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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
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クロの翼

「うがああああ!」

 ガラオルの力は予想以上に強かった。

「くっっ……」

「か……体に力が……入らねぇ……」

 ガラオルを縛り付ける糸を握るカイルとラディンは気を吸い取られ続け、限界に近づいていた。

 サクは気を溜め続けているシリウをガードするようにガラオルとの間に立っていて動けない。 ヤツハはソウリンの傍で固唾を飲んで見守っている。

 やがてガラオルの腕は体から離れはじめ、とうとう白い糸の束はきしむ音と共に何本かが切れはじめた。

 場の空気の緊張が膨れ上がったその時だった。

 

 

「こうやって使うんだよ!」

 

 

 風を切る音がしたかと思うと、ガラオルの体が真っ白になるほどの糸が巻き付いた。 同時に、カイルとラディンが引っ張っていた糸が断ち切られ、二人の体は勢い良く後ろに転がった。

「はあはあ……何があったんだ?」

「誰……が……?」

 疲労困憊の顔で、状況を掴もうと見上げる二人。 サクとヤツハも突然のことに驚いていた。

「一体、何があったんだ?」

 呟くサクの前に、ひとつの影が立った。

「ガンク!」

 驚いて声を上げるサクたち。 ガンクは自作の糸束を握り余裕の顔で見回した。

「どうだ? 俺の実力は、半端ねえだろ?」

 自慢気に言う後ろで、締め上げられたガラオルは再び苦しんでいる。

「あぁ、あんたの実力はたいしたもんだよ!」

 とラディンは肩をすくめながらカイルを見た。 カイルもまた、少し微笑んで頷いた。

「ガンク、助けに来てくれたのか?」

 サクが嬉しそうに言うと、ガンクはいきなり睨んだ。 白い目がきつい視線を送った。

「そんなんじゃねー! 俺はけじめをつけに来ただけだ! こいつをぶったおすんだろ?」

 そう言うガンクの足が震えていた。 さっきシリウに傷つけられた足には無造作に布が巻かれ、血が滲んでいた。

「長くは持たねえ! 早くしろ!」

 ガンクが痛みに耐えながら苦しむガラオルを指差すと、サクはその思いを受け止めるように大きく頷いた。 その後ろから、シリウの声が飛んだ。

 

「ありがとう、サク! そこをどいてください! 皆も離れて!」

 

「! 頼むぞシリウ!」

 サクが弾けるように飛び退き、ガンクやカイル、ラディンも重い体をおして急いで離れた。

 シリウは身体中から立ち上る気をまとっていた。

 その気を真っ二つに剣で切り裂くと、足元へと剣を落とした。 その左手を上げ、静かに唱え始めた。

「我が左より出でしクロの翼よ……基となる魂を掴みたまへ……」

 するとシリウの左肩から腰に描かれていた黒い翼が具現化し、シャツを引き裂きながら突き破り、大きく広がった。

「な……んだ? あれ……?」

 サクをはじめ、皆がその黒く大きな翼【クロの翼】に目を奪われた。 【クロの翼】はひとたび羽ばたくと、風を切りながらガラオルへと襲い掛かった。

「な、なんだそれはぁっ!」

 身動きが出来ないまま怯えるガラオルを容赦なく包み込んだかと思うと、灰色の何かを掴んで離れた。 その一部が、ガラオルと繋がっている。

「あれは、ガラオルの本当の魂です」

 シリウが説明した。 自分は今、ガラオルの心に入り込み本物の魂を掴んでいるのだと。

 ヤツハはソウリンに寄り添い、シリウの後ろから食い入るようにその様子を見つめていた。 ソウリンは、ヤツハの手をそっと握った。

「ソウリン……?」

「大丈夫じゃよ。 彼を信じて」

 ソウリンは意外なほど冷静に言い、微笑んだ。

【クロの翼】に捕まれたガラオルの魂は、必死にもがいている。 一方ガンクの糸に縛られている体の方は、白目を剥いて口を大きく開け、気を失っているようだった。


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