ガラオルのアジトへ
「では、行きましょうか!」
一行は改めて、ソウリンを救出するためにガラオルの潜む洞窟へと向かった。
「ガラオル……! やっと、面と向かって顔を合わせられるってことだな! 今度こそ思いっきりぶっ飛ばしてやる!」
意気揚々と拳を合わせるサクを先頭に、それぞれガラオルへの思いを噛みしだいていた。
ラタクからの情報で得た『東の洞窟』はすぐに見つかった。
海に面した断崖絶壁の途中にある入り口は、何人も拒絶するかのように波に打ち付けられていた。
「本当にあそこなのか?」
ラディンが怪訝な顔で言うと、シリウが
「この地図は割と新しいものですし、ハアヤ村から東の方向と調べると、ここしかありません」
と地図を片手に眼鏡を上げた。 新しいとは言ったが、それは手垢と泥などで汚れ、所々破れたり折れていて、その使い古された様子が見てとれた。
シリウがその地図を懐にしまうと、サクは
「よし、じゃあ行くか!」
と無作為に飛び出そうとした。 その肩を掴んで止めたラディンは
「ちょっと待て! 俺に名案がある!」
そう言って指した先には、食糧などを調達してきたらしい手下の姿が見えた。
「ラディン、まさかまた囮になろうと思ってるんじゃ?」
ヤツハが勘付くと、ラディンは何も言わずににっと笑った。
「ダメだよ! もうラディンも顔が割れてる! ガラオルを騙すのは難しいぞ!」
カイルはラディンの肩を掴んだ。 だがそれを優しく振り払い、ラディンは言った。
「大丈夫だ! あいつのフードを奪って被って行けば、中には入れる!」
親指を立てると、早速ラディンは今まさに目の前を通りかかるガラオルの手下を簡単に羽交い絞めにした。
「んー! んー!」
塞がれた口から荒い息を出し、もがく手下に
「悪ぃな、少し眠っててくれ!」
と延髄に手刀をたたき込んだ。 ぐったりと崩れ落ちる体からフードをはがすと、ラディンは素早く羽織った。
「ラディン……」
心配そうなヤツハの肩を優しく叩き、ラディンは頷いた。
「中を覗いてくるだけだ。 危なくなったらすぐに逃げてくるさ!」
微笑むラディンの肩を、勢い良くサクの手が叩いた。
「いってーな!」
迷惑そうに言うラディンに、サクは笑った。
「ラディン、頼むぜ! 失敗したらぶん殴るからな!」
そう言いながら差し出す拳に、ラディンは自分の拳を合わせた。
「分かってるよ! ちょっと待ってろ!」
ラディンは皆に微笑み手を挙げて、手下が持っていた食糧の袋を軽がると持ち上げ、洞窟の入り口へと向かった。
そして身軽に断崖絶壁に引っ掛けられた縄ばしごを下りて、その姿は洞窟の中へと消えていった。
「本当に大丈夫かしら……?」
身を乗り出して洞窟の入り口を見つめるヤツハに、サクは
「あいつなら大丈夫さ! 意外に器用な奴だからな!」
と笑った。 カイルとシリウも頷いて、ヤツハを元気付けた。
それからしばらくの間、四人は身を隠しながらラディンが戻ってくるのを待った。 少しは落ち着きを取り戻したものの、ヤツハは膝を抱えてはるか遠く広がる水平線を見つめていた。 海からの潮風が四人を撫でていた。
「海をこんなにゆっくり見つめるのなんて、初めてです」
シリウがふとこぼした。 するとサクがハッと我に帰って叫ぶように言った。
「うわ、これ、海じゃんっ! っぐ!」
慌ててサクの口をふさぐヤツハ。
「大きな声出さないでバカ! 気付かれちゃうでしょ!」
しかるヤツハに
「ん(あ)! んーん(そーか)!」
と頷くサク。 それを小さく笑うシリウとカイル。
「穏やかですねぇ」
再び海に向かってのんびり口調で言うシリウに、やっとヤツハから解放されたサクが言った。
「ガラオルをぶっ飛ばしたら、またいくらでも眺められるさ!」
出会った頃と変わり無いサクの笑顔は、三人の心を和ませるには充分だった。 四人は並んで、遥か遠くに横たわるなだらかな水平線を静かに見つめていた。
「お前ら、何、和んでんだよっ!」
突然頭上から降ってきた声に我に返った四人。 見上げると、軽蔑するような目で見下ろすラディンの顔があった。
「もう帰ってきたのか?」
「無事で良かった!」
驚くサクと、嬉しそうなヤツハ。
「なぁにが無事で良かっただよ! 本気で心配していたのかよ?」
ラディンは唇を尖らせ、拗ねてみせた。
「正直、忘れてました」
「こら!」
素直に言うシリウを肘で小突きながら、カイルが立ち上がった。
「それで、どうだった?」
ラディンは頷いて、皆のもとに降りた。
「中は薄暗くて狭い。 けど、手下の数は少ない。 二十人も居ないんじゃねーかな? だから警備は手薄! ソウリンは、一番奥の部屋にガラオルと一緒にいるって聞いた」
「ソウリンを食うつもりなのかな?」
サクの言葉に、皆の背筋がゾクッとした。
「な……何言ってんのよ……」
ヤツハが震える声を出した。 シリウが指先で眼鏡を上げながら呟いた。
「あながち、間違いでもないかもしれませんよ……ガラオルは何十年、もしくは何百年も経つその体を、健康な男を喰らうことで保ってきました。 だから例えば喰らうことで、その人物が持つ特殊な能力までも手に入れることが出来るというなら、すぐに実行に移したいと思うでしょう」
ヤツハは思い悩んだように唇を噛んだ。 サクはその肩を抱いて
「ヤツハ! 心配すんな! 皆助ける! ソウリンも、ヤツハの父ちゃんもだ! なっ!」
カイルやシリウ、ラディンは強く頷いた。 ヤツハも皆を見回し、微笑んで頷いた。 もう行くしかない。 尻込みしていては、何も進まないし変わらないのだ。
「さて、どう出る?」
ラディンが腕を組んで考え込んだ。
「出入りできる道はあそこ一つだけみたいだ。 騒ぎを起こせば、すぐに気付かれる」
するとヤツハが手を挙げた。
「眠らせちゃいますか?」