弟
冬の空は心なしか寂しく感じるように思う。
何でだろう。
窓の外。木々は色を変え葉を散らせている。
冬の訪れ。日々寒さをましている。
稜は廊下の窓から庭の様子をふと見つめていた。
しばらくすれば白い雪がこの神楽殿を、庭を包むだろう。
日は傾き、夕暮れを向かえようとしていた。
町から戻ってきたら、案の定お説教が待っていた。
帝と二人、執事にくどくどと怒られ、家庭教師には課題を多く出された。
その課題を何とかこなし、稜はやっと解放された。
彼が向かっているのは保育室。
騎士の子供たちの中で6歳以下の幼児たちが預けられている。
そこに、稜の弟、漣がいる。
弟は2歳。稜とは11歳離れている。漣は一ヶ月前、母の死を目の当たりにしてから何も話さなくなってしまった。
精神的ショックが大きかったのだ。
それはそうだろう。
あんなものを見てしまえば……
廊下と保育室の間にはひとつ小さな部屋がある。
そこには子供たちの靴やかばんなどが置かれていた。
廊下から保育室が見えるように壁の上半分はガラス張りになっている。
稜が覗くと、窓ガラスの向こうにははしゃぐ子供たちの姿があった。
人数は10数人ほど。
侍女が3人にひとりは付いている。
部屋の隅。
座って一所懸命に画用紙に絵を描いている弟の姿を見つけるのは容易なことだった。
稜は扉を開け、中に入った。
荷物を小部屋の隅に置き、保育室のドアをノックする。
侍女たちの視線が一瞬稜に集中する。
子供たちはそ知らぬ顔で遊びに集中していた。
「ごきげんよう、稜様」
「今日はお早いですね」
中に入るなり口々に言う侍女たち。
稜は軽く笑って、弟のところへと向かう。
漣は手を止めて顔を上げると、クレヨンを放り出しパタパタと走り出した。
そして、稜の足に抱きつく。顔を見上げ、ぐいぐいとズボンを引っ張っている。
多分絵を見せたいのだろう。
引っ張られるままに歩いていくと、漣は壁の手前で立ち止まりぱんぱんと床をたたく。
ここに座れ、ということらしい。
稜は座ると壁に寄りかかった。
すると漣は画用紙を手に稜のひざの上に座る。
黒いクレヨン、赤いクレヨン。
一所懸命に描いているのは横たわる赤い人。
赤い人は、たぶん母。殺された母親。そんな絵ばかりを描く弟を見ると悲しくなる。
母を守れず、弟を守ることができず、何のための力なんだ?
描きあがったらしく、漣が絵を持って稜を見上げる。
そんな弟の頭をなでてやると、今度は目をこすり始める。
どうやら眠いらしい。
漣は画用紙を握ったまま、稜にしがみつくと、やがて寝息を立て始めた。
「あら、眠ってしまわれたのですね。稜様、大丈夫ですか?」
侍女の言葉に、稜は頷く。
「今毛布をお持ちしますね」
侍女が持ってきた毛布を受け取り、漣にかけてやる。
この幼い弟を俺は守ることができるだろうか?