か?ダリウドだ」


 …ダリウド?

 この世界で彗星という意味…キラキラネームか。

 適当に考えただろうその名を私は忘れないように心に刻む。

 後でからかってやる為に。

 身分的に出来るかわからないけれど。


「では、ダリウド。始めましょうか」


「そうだな。ディーラーはこの店の店員だが…良いな?」


「…はい。それで構いません」


 良いな、って聞いているのか強制してるのか…。


 五枚トランプを引き手札を見る。

 ワンペアは揃っていたが、私は五枚全て捨てた。

 新しく五枚引いて私の出番は終了する。

 …手札はフルハウス。


「良いですか?」


「ああ」


 殿下ダリウドの出番も終わったらしいので、一斉にトランプを反す。


「私の勝ちですね!」


 私がフルハウスなのに対し、殿下ダリウドはスリーカード。

 賭け金の追加などはしていないので、私は賭けられていた金貨を貰う。


「次は…負けた方は買った方の言うことを一つ聞く、なんてどうですか?」


「…それでやろう」


 さぁ、第2ラウンドの始まりです。




ブックマークありがとうございます!

目指せ!一万ブックマークです!

これからもよろしくお願いします。

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