新入部員
「2年の藤井 空星。天文部に入部希望です!!」
なんなんだこの人は……。
ノックもしないで、いきなり入り込んできた男の子。
少し乱れた字で書かれた入部届を突き出して、こちらへ歩み寄ってくる。
「部長の泉 春子です。よろしくね、ソラくん」
ハルセンパイこと、泉 春子センパイは、彼の入部届に印を押して、部長専用デスクの引き出しにしまった。
「これから、よろしくお願いします!」
突然現れた新入部員くんのおかげかせいかで、ただでさえうるさい天文部が、よけいにうるさくなりそうだ……。
みなさん、申し遅れました。
私は、尾山 光。
城陽高校2年、天文部に所属しています。
「ヒカリちゃん。夏休みどうすんの?」
おっと、めんどくさい先輩に捕まってしまった……。
「ユウセンパイ……。なんで私に聞くんですか? ハルセンパイに聞いてください」
ユウセンパイこと、的部 佑大郎センパイ。
かなり適当な性格で、すぐコウハイにたかってくる。
「だって、ハル怖いんだもん」
唇を尖らせるユウセンパイ。
子供かっ! と、思わず突っ込みたくなったが、ユウセンパイに忍び寄る殺気に気づいてしまったのでやめておいた。
「ユウセンパイ、発言には気を付けてください」
「ユ~ウ~」
でたー!! ハルセンパイの関節技。お見事です。
幼少期から柔道を習っていたらしい、ハルセンパイ。
ユウセンパイって、本当にバカな人だなぁ。
その場にいた全員が、あきれた目をしていた。
「明日カラオケ行こ~!」
カ・ラ・オ・ケ?
誰だ! いきなりそんな話をきり出したのは!
そんなこと言い出したら、ユウセンパイが乗っかってくるにきまってるじゃないか!
「なんでいきなりカラオケなんですか? ソラセンパイのおごりならいいですけど……」
「俺のおごり!? ヒロくん鬼!」
おまえかい、藤井くん!
てゆうか、コウハイにいじられてるし。
すっかりなじんでるし。
「いいね~、カラオケ! 俺の歌を聞くがいい!!」
やっぱり乗ってきたーー!!!
右手でエアマイクを作って、熱唱するユウセンパイ。
「ヒカリちゃんも行くよね?」
へ?
いつのまにか隣にいた藤井くん。
気配を消すな。怖いだろ。
「行かないの?」
仔犬のように不安そうに聞いてくる。
不覚にもかわいいと思ってしまった私はバカだ、ということにしておこう。
「ソラー。明日の午後1時に、駅前のカラオケでいい?」
「はい、オッケーです、ケンタセンパイ」
ケンタセンパイが行くからには、行かない理由がなくなってしまった。
「1曲目俺歌う―!」
言いだしっぺよりもノリノリのユウセンパイ。
前にも一回部員で来たけど、あいかわらずだなぁ。
「はい」
いきなり私の前に現れたマイク。
差し出しているのは、あこがれのセンパイ、水崎 健太センパイ。
「ヒカリちゃんも歌いなよ」
「そ、そんなケンタセンパイ……。いいですよ私は」
私はなかなかマイクを受け取らない。
そんな私に、ケンタセンパイはとどめを刺した。
「じゃあ、一緒に歌お?」
「はい……」
結局私は、ケンタセンパイとデュエットすることになってしまった。
とはいえ、あまり歌に自信のない私。
うまく声が出せない自分と奮闘、乱闘しているうちに、1曲分の幸せもすぐに終わってしまった。
「ココちゃん、一緒に帰ろ!」
私の呼び声に振り向いた女の子こそ、かわいいかわいい私のコウハイ、橋本 ここかちゃん!
「ヒカリセンパイ? いいですよ。それにしてもケンタセンパイとのデュエット、緊張しすぎですよ」
グキーッ! まちがえた。ギクーッ!
案外するどいココちゃん。
入部して1週間もたたないうちに、私の本心を見抜くという、怖すぎガール。
「だ、だって……」
「ほんと、ヒカリちゃんってわかりやすいよな~」
急に体が重くなる。
カラオケボックスで食べたチョコレートパフェのにおいをまき散らして、ユウセンパイが登場した。
「からかってるんですか、ユウセンパイ?」
デリカシーのないセンパイを睨む。
「怒るなよ~。ケンタな~」
ユウセンパイの不敵な笑み。
完全に楽しんでるな、このドS!
「なんなんですか?」
「聞きたい? 聞きたいよね~! 実はな・・・」
ユウセンパイは私にささやいた。
「ケンタ、今フリーだよ」
な!!!
「ヒカリセンパーイ。大丈夫ですかー?」
私は金縛りにあったように動かない。
というか、動けない。
「からかいすぎちゃったかな。ごめん、ヒカリちゃん。なんかおごるよ」
しおらしく謝ってくれたセンパイ。
何とかコンビニまでたどり着いて、シュークリームをおごってもらった。
お詫びだけど、私の中の幸せメーターは100に近づいた。




