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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
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さよなら……ソラール兵士養成学校!

「全く! あんたは最後まで心配させるんだから!」

 巻き終わった包帯を強めに留めて軽く叩いたミランに、カイルは

「いてて……」

 と呻いた。

「あたしもホントにびっくりしたんだから……カイルったら、全身血まみれで医務室に入ってくるんだもん!」

 ヤツハがあきれたようにため息をついた。 ヤツハは、サクの様子を見るために一先ず医務室にいたのだ。 幸い背中を強く打ち付けただけだったので、少し安静にしただけで完全復活していた。

 カイルは苦笑した。

「布なんかがあれば闘牛士みたいに被せられたんだけど、あいにく周りには何もなくて……」

「だからって、出血多量で死なれても困るんだよ!」

 ミランは不機嫌口調で言った。 いつものように煙草をふかしながら、道具を片付けている。 だがどこかその白い煙は踊るように揺れていた。 無傷だったヤツハも呆れた顔で、ミランの手伝いをしている。

 その時

「布が欲しかったんなら、そこにあるじゃん!」

 ベッドにあぐらをかいて軽い口調でいうサクに、皆きょとんとしていると

「それ、その服さ。 俺なら脱いで被せるけどなっ」

 と、自分の襟をつまんで笑った。 すると、ヤツハとミランは顔を見合わせて吹き出し、カイルは複雑な顔でサクに笑った。

「なんだよ! オレ、変なこと言ったかよ?」

 少し不機嫌になりながら言うサクに、三人は笑いが止まらなかった。

 

 その後、医務室にファンネル校長も現れた。

 少し緊張した空気の漂った医務室の中で、激励の言葉をかけ

「多少無茶な戦いもあったが……皆よくやった。 卒業試験は合格じゃ。 卒業を認める!」

 とファンネル校長は笑った。

 これでサク、ヤツハ、カイルの三人は試験に合格し、晴れて卒業することになった。

 

 

 

 旅立ちの朝。

 快晴の空の下、サク、ヤツハ、カイルは、並んでソラール兵士養成学校を仰ぎ見た。

「長かったようで、短かったな!」

 サクは五年、ヤツハは四年、カイルは実に七年の年月を過ごした。 それぞれが想い出を思い返しながら、青い空に映える建屋を見上げていた。 住み込みで毎日を厳しい訓練に費やし、数々の試練を乗り越えてきた。 たくさんの想い出が詰まっていた。

「さあ、行こうか!」

 サクがヤツハとカイルに笑いかけ、二人は頷いた。 三人が振り返った先には、見送りにと校門に集まっている生徒たちや教官たちがいた。

「頑張れよ!」

「元気でね!」

 それぞれに送る言葉を交換しながら、握手や抱擁を交わした。

「死ぬんじゃねーぞ!」

 ナトゥがにかっと笑ってサクを見下ろした。

「死ぬわけねーだろ! お前こそ、すぐにくたばるんじゃねーぞ!」

 笑い返したサクに、ナトゥは自分の拳を差出した。 サクは一瞬戸惑ったが、すぐに微笑んで自分の拳をナトゥの拳に当てた。

「世話んなったな!」

 サクが言うと、ナトゥは感極まったように、目に涙をためた。

「早く行けよ!」

 サクは、顔を背けて言うナトゥに笑って頷いた。

 

 ヤツハには、サリナが抱きついた。 すでに涙を溢れさせしゃくりあげながら、サリナはヤツハの首にストールを巻いた。

「っこれ……?」

「あたしが家を出るときに持ってきたストール。 小さい頃から、ずっと一緒だったの。 これをあたしだと思って、頑張ってください!」

 ヤツハは驚いてサリナの顔を見た。

「いいの? 大切な品なんでしょう?」

 サリナは赤い目で頷いた。

「先輩は、あたしにとって何にも替えられない。 だからこれは、先輩に持っていて欲しいんです! 今まであたしなんかに優しくしてくださって、本当に感謝してます!」

「サリナ……」

 ヤツハはサリナの気持ちを受け入れた。

「ありがとう。 大切にする!」

 ヤツハが微笑んで言うと、サリナも微笑み返した。

 

 そんな様子を見ながら通り過ぎるカイルの前に、ミランが待っていた。 いつものように白衣を着て、一つにまとめた背中までの金髪は、陽の光を受けて輝いている。

「ミラン先生、お世話になりました!」

 カイルは微笑んで、包帯だらけの手を差し出した。 ミランは戸惑った顔を見せたが、ゆっくりと自分の手をカイルに重ね、優しく握った。

「本当に強く、大きくなったね。 マチ姉さんもきっと、喜んでるよ」

 ミランは涙の滲んだ瞳を隠すように眼鏡を上げた。 カイルは小さく頷いて

「マチさんのお墓参り、してあげてくださいね。 マチさんもきっと、ミラン先生のことを待ってると思うから」

 と笑った。 ミランはその笑顔にふと不安に襲われ、気持ちが暗雲に陰りそうになったが、それもカイルの運命なのだからと、心に留めた。

 

 ここを旅立っていく者は皆、危険に身を晒しながら生きていく者がほとんどだ。 生きるも死ぬも本人の運命。 ただ、死に行く者を見送るのだと思うことだけは考えないようにしてきた。 ミランを見つめるカイルの顔は、何の曇りもなく透明な笑顔をしていた。 後から続くサクやヤツハも同じだった。

「皆……元気で」

 ミランは最後の愛情をこめて、三人を抱き締めた。


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