本当の邂逅
じんわりと鬱な作品です。過激な表現は一切御座いませんが閲覧にはお気を付け下さい。
校内で時々すれ違う彼女の背中には白い翼が生えていた。まるで天使を想像させるような、真っ白で神々しい羽はすれ違う度に俺の目を引いてーーしかし、振り返るともうそこには居ない。
幻覚や錯覚ではないと思う。だがこんな話を友人にしたところで頭の心配されるのが良いところだろう。だってそれはごく普通の街の、ごく普通の高校の、ごく普通な廊下でばかり起きる出来事なのだ。そんな現実世界の中で、彼女の翼は異端でしかなかった。
現に友人と一緒にいる時に彼女と擦れ違った事もあるが、特に友人は何も反応を示さない。普通ならあの翼の存在に気付かず素通りなんか出来るわけがない程の存在感なのだが。
仕方ないので、彼女はきっと幽霊か何かなんだろうと思うことにした。霊的なものは一切信じないたちだったが、何度もこの目であの超常現象とも言える存在を目にしているのだから仕方ない。白い翼を背負う彼女が悪い霊だとも思えないので、あまり気にせず放っておく事にした。していた。白い翼の彼女の真相を知るまでは。
「あー、だりぃ。合唱コンクールとか正直女子のイベントだよな」
「まあ、張り切るのは確かに女子ばっかだな」
高校二年生の冬、毎年恒例の合唱コンクールの時期が迫っていた。友人が怠そうにしているのも少し納得出来てしまうほど、今年の女子の情熱は半端ではなかった。居残り練習なんてものが開催されてしまった今日は、一段とモチベーションの低下が激しくそして気怠い。
「でも音楽室毎日予約いっぱいってのは助かるよなー、お陰で練習も減るしよ。他のクラスも熱心で助かった」
「そうだな、確か俺たちのあとも練習するクラスが入ってたらしい」
「げっ、もう6時だぞ!? 下校時間もとっくに過ぎてんのに良くやるねぇ」
「あー…でも音は何も聞こえねえな、さすがに教師に帰れって言われたのか」
帰宅を目指して学校内の廊下を歩く中、ふと窓ガラスの奥へ視線流した。向かいの校舎には音楽室があるのだ。音楽室はまだ明かりがついているが、そこに人の気配はない。どうやら俺たちよりあとのクラスは練習が出来なかったらしい。ーーなんて、頭で勝手に自己完結した時だった。控えめにピアノの音色が流れ出したのだ。
「あっれ、練習始まった? 出来たのかよ」
「いや、違う……沢山の人影はないし、誰かが弾いてるだけだろ」
「それはお前……まさか幽霊だとか言うなよ?」
しんとした。消灯時間も過ぎた校舎は異様に静まり返っている。唯一、向かい側の校舎から聞こえてくるピアノの曲もーーなんだか良い感じに物悲しい音色で、背筋を這い上がるぞわりとした感覚が身体を冷やした。
「いや、でも幽霊なら…わざわざ明かりを付けない気がする」
「付ける幽霊もいるかもしんねぇだろ! って…あ? あれって一年の女子じゃね?」
そう言って友人が指差す音楽室の方へ視線を向けた瞬間、俺は一瞬頭が真っ白になった。いつの間にカーテンを開けたのか、さっきは見えなかったピアノの主の姿を目視する事が出来る。そしてその少女には、翼が生えていた。