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ラルさん

「ケンタ、やっぱりつきあうことにしたんだ~」

ハルセンパイの嬉しそうな声が、私の心を打ちぬいた。

私は今天文部の部室前にいる。

入口の扉にもたれて、耳をそばだてる。

盗み聞きはだめだってわかってるけど、だけど……。

「まさかラルとはねえ」

何かをたたく音がした。

たぶんハルセンパイがケンタセンパイの背中でも叩いた音だろうな。

てゆうか、ラルって? 外国人?

「眞、結構一方的だったけどな」

そんなことを言いながらも、ケンタセンパイの声は確かに明るかった。

彼女、か……。

「ヒカリちゃん? 泣いてんの?」

運が悪くも誰かに見つかってしまったみたいだ。

おずおずと顔を上げるとユウセンパイがいた。

不幸重なりすぎだし……。

「ほっといてくだ……」

「原因はケンタだな? たく、ハルのやつ大声でそんな会話すんなっつーの」

ほっとけと言い終わる前に、ユウセンパイは話をつづけた。

まるで、ほっとかない、とでも言っているかのように思えてしまった。

彼は「ここじゃまずいから」と、私を屋上まで連れ出した。


「はい、シュークリーム」

「へ?」

「おやつに食べようと思ってたんだけど、あげるよ」

「でも……」

「センパイ命令! 食べなさい!」

命令って。ここまで来たら断れないよね。

私はユウセンパイからシュークリームを受け取った。

袋を開けた瞬間、大好きないつもの甘い香りがする。

「ありがとうございます」

「よしよし、つらかったね」

いつもなら毒舌はいて逃げているような展開。

でも今だけは、そのやさしさがうれしかった。

「ラルさんって、どんな人なんですか?」

「ラル? そうだな……。イギリス人で、先月きたばっか。最初は日本語全然だったんだけど、ケンタに教えてもらってたんだってさ。ほら、あいつ頭いいから」

ユウセンパイの話しぶりを見て、私は確信した。

私にはきっとかなわない相手なんだって。

「かわいいんですか? その人」

「かわいいっつーか、美人だな」

私はしばらく黙りこくった。

でも、しばらくしたら声が漏れてしまった。

みじめで情けない鳴き声が。


「ケンタ! 会いに来たよ!」

散々泣きわめいた後戻った部室に、カタコトの日本語が響いた。

「ラル! 結局天文部ウチにしたんだな」

ケンタセンパイがうれしそうに笑う。

この人が、ラルさんなんだ。

「うん。ワタシ、星に興味あるから」

二人の周りには幸せな空気が漂う。

急にケンタセンパイが遠くなった気がした。

「ラル、自己紹介して」

「ハル! わかった」

ラルさんは右手でオーケーサインを出して、みんなの前に立った。

「ラルニエーラ・ミナロです。よろしくね」

色白の肌、アーモンドみたいなさらさらとした髪。

艶然とした彼女の容姿に、私は勝ち目を完全に失った。


「ラルニエーラさん、美人でしたね」

「…………」

ココちゃんまでそうゆうこと言う。

「あっ、噂をすればなんとか!」

影だよ。って、タイミング悪いなぁ。

「ラルニエーラさ~ん!」

「ちょっ、ココちゃん!?」

河川敷に三角ずわりしてるラルさんのほうへ、ココちゃんは走っていく。

ココちゃん足早いよ………。

私は彼女を追いかけることに必死になった。

「アナタたちは……。天文部のガールたちだね!」

「そうです! ラルニエーラさんはどうしてここに?」

テンションの高いココちゃんに、苦笑いするラルさん。

「ラルでいいわよ。ワタシね、この場所が大好きなの。ケンタが連れてきてくれた場所。向こう岸にサッカーコートがあるでしょ? あの場所、ケンタが小さい頃にプレーしてたコートなんだって」

仲良いんだなぁ、センパイたち。

「大好きなんですね、ケンタセンパイのこと。センパイかっこいいし」

「I don't think he is cool. But……(私は彼をかっこいいとは思わない。でも……)」

私は彼をかっこいいとは思わない?

彼って、ケンタセンパイのこと?

「I think he is vest lover.(彼は最高の恋人だって思ってる)」

ラルさんは立ちあがって、私たちにほほえんだ。

ゆっくりと遠ざかっていく彼女の後ろ姿を見つめる。

「素敵ですね。かっこよくないけど、最高の恋人なんて。本当に好きな人じゃなきゃ言えないですよ」

ココちゃんは羨ましそうに言葉を漏らす。

「はぁ……。告白もせずに終わっちゃうのかぁ」

伝えなかった自分が悪いんだけどね。

「センパイ……。そんなふうに言わないでくださいよ。仕方ないですって、選んだのはケンタセンパイなんですし。きっとヒカリセンパイも素敵な恋人ができますよ」

ココちゃんの慰めも、私の心には響かなかった。

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