第86話
そして飲み込ませる音が聞こえなくなったので後ろを向くと…
「ううっ…」
琉偉君のお母さんはまるで時間が巻き戻るが如く痩せこけた頬やカサカサになった肌そして艶が全くなくなった髪さえも綺麗になっていった。
「母さん!」ダダッ
そうして治っていきメイドさんが立ち上がったところで呻き声が聞こえてきた、すると琉偉君は素早く近くに駆け寄った。
「ううっ…ボソボソ…」小さな声で琉翔君の母は喋った。
「どうしたの?もう1回言ってくれる?」琉翔君は今度は絶対に聞き逃さないよう口元まで耳を近づけた。
「ここは…どこ?」「城の中にある部屋だよ、母さん」キョロキョロ
琉翔君の母はまだ治ったばかりなので身体が動かせないようで目を動かして部屋を見まわしていた(それでも声がここまで聞こえるくらい出せるようになっただけですごいと思う…)
「…貴方は?誰…なの?」琉偉君のお母さんが俺の方を目で見ていってきた。
「彼は俺の初めてできた友達の京介君だよ!母さん!すごい気が合うんだ俺たち!」
「そうなの…良かったわ…私も琉偉にお友達ができてとても嬉しいな」
「そうだ!何か欲しい物とかない?母さん!持ってくるよ俺!」
「じゃあ…お水を…お願いできるかしら」
「わかった!」ダダッ!バタン!
琉翔君が出ていくと
「京介君だったかしら…こっちに来てくれる?」
「はい(何を言われるんだろう?)」スタスタ
「まずは…あの子の友達になってくれてありがとうね?」「いえいえ!こちらこそ友達になってくれて嬉しいですよ!(幾ら貧乏っぽい貴族だとしても逆らうとか怖くてできませんし!)」
「…あの子には聞きずらかったから聞かなかったのだけど…あの方は何処にいるのかしら?」
「領主様のことですか?」「…そうよ」
「…………」「そんなに思い詰めなくてもいいのよ…貴方は何も悪くないから」
(いやいやいや!確かに一応暴君であったらしい琉偉君の父親が死んだのはザマァ!とか思うけどその奥様だからなぁ…確かに気を使うよ?でもこれやな役だなぁ…言うの誰か代わってくれないの?)チラッ
俺が部屋のドアの少し横に立っているメイドさん2人をすがるような目で見たがスーっと目を逸らされた。
「(ヒデェ!)はい、わかりました。
領主様は…その…お亡くなりになられました」
「そう…なの…。
ふぅ…いつかこの時がくると思っていたわ…それでも予想していたよりもだいぶ早かったけど…
私が眠ってからどのぐらい経っているの?」
(あっ…だいぶ喋るのが普通になってきてる…か?
やっぱりあの薬は凄いなぁ…今度会った時にお礼を言わなくては…言葉だけじゃやっぱりダメかな?)
「約3年の月日が流れました、奥様っ」
後ろを見てみるとこの部屋にいた使用人達全ての人が涙を流していた(さっきまで全然だったのに早い…)、俺はその光景を見て少しびっくりしてから琉翔君の母はどれだけこの人達に思われていたのかというのを少しわかった気がした。
「そんなに経ったのね…琉翔は元気にしてた?あの方に何かされてなかった?」
「…はい、琉翔様は奥様が眠っていらっしゃる間本当に逞しく育っておりました!あの方の住むこの城、この領地でご自分がいかにして生きていけるかを模索して奥様そして私共の助けをできるだけ借りずに1人でここまでやってきたのです!
それはもう本当に素晴らしかったです流石は奥様が産んだ子でございます!」
(?琉偉君メイドさん達に助けてもらってるって言ってなかったっけ?…まぁ気の所為か)
「よかった…でも苦労をかけてしまったわね…琉翔にもあなた達にも」
「いえいえ!全然です」
「私をこうして元に戻してくれたのはどなたなの?」
「…そこにいらっしゃる京介様です」
「まぁ…貴方が私を眠りから戻してくれたの…ありがとうね?」
「友達の母親を助けるのは当然ですよ!(お礼はどうぞ妖精族の方々に!)」
「貴方はとても優しい目をしているのね…琉翔にあなたのような友達ができてよかったわ…」
「そうだ!何かご飯を食べませんか?長いこと栄養をあまりとっていなかったら身体も動かないでしょうし」
「そうね…いただこうかしら」
「では料理しますね」ガチャガチャ…
俺は片づけた組み立て式のテーブルやガスコンロや残った白米などを出して料理を始めた。
今回作るのは病人食、俺が真っ先に考えたのはお粥である。
(京介は昔とても重いインフルエンザに罹って寝込んでいた、その時食欲がなく何も食べられない状態が続いていてそんな時に母親が元気になるようにと作ってくれたのがお粥である。
しかしこれはかなり前のことで京介自身あまり覚えがない為お粥を作ってあげたという話をたまに母親がするのでそのことを覚えていただけである)
手順はいたってシンプル
まず宴会に使った時に比べればとても小さな鍋を用意しそこに水を入れる、入れたらガスコンロのスイッチを入れて熱してある程度温まってきたら本だしを少し入れる。
沸騰してきたらご飯を一杯分入れて水を吸うまで待ち…水を吸って柔らかくなったら卵を割って入れてかき混ぜる。
かき混ぜたら最後に味噌をお好みで加えて完成!である。
俺がお粥を作っている最中には…
ガチャ!「はぁはぁ!持ってきたよ!どうぞ母さん」
(あっ、そういえば琉偉君水取りに行ってたっけ…なんか遅いから忘れてたな。
別に水なんかよそりに行かずとも俺のアイテムボックスにミネラルウオーターが入ったペットボトルあるのに…言わないでおこう)
「ありがとう…うっ」
「あっ…のっ飲ませてあげるよ」
琉翔はコップを母親の口元で傾けて中の水を飲ませようとした。
コポコポ…ゴブッ!「あっ‼︎だっ大丈夫⁉︎」
(…病人なんだからもっと優しく飲ませてやれよ)
「ゴボッ!ゲボッ!…だっ大丈夫よ」
「ほっ…京介は何を作ってるんだい?」
「ん?ああ…病人食だよ」
「病人食?」「そう、琉翔君のお母さんは長い間眠っていたんでしょう?なら当然胃も弱っているでしょうし…あっ⁉︎そういえば琉翔のお母さんは病気の時何を食べていたの?」
「それは私が言いましょう、奥様がご病気になられて眠りについたあの日から介護をしていたのは私ですから。
奥様は食べ物を食べることが厳しい状態でございましたので噛まずに飲み込んで食べることができる食事を使用しておりました。
主に果物や薬草をすり潰した食事やパンをスープに浸して柔らかくした食事などを作っていました」
「そうですか…(凄いな…この世界には点滴すらないというのに、薬草が特別なのかな?)
なら多分お粥も食べられるかな?」
俺はそのままご飯が柔らかくなったのを見て言った。
カチッ「じゃあできたから食べましょうか」
グゥゥゥ〜…「…」「…」「…」「…」
俺は大体誰が今の音を出したのかわかった、なぜなら琉翔君が今の音がした瞬間から顔を真っ赤にしているからである。
「?今の音はなんでしょうか?」
「そうですね…その辺から聞こえたような気がしましたね」ニヤニヤ
「私もその辺だと思います」「うっ…」
「どうしたんですか?琉翔?」「すまん…俺ださっきの音は俺のお腹が鳴った音だ」
「なんだそうだったんですかそれならいいですよ。
琉翔君も食べますか?多分余ると思うし…」
「本当かい⁉︎…あっ、でも母さんから先に食べさせてあげてくれ」「はいはい…(よかった、ここで自分から率先して食べるようじゃダメだと思うからなぁ…いろいろと)」
「え?…」
「琉翔君が食べさせてあげた方がいいんじゃない?」「そうだな…そうさせてもらうよ!」パシッ!
琉翔君は俺から奪い取ったスプーンと皿を持って鍋からお粥を皿によそって母の元に行った。
「母さん食べられる?熱いから気をつけてね」「ええ…わかったわ」
琉翔君のお母さんはお粥を弱い息で冷ましながら口に入れていた。
お粥はとてもお気に召したようで一口食べてから琉翔君に次、次といったふうに頼んで口に入れてもらっている姿はなんだか可愛らしい動物のように見えた。
それから少しして「ふぅ…美味しかったわ…本当に美味しかった。
京介君ありがとうね本当に料理美味しかったわ、この料理は凄いわね…味付けも薄いから食欲がなくても食べられるしスープのようなものだから食べやすいでも
とても味もいいし温かいから身体も心も暖まったわ」
「そんなに言ってもらえるなんて…ありがとうございます」「琉翔も食べてみたら?これ本当に美味しいわよ!」琉翔君のお母さんは先程までの元気がない様子から一転して元気になっていた…
(凄いっ‼︎異世界の人はこんなにも身体が治るのが早いのか?それともやっぱりあの薬が凄いのか?…後者だろうなぁやっぱり)
「うん、そうさせてもらうよ。京介もらっていいよね?」「もちろんもちろん!もらって」
「ありがとう!」パクッ!「ん〜〜〜!美味い!この料理美味しいね!」
「でしょう!」京介は少し得意げな様子で胸を張った。「じゃあわたしもいただいてよろしいですか?」
「(絶対食べたい人貴女だけじゃないでしょ!他の人もお粥をジーって見てるし)ええ、いいですよ?あっなら、皆さん食べますか?」
コクコク…「あ、なら追加して更に作りますよ」
俺は絶対に足りなくなると思ったので更にお粥を作り始めた今度のお粥も先程と同じように作っていくが…最後に海苔とシャケのふりかけをのせて出した。




