満点の星空と涙の滴
セイ、と胸の内で零した言葉が口に出る寸前で押し留める。
「殿下、参りましょう」
そうこれから聖女祭として私がこの世界にやって来たお祝いの祭りのパレードに参加するのだ。市民には初めての顔出しで、馬車のようなものに乗って城下の街を一周するという。
既に城の外からはこれでもかと言うほどの歓声が聞こえてきて、私は薄っすらと笑みを浮かべた。殿下はそんな私の手を取って馬車に乗り込むものの、明らかにその顔は焦燥して疲労が溜まっている。私が悪いことは分かっているし、殿下はもう限界だと分かっている。
初日に比べ殿下の肩ぐるしい言葉も冷たい雰囲気も、最近は殆どセイのそれに代わった。柔らかい優しい言葉を囁き、その目を愛おしそうに細めて私にキスを落とす。殿下は演じているのではなくセイが本当に殿下を乗っ取ろうとしているのだ。どうしてセイが殿下の中にいるのか分からないけれど、理解できない何かがあるんだろう。私だってこの世界に来た仕組みも理解していないし、それに聖女だってまだ本当は理解していない。
ばたんと絞められた馬車は直ぐに周りに多くの騎士が乗った馬が走っており、この馬車以外にもいくつも国の重要人物や有名人を乗せて馬車が走っている。騎士も全員総出並みの人数が、煌びやかな軍服をまとって馬に乗っている姿は迫力がある。
思わず窓の外の景色に目を奪われていると、不意に目の前に座っている殿下が私の手をギュッと握った。
「ねぇ、俺も見てよ」
「いっつも見てるじゃない」
クスクスと笑っている殿下に_______セイに私も笑顔を返すと、やっぱりその瞳は幸せそうに細められる。そしてその手には、私が胸元に下げていた指輪の一つが元の主の位置に収まっていた。
私の左手の薬指にもそれは輝いている。時間が戻ったようでとても嬉しい。
しかしこのやり取りもここまで。ゆっくりと開けられた門からは大勢の市民が道の傍にずらりと遥か先までぎゅうぎゅうになってこちらの様子を伺っていた。……すごい人数。
何万人いるのか、と思わず目を見開いたが「聖女様ー!」という歓声に笑みを張り付けた。
左手はセイと握って、右手で市民に向けて手を振る。
聖女様、聖女様、と繰り返される聖女様コールに内心眉を顰めながらも市民と目を合わせながらゆっくりと移動する馬車にあとどれだけの時間手を振り続ければいいのかと繋がれている左手に力を込めた。
丁度そのタイミングで「殿下!」と殿下コールも起こるものだから殿下もその手を握り返してくれる。こんな私を誰もが聖女と崇める異様としか思えない光景に必死に答え、その聖女コールの中でも結構目立つ女の子からの殿下コールに嫉妬なんかしてみたりして何とかパレードを乗り切った。
もちろんずっと振っていた右手はもう動かない。暫く筋肉痛は必須だろう。
ふらふらと女官たちを連れ、その間に女官たちから今日のパレードを絶賛されながらも笑顔で受け流して部屋に入った。右手が痛い。疲れたから、と言えば素直に女官たちは下がり私は寝室に行って無駄に広いベッドに飛び乗った。
……嗚呼、疲れた。腕も疲れたけれど精神的に疲れた。
殿下はこの後も仕事があると言っていたので今日はもう来ないのだろう。最近ずっと一緒にいたせいで殿下がいない方が違和感を感じる。
よし、このまま寝転がっていたら寝てしまいそうと思い女官をもう一度呼び寄せ聖女用の白い清楚なドレスを脱がせてもらい寝る時に着る夜着に着替えた。お風呂は入る元気がないのでもうすっかり慣れたけれど女官に体だけ拭いてもらって、汗を落とした後は今度こそ女官を下がらせベッドにダイブする。
いつもは寝つきが悪くていろんなことを考えたり、辛くなったりして余計寝れなくなる悪循環に陥っているのだが今日ばかりは自然と瞼が落ちてきて意識がスゥっと沈んでいった。
* * *
「……起きて」
ゆさゆさと揺すられる感覚にぼんやりとした頭で目を開けた。……そうだ寝てたんだ。霞んだ視界に映るセイに小さく微笑みかけて、ベッドに膝を立てて私を揺らしているセイに擦り寄る。
「……まだ寝るの」
そう言ってセイの足に抱き付けばクスクスと頭上から笑い声が聞こえた。
「今日だけだよ。お願いだから起きて______ 七星」
セイから紡がれた名前に、今までの眠さなんて吹き飛んで勢いよく起き上がった。
「……今、私の名前」
「七星でしょう?君は。聖女だなんて面白いことやってるけど、君は七星だよ」
いっつも君呼びでなかなか名前を呼んでくれなかったのに、この世界に来てからは一度も呼んでくれなかったのに。セイは聖女としか呼ばれなくなった私の名前を呼んでくれた。
「セイ!」
思わず視界が滲んでしまうほど嬉しくて嬉しくて、その衝動のままセイに抱き付いた。いつものようにクスクスと笑うセイは何だかとっても機嫌が良さそう。
その機嫌を表すかのように、抱き付いた私をギュッと抱きしめたセイは私をそのまま抱き上げてベッドから降りた。けれど私を下すことなくスタスタと寝室から隣の部屋へと歩いて行く。
「どうしたの?」
痛みのないセイの黒髪を弄りながらも、鼻歌さえ聞こえてきそうなほど楽しそうなセイに笑みがこぼれた。
「ねぇ、セイ。キスしてよ」
セイの真似をしてセイの耳元で囁いてみれば「誘惑しない」と言われて小さく唇にチュッと抓むようなキスを落とされた。
「えぇ、もっと」
「これ以上はダメ」
ケチと触っていた黒髪を離すとごめんごめんと頭を撫でられ互いに笑いあった。本当にどうしたんだろう。何か憑き物が落ちたようにすっきりとしているし、今日のパレードがそんなに成功したんだろうか。
セイが足を進める先にはバルコニーがあって、どうやらその様子からまだ外は暗いし私は寝て数時間しか経たない間にセイに起こされてしまったらしい。
セイは目的先が決まっているのか足を止めることなくすいすいと歩いて行く。…どこに向かってんだろう、とセイを伺うけれどセイは楽しそうに笑っているだけで教えてくれなかった。
でもこの先はバルコニーしかないからそこに向かっているんだろう。外の空気でも当たりたいのだろうか。それとも私がまだ寝ぼけてるからって目を覚ませるつもりなのだろうか。
「バルコニーに何かあるの?」
「秘密」
「あ、また秘密って言った!」
セイは秘密が多すぎよ!と怒れば機嫌直して、マイスイートだなんて言ってくる。マイスイートは嫌とそれだけは真剣にセイの顔を見て言えば、にこっと笑ってそのまま口づけてきたんだから上手いこと騙された。それでも機嫌を直してしまった私はセイの首に腕を巻き付けて鎖骨辺りに頬をすりすりとしていた。
その時バルコニーについたのか、ふわりとカーテンが私の頭に直撃し思わず小さく声を上げる。
「さぁ着いたね」
たまにはこうやって運ばれるのも悪くないわね、と中々近い距離に味を占めた私はまたこうして運んでもらおうと計画を立てる。でも着いたなら降ろしてもらえるのかと思えば、ギュッと片手でセイは私の顔をセイの胸に押し付け私の頭をゆっくりと、とても丁寧に撫でた。
そして頭から手離れ、地面に裸足のまま降ろされる。足の裏汚れちゃうなぁ、なんて思いながらセイの顔を見上げた時。
「_______え?」
視界に入った星空に、思わず目を見開いた。
「……綺麗」
ぽつりとそう呟くと、私の手がセイの手に握られる。
「……ここの世界の星、本当に綺麗だよね。日本で絶景スポットだなんて言われてる場所も歯が立たないよ、これには」
見ることのないと思っていたこの世界の星。それは予想していたものより遥かに美しいものだった。東京でセイが買ったマンションから見える星空何てまるで比じゃない。
色んな色の星が密集し、奥行きを作って、光の明暗や色の濃さをそれぞれ作って、とても幻想的だった。今まで沢山の星空を二人で見てきた中で、一番きれいなものだった。
こんな綺麗なものが見れたのはセイと再び会えたおかげ。とそう思ったところで。
「七星、七星は自分の名前が好き?」
予想外の質問に星空からセイに視線を映した。セイは先ほどまでの楽しそうな表情は消し去り、真面目な顔つきで私を見ていた。……こんな顔向けられるの、最初に怒られた時以来だ。その顔になぜか嫌な胸騒ぎがして、眉を顰めるとセイは小さく笑って私の眉に指を添えた。
「聖女としか呼ばれない七星は七星じゃない。七星は七星と呼ばれて初めて七星なんだ。俺は七星を愛してる、他の誰でもない七星を」
セイが言いたいことがよく分からなくて眉間に添えられている手を思わず掴んだ。
「セイ?」
「いつまでも俺は七星を愛しているから。君の名前は聖女じゃない、七星だ」
「ねぇ、セイ?」
セイが言わんとしていることを理解して、セイの腕を強く掴む。嫌よ、嫌。折角こうしてまた会えたのに。折角また星空を見ることが出来たのに。セイが好きで好きで仕方ないのに。
「ずっと離れたくなかったけど、俺のせいで無理だったね。ごめんね、七星」
どうして私の名前を呼ぶの?いつもは君しか呼んでくれなかったくせに。何で今更そんなに名前を繰り返すの。頭に浮かんだ考えを消すかのように別のことを考えるけど、ジワリと涙が滲みこの頭はセイの声を忘れまいとセイの言葉を切り刻もうと必死に覚えている。やめてよ。まだいくらでもセイなら言ってくれるじゃん。ねぇ、やめてよ。
セイもこれが最期みたいに笑わないでよ。
「……やだ、やだ!!」
子供みたいに声を上げてセイに抱き付く。ねぇお願いだからもうどこにも行かないで。まだセイに秘密にされたこと全然教えてもらってない。ねぇ私から消えないで、離れないで。セイ。セイ。
「セイだけなの!セイがいない世界なんていらない!セイがいない人生なんていらない!」
遂にボロボロと涙は零れ落ち、みっともない言葉を叫びながらセイに縋りつく。本当なの。本当に死のうとしたぐらい私からセイを取ったらもう何もないの。
セイがどんな顔をしているかもう涙で歪んでわからない。
零れる涙を拭う指が震えているだなんて、嗚咽を漏らしながら胸を震わしている私には分からない。
「……お別れだよ、七星。セイドリックにはセイドリックの人生がある。一度死んだ俺が奪っていい人生じゃない。それに国王だなんて地位は流石に重いしね」
嘘、嘘つき。私と離れたくないくせに。国王だなんて立場も簡単にこなしてしまうほどハイスペックなくせに。そうセイにまき散らそうとしても言葉にならず、嫌としか口に出せない。
ねぇ嫌だよ。もうお別れだなんて嫌よ。絶対に嫌。
「一度死んだ俺がまたこうして七星と星を見れたんだ。本当に綺麗だ。ねぇ、七星?」
怒鳴りつけたいのに。セイの馬鹿って怒鳴って喚き散らしたいのに。静かに穏やかにそう語るセイに私は必死に頷くことしか出来ない。
どうすればいいの。どうすればセイは考えを変えるの?
もう時間がない。時間がないの。これからを共に過ごす時間が、もう私たちにはないの。ねぇ諦めないで。私を見捨てないで。ねぇ、セイ。
こんなにも愛しているのに。こんなにも好きなのに。
「七星、君は俺の星だった。綺麗で輝いてて必死に手を伸ばせばこの手に触れる星だった。幸せだったよ」
フルフルと首を振って抱きしめる力を籠める。夢だ。こんなの夢だと言ってほしい。きっと目が覚めたらいつも通り日本で、あのマンションの寝室でセイが隣にいる筈よ。そうに違いない。
「せっいっ、やだ、ねぇっ」
「星!!!」
私の叫び声を塞ぐかのようにセイは私の唇に、セイの唇を押し付けた。ただ私は頭が真っ白になってその最期の口づけを甘受することしか出来ない。
ねぇ、愛してるの。愛してるの。ずっと一緒にいたいの。
でもセイは_____それを望んではくれない。
何度も角度を変えて深く交わるキスは、到底聖女がする清らかなものではない。舌だって差し込まれているし、涙で顔もベタベタになっている。
それなのに酷く私は幸せだった。
長い長い長い、永遠と続けばいい。そんな時間。
しかし終わりはやってくるものだ。
そっとセイから離された唇を私が追おうとすると、力強く抱きしめられたことでそれは阻止された。
「ね、ぇっ。セイ!あい、してるの。セイだけなのっ!」
「俺もだよ」
「幸せよ、私。セイが全部くれた。セイが、ぜんぶっ。感情も、心も、愛も、星空が綺麗ってことも!!」
「一つ、秘密を七星に教えてあげる。俺が一番愛した星は_____もちろん七星だよ」
その言葉に思わずセイの胸を押してセイの顔を見る。その顔は本当に幸せそうに笑っていて。
「ありがとう七星、幸せにね」
最期に私が言葉を交わす暇もないまま、トンと首筋を襲った衝撃に視界が真っ暗になった。
* * *
夢を見ていた。随分と懐かしい夢を。
それは付き合って一年ほど経った頃、セイと私は星空を巡る旅行に出ていた。もちろん星空何てモノだから回るは全て田舎。
でも田舎だけあって東京とは比べ物にならない程、何億もの星が空に輝いていた。
そんなどこも綺麗な星空を巡ったとき。
「ねぇ、一番セイが好きな星空ってどこの?」
ふと疑問に思ったことをセイに聞いてみた。
「えー、俺が愛した星空?」
「そう!まさか私の名前の七星だよ、だなんてキメ顔はなしね」
「手厳しいなぁ」
「当たり前よ。そんなくさいセリフ吐く前にセイが一番きれいだと思う場所に連れて行って」
「難しいことを仰る」
「で、どこなの?」
「んー、秘密」
「また秘密!?それで一体秘密が何個目なの!?そんな隠し事していいと思ってるの!?」
「いいのいいの、それにこの秘密の答えを知ったらきっと七星は叫びながら喜ぶと思うよ」
「焦らさないで!ねぇどこ?叫びながら喜ぶってどんなところ?」
「だから秘密」
「また秘密って!セイにミステリアスな男は似合わないから!」
「似合っちゃってんだよなぁこれが」
「いいわ、ならセイの一番の星を見つけるまでとことん全国巡ってやろうじゃないの」
「なら次どこにする?」
「温泉があるところと旅館のご飯がおいしい所ね」
「コラ本来の趣旨は忘れない」
セイは私に沢山の秘密を残した。どうして星が好きなのか。どうして星の研究をしていたのか。私のどこが好きだったのか。他にもことあるごとに質問の答えを秘密と返してきた。だから私はまだまだセイについて知らないことばっかりだったし、知りたいと思っていたことも沢山あった。
あれだけ頬を流れた涙がまた頬を濡らす感覚に目を開ける。ゆっくりと体を起こすとそこはもう見慣れた寝室だった。
「……セイ」
あぁもうセイはいないんだ。今度こそ本当にいないんだ。留めなくボロボロと溢れる涙がシーツにシミを作っていく。
どうしよう。セイがいない。セイがいない。もういない。
「っ、あああああっ」
嗚咽が堪えきれずに、胸の苦しさと息苦しさを吐き出すかのように吐息が漏れる。
静かな暗い部屋。一人で寝るには大きすぎるベッド。私の荒い息以外気配のないこの部屋。
私には理想があった。セイがゆっくりする時間が増えれば沢山セイと触れ合って、セイの子供を産んで、子供とセイと三人で広いベッドに寝転がって他愛もない話をする何て理想。
そうなれば今以上に幸せだと思った。そうなると信じて疑わなかった。
それでもその夢に縋りついた私とは違ってセイは手を離す優しさを覚えた。分かってる。きっと私があのまま殿下と過ごせば殿下はもう正常な神経でいられなかったって。もしセイとそっくりの子供が出来ても幸せにはなれないって。それでも仮初でもセイがいるだけでよかった。
セイ、セイ、セイ。
私の名前を呼んでくれたセイ。誰もが崇める聖女よりも当たり前のように私の名前を呼んでくれたセイ。でもそれに喜ぶ私は殿下にしてきた罪を自覚するしかないのだ。
私だって名前を呼ばれないだけで自分が消えていくような感覚は分かっていた。私は聖女じゃない。七星。でも誰にもそれは通じない。
殿下だってきっと俺はセイじゃないセイドリックだと叫んでいたのだろう。
それでも罪だと自覚しても後悔はしていなかった。本当に私は救いようがない。
「……セイ」
虚ろな目で隣の部屋に続くドアを見る。
まだ空に星があるだろうか。セイと見た星は、浮かんでいるだろうか。
ゆっくりとベッドから降りてドアを開けて、自分の足でバルコニーへと出る。ちゃりんと鳴った音に胸元に手を当てれば、そこには少し前まで当たり前にぶら下がっていた指輪が二つチェーンに通されていた。
私が気を失ってそんなに時間は経っていないのだろう。まだ先ほど見た夜空と変わらない空が広がっていた。揺れる視界で滲んで輝く星はやっぱり綺麗だった。星、貴方はこの星のどこかにいるのだろうか。それともここからは見えない私たちがいた世界の星に戻ってしまったのだろうか。
貴方を追って落ちた世界で貴方とまた出会って、そしてまた一人ぼっちになった。
もう会えないね。さっき別れたばっかりなのに今すぐ会いたいよ。
ペタンと冷たいバルコニーに座り込んで泣きじゃくる。
セイにとって終わった世界を私はセイがいない世界として始めなければならない。もうそんな意味なんてない。生きる理由だったセイがいなくなった私に生きる意味はない。もう誰も名前さえ呼んでくれない世界で生きる気なんてしない。
また別の世界でいい。日本じゃなくていい。出来ることならあのマンションがいいけど、セイがいる世界ならどこだって行く。
今から立ち上がってバルコニーから飛べばそれは叶うかもしれないのに、一度座り込んでしまった体は立ち上がれなかった。顔を両手で覆ってただ泣く。
貴方がいないこの世界で一人泣く。
生きる意味は何だろう。泣く意味は何だろう。貴方を愛した意味は何だろう。
“秘密”
セイならきっとそう言うに違いない。
「……ひみ、つ」
セイの唇がよくなぞった言葉を真似してみても、セイみたいにミステリアスな言葉にならないよ。胸が痛いだけだ。
ねぇ神様。私が聖女なら、私が皆の言う通り皆を救う存在なら。どうしてセイは救われなかったのですか。私の性ですか?聖女って何ですか?こんな深い愛をして、深い傷を負った私はまだ聖女なんですか?なら叶えてください。ただ一つ、私の願いを叶えてください。願うことさえ許されない程私が大罪を負っているのなら、これから聖女として祈りをずっと捧げ続けます。だから叶えてください。
聖女みたいに綺麗な願いでもないけれど、私にはこれ以上願いたいものがないのです。
「セイを私から奪わないで」
願いがかなえてくれないのなら脅しでもいい。セイを私から奪った世界を私は許さない。決してそんな世界のために祈ったりしない。私の祈りは全てセイのために。この世界が狂おうが災いが増えようが何だってい。
私はセイのためなら命さえ惜しまないって言ったもの。
「セイを返して」
満点の星空にただ祈る。セイが愛した星が、セイが綺麗だと言った星に切望する。
もういないとは分かっている。頭のどこかでは無理だと誰かが私に囁いてくれる。
理の常識は私に無駄だと言った。生と死の裁きは私に諦めろと言った。星だけが、きっと会えると甘く囁いた。
「……セイ」
_________それでも、夜が明けても、星が姿を消しても何も変わらなかった。