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星がない世界で一人




「……風邪ひくぞ」




呆然と暗闇から薄暗い藍色に空が変わっていく様子を眺めていると、聞きなれた声に思わず視線を上げた。そこにはセイの顔と同じ___セイドリック。




セイドリックは私の散々泣きはらして酷いだろう顔を見て眉を顰めて、地面に力なく手をついている私の手を引っ張って立ち上がらせた。急に立ち上がったことによりくらりと眩暈がするが、セイドリックに支えられて倒れることはなかった。




……こんなにもセイなのに。もうセイじゃない。




「……セイドリック」




そう呟いた私にセイドリックが息を止めたのが分かった。




「セイは…もうどこかへ行った?」




「……あぁ」




……そっか。そう思ったのにそれは言葉にならず、どうしようもない現実を突き付けられまた涙が頬を濡らした。




そんな私の傍にセイドリックはただいるだけだった。




違う、こんなにもセイとセイドリックは違う。




「今…まで、ごめんな、さいっ」




「……いい。もういい」




今更最低なことをした、と青ざめるわけではない。自分がどんなことをしているか分かって行動した。




「……ほら寝室に戻れ。女官には言っておくから、少しは眠るといい」




それでもこんな私に声をかけてくれるセイドリックはどれだけ人として出来た人なんだろうか。恨まれてもおかしくないのに。私はセイドリックの人格を殺そうとしていたのに。




そんな目でセイドリックを見ても、セイドリックは固い表情を少し緩めただけだった。




寝れる気がしない。それでも横にはなりたかったから、セイドリックの好意を受け取って寝室へ向かう。




「……本当に、ごめんなさい」




一度や二度謝って済む問題でもない。けれどどうやら私に怒るつもりはないらしいセイドリックにこのまま謝り続けるわけにはいかない。




だから寝室に通じるドアの前まで来たら、頭を下げて最後の謝罪だと頭を下げた。





「気にするなと言っても気にするだろうが。本当にもういいんだ。寧ろセイには色んなことを学ばせてもらった。ただ苦痛なだけの経験には済ませないと誓おう」




予想外の言葉にゆっくりと顔を上げると、やっぱり表情は硬いけれどどこか清々しそうにそう言って笑った。





「……ありがとうございます」




私も精一杯の笑みを浮かべて今度こそ寝室へと入った。



ポス、とベッドに横になって泣きはらして腫れている目を閉じる。



これからどうしようか。セイの声が耳から離れなくて、閉じた瞼の裏にセイとの記憶が映ってまた泣けそうだ。




胸元の指輪をぎゅっと握りしめてベッドの上で丸くなる。そして小さく祈りを込めると手元が暖かくなる感覚がした。そうこれが聖女である証拠だそうだ。両手を握って祈れば淡い光と共に熱が発生する。この世界のエネルギーの法則を覆すことができるからこそ祈りに恩恵が生まれるそうだ。よくわからないけれど、でもこの熱は暖かい。まるでセイのよう。





もう少し力を込めて祈ると温もりが全身に広がる。これなら眠れそうだ。





当の昔に限界を超えていた体は直ぐに眠りに落ちる。




「お休み、七星」




どこかでセイの声がしたけれど、眠りにあらがうことは出来なかった。





* * *





「聖女様、本日は王都の宮殿での祈りの後孤児院へ行く予定となっております」




「聖女様、先日の祈りのお陰で雨が地方で降ったようです。おめでとうございます」



「聖女様、公爵様が明日聖女様に面会を求めております。如何いたしましょう」




「聖女様、殿下からお花が届いております」








「………何でもいいわ、都合のいいようにして頂戴」






「……承りました、聖女様」







あの日から、一年が経った。




それなのに私は生きている。




生きる理由もないのに生きている。






セイドリックとは一度も会っていない。けれど花だけは毎日のように届いている。殿下からの贈り物を無下にするわけにもいかず、枯れるまで部屋に飾っているためいつもこの部屋は甘い花の匂いで満ちていた。





甘ったるい胸やけがしそうな匂いだ。





女官やら宮宰の補佐やらが出て行った部屋で、そんな匂いに息を吐きながらソファーへ寝転がる。





その際に鳴ったネックレスの音に私は目を閉じた。






セイがいない私は、この一年で何も変わることがなかった。時は全てを変える力があるなんて言うけれどセイは時の力を上回るようだ。





いい加減自分でも悲劇の女を演じていると分かっている。呆れている。でもセイがいないもの。





探しても探しても、いないもの。





悲観のように深い感情ではない。ただセイがいないと言う単調な事実だ。





その事実が私の中で積み重なって_____もう限界だと感じている。





一年よく持った方だ。一年よく下らない聖女を演じれたものだ。





「……もう、いっか」




薄いガラスの靴を割って血まみれで歩いた私はそろそろ歩くのをやめようと思う。0に近い期待を求めて歩くのは終わりにしようと思う。期待が照らす光が生み出す影は、絶望であったから。常に絶望に照らされた私がこれ以上足を傷つける理由はないとふと思った。





甘ったるい花に視線を向けると一つの小さな白い可憐な花束を見つけた。








スズランの花束だ。







私は立ち上がって、その花を手に取る。




「……これって、猛毒なんだっけ」




ぷちり、と一房可憐な花を引きちぎった。






さぁもうすべて終わりにしよう。こんな可笑しな状況も、セイがいない世界で生きることも、全て終わりにしよう______。







ちりん、とまた指輪の鳴る音がした。











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