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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
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最終決戦の幕開け!

 夕刻に近くなっていた。 夕陽が海を赤く照らし、輝かせていた。

「じゃ、行くわよ?」

 洞窟の入り口の傍に立つヤツハが振り向くと、後ろについてきている仲間たちが頷いた。 ヤツハはそっと中を覗いて腕を交差させた。

「百花眠々!」

 ヤツハが腕を広げると、紫色の花びらが舞い踊り、漂いながら洞窟の中へと入っていった。 耳を澄ませていると、やがて奥の方で武器が転がる音や人が倒れる音が聞こえた。

「オッケー!」

 ヤツハが親指を立て、五人は次々に素早く中へと滑り込んだ。 薄暗さに目が慣れてくると、あちこちで気持ちよさそうに眠りこける手下たちの姿が見えた。

「こっちだ!」

 囁くように言いながら先頭を行くラディンについて、一行は忍び足で奥へと進んでいく。

 もとからあった洞窟かどうかは分からないが、人がやっとすれ違えるほどの幅と、さほど身長が高くないサクでさえも手が届きそうなほど低い天井の通路を静かに素早く進んでいく五人の前に、ぼんやりと明かりが揺れている横穴が見えた。

「あそこだ!」

 ラディンが立ち止まり、中の様子を伺う。

「どうだ?」

 サクはすでに拳を握って臨戦態勢だ。 いや他の三人も、いつでも戦う準備は出来ていた。 ラディンは振り向いて頷いた。

「ガラオルとソウリンと、見張りが二人……」

「ザコは任せて!」

 ヤツハが腕を交差させて気を溜めた。

「百花眠々!」

 ヤツハの腕から放たれる紫色の花びらが静かに横穴へと飛んで行った。 ドサドサッと人が倒れる音を聞くやいなや、五人は中へと突入した。

 

 

「ガラオル! ソウリンを返してもらおうか!」

 怒り狂った目で睨むサクの後ろには、武器を構えた仲間たちが出入口を固めている。 傍らに倒れて眠っている見張り番の二人をそのままに、五人はいつでも飛び掛かれる態勢だ。

 そんな気迫を感じているはずのガラオルは、意外にも落ち着き払った様子で、部屋の中央に置かれた大きな椅子に座っていた。 その足元には、後ろ手に縛られ座らされているソウリンの姿があった。

「ソウリン、大丈夫か?」

 サクが叫ぶようにソウリンへ声をかけた。 ソウリンはゆっくりと振り返り、小さく微笑んで頷いた。

 暴行を受けていたようにもみえず、意外にも穏やかな表情に少し拍子抜けをしながらも、ソウリンが無事なことにひとまず安心した。

「今助けるからな!」

 サクの言葉に、仲間たちは身をかがめて構えた。 それをガラオルは肩肘をついて、にやけながら見ていた。 身構えているわけでもないのに、ガラオルを前にして誰も動けないでいた。

「くそっ……隙が見つからねえ……」

 ラディンが悔しげに呟いた。 サクは吠えた。

「ソウリンを返せ!」

「まあ、焦るな」

 ガラオルは穏やかな口調で言った。

「俺様は今、この老人に尋ねていた所なんだ。 ヴァンドル・バードの居場所をな」

「ヴァンドル・バードの居場所だって?」

 サクは目を見開いて固まった。 思わぬところからその名が出たことに驚いていた。

「ソウリンが、ヴァンドル・バードの居場所を知っているの?」

 ヤツハがかすれた声を出した。 カイルもラディンも息を呑んで、状況を受け止めようと必死だった。 するとガラオルは、部屋に響くほどの笑い声を上げた。

「なんだ、知らなかったのか? このジジイはこの世で唯一、ヴァンドル・バードとコンタクトを取った人物。 おおかた、そのことを知られたくなくてあの村に身を隠していたんだろうが、無駄だぜ! 俺様は、そこらへんの獣よりもしつこいからな!」

 勝ち誇ったように笑うガラオルに、サクは気分が悪くなった。 こめかみに血管が浮き出ていた。

「黙れ! ソウリンにもヴァンドル・バードにも、手出しはさせねえ!」

 心のままに強く握ったサクの拳が、赤く光りはじめた。

爆拳刀刹バクケントウサツ!」

 サクの怒号と共に拳が突き出され、ガラオルへと襲い掛かった。 その気は周りを巻き込み天井が崩れ、土煙が部屋を覆いはじめた。

「今のうちにソウリンを!」

 カイルが慌ててソウリンへと駆け寄り、落ちてくる瓦礫からその体を守った。

「カイル!」

 シリウの声に振り向いたカイルの目の前に、大きな手のひらが迫っていた。

「!」

 剣を掲げて切り掛かると、その手のひらはあろうことか剣を素手で掴んだ。

「なっ!」

 その手は、驚くカイルから剣を振り抜くと軽く投げ捨てた。 壁に当たり、軽い音が響き剣は地面に転がった。

「甘いわ!」

 土煙からガラオルの顔が現れ、カイルへと殴りかかった。 その拳が当たる直前、ガラオルの横っ面を、重い蹴りが入った。

「カイルっ! 大丈夫かっ?」

 蹴りを入れたラディンが、息をついてカイルの目の前に立った。 カイルは見上げて頷いた。

「ありがとう、ラディン!」

 ラディンは手を挙げてガラオルに向き直った。 ガラオルは少し赤くなっただけの頬を気にする素振りもなく、首を鳴らした。

「ふん! とんだ邪魔が入ったもんだ。 さあ、そのジジイをこっちに渡しな! そうすれば、お前らの命は保証してやるぞ!」

「その手には乗るかよ! 今まで、どれだけの人たちを騙してきたと思ってんだ! 俺は知ってんだぞ! お前のそのどこまでもあくどい心ン中をなぁ!」

 ラディンが噛み付くように叫んだ。 後ろから、ソウリンを庇いながらカイルもガラオルを睨んでいる。 攻撃を外したサクは苛立ちながら息を吐いた。

「お前をぶっ飛ばして、全てを終わりにしてやるぜ!」

 その様子をヤツハは複雑な表情で見つめ、シリウも静かに見守っていた。

 やがてガラオルはゆっくりと体を起こして気を溜め始めた。

 

「何をするつもりだ?」

 異変を感じたラディンが身構えた。 ガラオルの体からは、蒸気のように気が立ち上りはじめた。

「こんな狭い場所であんな大量の気を放ったりなんかしたら、共倒れですよ!」

 シリウが焦った声を出した。 ガラオルはにやりと笑った。

「共倒れなんかにゃならねえよ! 瓦礫に生き埋めになるのは、てめえらだけだ!」

「ソウリンまで見放すつもりかっ! ヴァンドル・バードの事を聞くんじゃねーのか?」

 サクが叫ぶと、ガラオルは笑い飛ばした。

「そのジジイは死なねえよ!」

「?」

 サクたちが疑問に思っている間に、ガラオルは唸り始めた。

「ヌグアアアアア!」

 声にならない叫びと共に、ガラオルは遂に体に溜まった気を放出し始めた。 空気がビリビリと震え、ラディンが見上げる天井からはガラガラと石が落ち始めた。

「本気かよ?」

「僕の後ろに!」

 いつの間にかラディンの隣にいたシリウが気を溜めた。 サクとヤツハも急いでソウリンを庇うカイルの横についた。

 

 

「ガアアアアア!」

 

 

 吐き出すような叫びと共に、小さな穴の中はまばゆい光に包まれ、ガラオルから放たれた爆風が今まで通ってきた穴道を駆け巡った。

 そして岩壁に面した唯一の出入口から土煙が吹き出し、その穴は瓦礫で埋まってしまった。 同時に、洞窟の上にあったなだらかな丘が爆音と共に吹き上がり、緑に包まれていた静かな丘は一瞬で茶色い土の山になった。

 

 しばらくすると、その一ヶ所がムクムクと盛り上がり、赤い巨体が土の中から這い出してきた。 全身土にまみれたガラオルだった。

「んむむ……」

 ひとつ息を吐き、体の埃も払わずに立ち上がると、静かに目の前の散々たる土の山を見下ろした。

「さて、ジジイを掘り起こすか」

 無表情で一歩足を踏みだした途端、ガラオルの足元から衝撃波が飛び出してきた。

「む!」

 後退りしたガラオルの前に、土煙と共にサクが飛び出してきた。

「生きていたのか」

 ガラオルはたいして驚いた顔もせず冷ややかな目で、息を荒げて睨み付けるサクを見下ろしていた。 その後ろから、ラディン、ヤツハ、そして、ソウリンを支えながらシリウとカイルが現れた。

「シリウ、助かった!」

 サクが視線だけ後ろにやって礼を言った。 するとシリウはにこりと笑い

「どういたしまして」

 と余裕の表情を見せた。

 天井が崩れる直前に、シリウが気を集めてわずかな空間を作ったのだった。 あとは、サクの力任せの攻撃で丘の上に飛び出したというわけだ。

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