天体望遠鏡
「尾山ー。おまえ天文部だったよな?」
「はい。そうですけど……」
いきなり担任に呼び出されて、内心ビクビクしていた私。
部活のこと? なぜにいきなり?
「屋上にある天体望遠鏡使ってんの?」
「天体望遠鏡?」
望遠鏡か・・・
ってそんなんあったの!?
「天文部が使ってんなら置いとくんだけどさ。使ってないんなら別の高校に移動させるって話もあるんだけどさ。まあ、来月までに考えといて」
「あ、はい……」
「ハルセンパイ! 屋上の天体望遠鏡のこと知ってますか?」
「天体望遠鏡?」
ハルセンパイは首を傾げた。
さっきの私と同じ反応じゃないですか。
ほかの部員のみんなも、「なにそれ」って顔をしているけれど……。
そんな中、一人だけ口を開いた。
「初代天文部部長が作った望遠鏡。とはいえ、今は壊れてますけどね」
リュウくんこと、川谷 隆治くん。
普段はあんまり口を開かない、クールなコウハイくん。
てゆうか、望遠鏡壊れてんの!?
先生、先に言ってよ。
「壊れてるって……。じゃあ使えないの?」
「何とかなおせない?」
「ヒカリセンパイ、ハルセンパイ。同時に質問しないでください」
敬語なのに、むしろ敬語だからよけいにリュウくん怖い……。
クールもほどほどにしてよ。
「部長とヒカリちゃんの質問ですけど、なおせるかもですよ」
急に前へとしゃしゃり出てきた、藤井くん。
あ、嫌なわけじゃないんだよ。
「本当に!?」
ハルセンパイの目が輝く。
興奮しすぎでしょー。
「はい、頑張ってみます!」
ビシッ! と敬礼をして、藤井くんは走り去っていった。
どこに行くんだーーー!!!
「それにしても、そらってすごいよな~」
「なにがですか?」
ユウセンパイのつぶやきに、ツッコミを入れる。
「だって、元陸上部1年のエースにして、成績優秀者だろ?」
「だろって……、私に聞かないで下さいよ」
そんなことを言いながらも、私はわかっていた。
そもそも、去年から藤井くんの存在自体は知っていた。
友達との会話の中にも出てきていたし、テストの順位も上だったから有名だ。
「まあな。でも、どこの王子様だよって感じだよなー」
王子様ねー。
「友達から聞いたんだけどさ、入部初日で2・3年のタイム抜いたんだってさ」
それは初耳だわ。
陸上部のセンパイたち、ちょっとかわいそうだな。
「へ~。そういえば、なんで藤井くんやめたんですか? 陸上部」
「さあ。それは聞いてねえわ」
ふーん。もったいない人。
エースなら、リア充ライフ満喫だったろうに。
「尾山ー! 宿題うつさして!」
翌日の朝休み、ノーテンキなお調子者―――寧宮 幸一が、社会のノートを抱えてやってきた。
今日の一限は社会。自分が当たるとわかっている日は、いつも私に頼ってばかりだ。
「やだ」
「ヒドイ、ヒドイ、ヒドイ、ヒドイ!!! 一生のお願いだから。ダメ?」
『ダメ?』と首を傾げられても、困る。
全然かわいくないし……。
それに、このセリフは三日前に聞いたんだよなー。
「そのお願い、三日前に叶えてあげたからダメ」
私は嫌味なくらいに笑顔で返した。
すると彼はめげずに反論してくる。
「じゃあ、生涯のお願い」
言い方の問題じゃん。
「埋め合わせはするから~」
半泣きになっている、寧宮。
寧宮が泣いたら、私がなんかしたみたいじゃん。
「じゃあ、今日の放課後シュークリーム買ってきてね~。放課後、天文部の部室に届けること!」
「りょーかい!!」
敬礼ポーズをとった彼は、私のノートを受け取り、そそくさと自分の席でシャーペンを動かし始めた。
我ながら甘いな~、私は。
ちょろい女とか思われてなきゃいいけど。
そんなことを考えていると、ほっぺに何かが刺さる感触がした。
「痛いよ、サクラちゃん」
乃西 桜ちゃんは、同じ天文部で同じクラス。
大好きな、大好きな親友ちゃん。
「あいかわらずね、あんたら2人は」
「あいかわらず~?」
意味深なことを言い出したサクラちゃんに、私は疑うようなまなざしを送る。
「そうよ。あいかわらず甘いんだから、ヒカリってば。私なら絶対に貸さないね」
「はいはい。どうせ私は甘くてちょろい女ですよ」
ふてくされた私は、破裂しそうなくらいに頬膨らませる。
「そんな顔しないでよー。てゆうか、なんでまたシュークリームなの? 昨日ユウセンパイにおごってもらってたじゃん」
「だって、好きなんだもん!」
私がデレデレとにやけていると、始業チャイムが鳴った。
「やっべ! 終わんない!」
そんな寧宮の焦る声は、はっきりと私の耳に届いていた。




