表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

惨劇

 部屋に充満する血の匂い。

 血にまみれた顔。

 胸をえぐられ、腹をナイフか何かで切り刻まれた女の死体……

 これが母である、と認識するのにどれだけの時間がかかっただろうか。

 そして母の側にぼんやりと座る幼い弟……


「稜! 漣!」

 父の声に稜は振り返れなかった。

 ただ呆然と惨状を見つめていた。

 父は弟を抱きかかえ、叫んだ。


きり! 稜と漣を宮殿へ連れて行け! はがね! 護衛を頼む!」


「わかりました」


 執事の桐が室内に入り弟、漣を父から預かる。

 誰かが稜の肩に触れた。


「稜、宮殿に行くぞ」


 その声が父の部下である騎士、鋼爽也はがねそうやということはわかっていた。

 けれど稜は動けなかった。

 父は自分の着ていたマントを母にかけた。

 うつむく父。

 弟を抱えた桐が稜のところへとやってきた。


「稜様、行きましょう。宮殿へ」


 稜は小さく頷いた。

 鋼に肩を抱えられ、ゆっくりと歩き始める。

 いつの間にか兵士や、警官隊の人々が屋敷内にたくさんいた。

 稜は一度だけ振り返った。

 父は母の手を握り、泣いているようだった。






 帝国暦118年、11月。

 凪島なぎとうの北東部一帯を支配する十六夜帝国。

 最初は小さな公国であったが徐々に勢力を拡大。

 人類の敵、魔物との戦いの果て、建国当初の10倍以上の領土を手に入れた、凪島最大の国家である。


 元首は第8代彩夜帝、月夜。弱冠12歳の女帝である。

 先帝、第7代彩夜帝、零夜が26歳で崩御したため、8歳で皇帝となった。

 国外においては魔物との戦い、拡大する十六夜帝国に警戒感を強める他国との外交。


 国内では古き神々を信仰する狂信者たちによる皇族殺害テロ―

 そして今回新たなる殺人が行われた。

 殺されたのは十六夜家直系、朝海あさみ大公夫人、舞。

 ナイフかなにかで腹を裂かれ、心臓を抉り取られ腸を引きずり出されていた。

 死体損壊に何の意味があるのか。


 まるで殺された者に深い恨みがあるようだった。

 そして失われた心臓。いったい何に使われるのか。

 大公夫人の死は表向きは病死ということにされた。

 だが人々は噂する。

 大公夫人は暗殺されたと。

 無残な殺され方をしたと。


 やったのは誰だ? やつらだ。奴らに違いない。

 狂信者。神の国を信じ、魔物を神々の使いであると信じる者たち。

 奴らは帝国を批判している。

 奴らだ。

 そうに違いない。


 人々はささやき続ける。

 皇族の子供たちが宮殿で暮らすことになったらしい。

 5人の帝位継承者。

 次の標的は子供たちか?

 噂は瞬く間に広がり、そしていつしか人の口の端に上らなくなっていた……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ