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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
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ほこら前の激闘!

 ほこらの周りは、気味が悪いほどの静けさに包まれていた。 時折吹く風が、草の匂いを運ぶ。

 他の生徒たちの姿も見当たらないが、所々に血痕や折れた刃など、闘いの痕が残っている。

「いい眺めだなぁ~!」

 サクの気の抜けた声が響いた。 数時間前まで意識が混濁していた同一人物とは思えない。

 眼下には、ヴィルス町が見渡せる。 遠くの景色も晴れ渡った空に溶けるようになだらかに横たわっている。

 

「ちょっとサク! そんな悠長にしている場合じゃないのよっ!」

 ヤツハがサクの耳をつかんでほこらへと連行した。

「いってえなぁ!」

 やっと離してもらった耳を押さえて涙目になっているサクを見て、シリウが笑った。

「もう! 皆、緊張感持って! 時間がないのよ!」

 あきれたように言うヤツハ。 カイルはクスリともせずにその様子をじっと見ている。

「扉が開かないんです」

 シリウが静かに言いながら、肩をすくめた。

「鍵が要るのかしら?」

 ヤツハが言う後ろで、サクが拳を上げた。

「んなの、壊しちまえばいいじゃん!」

 と、いきなり皆の至近距離で、扉に拳を叩きつけた。

「きゃあっ!」

「サク!」

「!」

 三人にげんこつで制裁され、うずくまるサクを尻目に、扉の前で話し合いが始まった。 サクが拳を叩き込んだところには、傷ひとつ付いていない。

「鍵穴らしきものはなさそうですねえ……」

 気持ちを落ち着かせるように眼鏡を上げるシリウの横で、カイルは扉に触れた。

「ぴったり閉ざされている……」

「封印魔法かしら?」

 ヤツハが呟いた。

「そんな所でしょうかねえ……きっと何かの力が加わることで開くようになっているのではないでしょうか? ほら、この円の中心には、呪文を封じ込めたような印があります」

 シリウが指差した扉の中心には、人が手のひらを広げたくらいの円と、中には何かの封印模様が描かれている。

「「「う~ん……」」」

 三人は困り果ててしまった。 その間にも、時間は刻々と流れている。

 

「悩んでも仕方ない……これは多分、皆の力を試されているのでしょうから、それぞれが力を合わせてこの印にぶつけてみましょう!」

 シリウが苦肉の策を打ち出した。 途端に、頭を抑えてうずくまり拗ねていたサクが勢いよく立ち上がり、拳を振り回した。

「力勝負なら負けねえぞ!」

 嬉しそうにするサクも円陣に入り、それぞれが得意な武器を持って力を溜めた。

 

 

 まずはサクの攻撃だ!

 サクはオープンフィンガータイプの革グローブを装着している。 もっぱら剣は使わず、自身の拳と足で勝負をする。 サクは両拳を強く握って気を溜めた。 身体全体から熱気が噴出し、周りを圧倒した。 そして拳に溜めた気を一気に扉へと叩き込んだ。

「はあぁっ! 爆拳刀刹バクケントウサツ!」

 

 次は間髪入れずにシリウがサクの後ろで剣を構えた。 身長に並ぶかのような長い剣を上段に構え、気を入れ、扉に向かって振り下ろした。

「はあぁっ! 奏拍龍刃ソウハクリュウハ!」

 

 次はヤツハだ。 彼女はナイフの二刀流で挑んだ。 胸の前で両腕を交差し、気を込めた。 自らの気が高まり、栗色の髪の毛が逆立った。

深華滝泉シンカタッセン! はっ! 」

 

 カイルが細身の剣を上段に構えてヤツハの後ろから次を狙う。 扉を睨むように飛び掛り、渾身の力で振り下ろした。

「はあっ! 仙剣突刃センケントッパ!」

 

 だが、叩きつけられた武器や気は散々に跳ね返され、扉には傷ひとつ刻まれる事がなかった。

「くそぉっ!」

 サクは悔しそうに拳を地面に叩きつけた。 土煙が風に流された。 シリウとヤツハも、微動だにしなかった扉を前にため息をついた。

「一体、どうしたらいいのよ……?」

 すると、カイルは引き寄せられる感覚に捕らわれ、抗わずにゆっくりと扉に近づいた。 そして手のひらを扉の印にそっとあてた。

「暖かい……」

 そう呟いて目を閉じるカイル。 その温もりはどこか懐かしく、もっと深くまで感じたい気持ちが生まれた。 心が落ち着き、カイルの息はゆっくりと整えられた。

「もしかして……」

 それを見ていたシリウは、自分の手をカイルのソレに重ねた。

「ヤツハとサクも、一緒に重ねてください」

 二人は顔を見合わせながらも、言われるがままに手を重ねた。

「暖かい……不思議……」

 ヤツハも懐かしい温もりに包まれる感覚を覚えた。 サクも、少し驚いたような顔で扉を見つめた。

 

 次の瞬間、それぞれの体が熱を帯び、光に包まれた。

 心の中にも光が入り込み、包み込まれ、身体が宙に浮いたような気がした。 四人はそれぞれに、扉に願った。

 

 

『開け!』

 

 

 扉の中心に一筋の光が生まれた。

「開くぞ!」

 サクの声と共に手を離した四人の前で、扉は音もなく開いた。

「やったな! すげーじゃん、カイル!」

 とサクに肩をつかまれ、大きく揺さぶられながらも、カイルは彼を促した。

「サク、早く札を……」

「ああ!」

 サクは開いた扉をくぐり、部屋に一歩入ると息を飲み込み、ゆっくりと目の前にある札を剥がした。

「取った!」

 サクが札を掲げた途端、地面が揺れた。

「な、なんだっ!」

 四人が動揺しながら慌てていると、背後から大きな影が襲ってきた。

「幻獣だ!」

「かなり大きい! きっと札で封印されていたんですね!」

「その札を取ってこいってことは、この幻獣を倒してこいってことだったのね?」

「こうなれば、倒すしかないだろう!」

 カイルが剣を手に飛び出した。

「カイルの言う通りだぜ!」

 サクも楽しそうに幻獣に向かっていく。

「それもそうね!」

 ヤツハも半ばあきらめたように走っていき、シリウはそれらを見送って眼鏡を上げながら微笑んだ。

「チームがだんだん固まって来ましたねえ」

 と嬉しそうに言うと、自身も幻獣へと向かっていった。

 

 幻獣を倒すのに、大した時間はかからなかった。

爆拳弾バッケンダン!」

 サクの拳から、幾つもの気の弾が放出され、幻獣の大きな体にヒットした。

奏拍龍刃ソウハクリュウハ!」

 まるで音楽を奏でるかのように、シリウが振り下ろした刃先から気が突き出し、幻獣の体を突き抜けた。

深華滝泉シンカタッセン!」

 真紅の軌跡を描き、ヤツハが幾つもの切っ先を幻獣の体に刻んだ。

剣舞四奏ケンバイシソウ!」

 カイルは幻獣の周りを駆け回り、幻獣の体を切り刻んだ。

 

 それぞれが順番に自分の技を叩きつけ、息一つ上げずに片付けた四人が見ると、扉は再び何もなかったかのように閉じられていた。

「たいした試験だぜ!」

 サクが余裕の顔で言うと、ヤツハが急かした。

「早く戻りましょう! 時間が迫ってる!」

 四人は頷き、養成学校へと走りだそうとした。

 

 その時、大きく黒い人影が四人の前に立ちはだかった。

「ナトゥ!」

 サクたちは睨みながら身構えた。 ナトゥの脇には、いつもの子分が従っている。

「すっかり待ちくたびれちまったよ!」

「なんだと!」

「何故あなたがここに?」

 シリウが迷惑そうに言うと、ナトゥはにやけながら言った。

「ここまでは楽勝だったんだけどよ、どうしてもあの扉が開かなくてよお? 武器も力も効かねえから、こりゃあ、誰かから頂いたほうが簡単だと思って、ここで待ってたんだ!」

「卑怯な男!」

 ヤツハが軽蔑すると、ナトゥは切なそうな顔をした。

「ヤツハちゃぁん、そんなこと言うなよぅ。 これでも俺ら、頑張ってんだぜ!」

「何を頑張ってんのよ? 力任せなだけじゃない!」

「ヤツハちゃんにはケガなんてさせないからね。 札を取ったら、俺らの仲間に入れてあげるから!」

 体をくねらせながら言うナトゥにすっかり気分を害され

「願い下げだわっ!」

 と腕を組んで顔を背けるヤツハにお構い無く、ナトゥたちは武器を構えた。

「お前ら、おとなしく札を渡せ! でなきゃ、覚悟はあるんだろうなぁっ?」

 息巻くナトゥに、サクは肩を回して唇を舐めた。

「まあ、ちょうどいいや。 この間の礼がまだだしな!」

 同じく、と身構えるカイルの横で、シリウはため息をつきながら眼鏡を上げた。

「仕方ありませんねぇ……」

 三対三で始まった喧嘩が、空気を揺るがした。

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