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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
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再会。 シリウとラディンの今

 シリウからの手紙は、一ヶ月後に届いた。

 そこには、自分はいたって元気だということと、順調に自分が思う情報を集めているということ。 そして、サクやヤツハ、カイルがしっかりと訓練しているかどうかを心配しながら簡潔に締められていた。

 寄り添うようにシリウからの手紙を読んだ三人は、安心した笑顔を浮かべた。

「シリウも頑張ってんだ。 オレらも遊んじゃいられねぇよな!」

 嬉しそうに言うサクに、ヤツハとカイルは顔を見合わせて笑った。

「サクったら、昨日だってナトゥと喧嘩してたくせに!」

 そう言いながら、ヤツハは絆創膏の貼られている鼻先を指先で弾いた。

「な、なに言ってんだよ! あれも立派な訓練だよ!」

 慌ててふんっとそっぽを向いて拗ねるサクに、カイルは明るい声を上げて笑った。

 カイルはここのところよく笑う。

 学校の中では相変わらずクールでいて、そんな笑顔を見せるのはサクやヤツハの前だけの事だったが、そんな笑顔を見ながら、サクやヤツハも内心ホッとしていた。

 シリウが学校を出てからしばらくの間はカイルもさすがに落ち込んだ様子でいたし、気遣う二人の語り掛けにも空笑顔を見せていたが、やがて日が経つにつれてその表情にも明るさが戻ってきたのだ。

 三人は何かにつけて一緒に行動し、次の年のグループ試験にも余裕でクリアした。 もはや彼らに適うグループは、学校の中には他には居なかった。 実力、精神共に、確実に成長していたのだ。

 やがて三人は、カナン山で偶然見つけた小さな湖の湖畔でくつろぐようになった。 木々に囲まれた湖は学校からも見えにくく、隠れるようにのんびりとした静かな時間を楽しめた。

 

 

 そんなある日だった。

 いつものように湖の畔でそれぞれに時間を潰していた三人は同時に、背後に気配を感じた。

「誰だっ!」

 サクが飛ぶように立ち上がって身構えた。 ヤツハとカイルも緊張し、身構えた。

 ガサガサと近くの木の枝が揺れ、三人の前に静かに何者かが降り立った。 同時に、三人は驚いて目を見開き、サクがその人物の名を呼んだ。

「ラディン!」

 彼はゆっくり立ち上がると、笑顔を見せた。

「よっ! 元気そうだな!」

 ピッと片手を挙げてにんまりするその顔は、何も変わっていなかった。

 変わった所と言えば、黒いチリチリの髪の毛が肩下辺りまで伸びたことくらいか。 くっきりとした二重の黒い瞳も、明るく元気な力を放っている。 衣服から覗くがっしりした筋肉質な手足も、相変わらず陽に焼けたように健康的だ。

「ラディン! お前、今までどこで何やってたんだよ?」

 サクが嬉しそうに飛び付き、肘鉄を食らわせた。

「ぐあっ! なにすんだ、このやろっ!」

 ラディンとサクは湖畔を転げまわって、会えなかった時間を感じさせない様子でふざけあった。 それを見て、ヤツハとカイルは笑った。

「ホントに久しぶりだな! いきなり会いに来るなんてズルイぜ! 来るなら来るって連絡くらいしろよな!」

 後ろからラディンの首に腕を巻き付けて締め上げながら、サクが言った。 すると、大げさに苦しがっていたラディンの様子が少し変わった。

「どうした?」

 気付いたカイルが尋ねると、ラディンはサクの腕をそっと緩めて振り返り、三人を眺めた。

「実は、シリウのことで来たんだ」

 その一言で、三人に緊張が走った。

「シリウのこと、知ってるのか?」

 サクが驚いて声を上げた。 カイルとヤツハも、じっとラディンを見つめている。 ラディンは頷いて、落ち着かせるように少し微笑んだ。

「とにかく話す。 聞いてくれ」

 三人は湖畔に腰を下ろして、ラディンの話を聞いた。

「半月くらい前の話だ……」

 ラディンは遠く思い出すように話し始めた。

 

 

 

 ラディンはサツフゥル村でサクたちと別れた後、行く当ても無く山を越えていた。 そして偶然たどり着いたゴロナゴという山あいの町で、探偵事務所で働きながら武道場で剣術を習う毎日を過ごしていた。

 ある日ラディンは、請け負った仕事【密偵】を失敗して追われることになった。 状況は多勢に無勢で、ついにラディンは路地裏に追い込まれ、追って来た屈強な男たちに囲まれた。 あわや命はこれで終わりかという時、ラディンは目の前に光を見た。

 青い炎の向こうには、細身で長身の男が立っていた。

「な、なんだこの青い光はっ?」

「熱い! なんかヤバイな! 逃げるぞ!」

 あっという間に散っていく男たちを余裕の表情で見送ると、男はゆっくりとラディンに近づきながら

「大丈夫ですか?」

 と手を差し伸べた。 そしてラディンの顔を見た途端、男は驚いた顔をした。

「あ、あなたは!」

「あんたは! シリウ?」

 お互いがその姿を見て驚いていた。 ラディンはシリウに手を引かれて立ち上がりながら

「なんでこんな所に?」

 と目を丸くした。

「ま、偶然ここに来たというところです」

 微笑むシリウに、ラディンは苦笑した。

 

 あの時……

 ラディンは何も言わずに姿を消した。 カイルにだけ、別れの言葉を伝えた。 そして、あろうことか口づけをした。

 その事を、目の前に居るシリウは知っているのだろうか?

 自分の事をどう思っているのだろうか?

 

 ラディンの心を読むように、シリウは優しく微笑んだ。

「会えて良かった。 突然何も言わずに居なくなってしまったから、ずっと心配していたんですよ」

『どうやらカイルとのことは深くは知らないみたいだ……』

 ラディンは心の底でホッと一息をつくと

「こんな所で立ち話もなんだし、俺の部屋に来ないか? 旅をしてきたのなら、疲れてるだろ? 少し休んでいけよ。 話も聞きたいし。 な?」

 と自分の部屋に招いた。 そして久しぶりの再会の喜びを分かち合い、お互いの話を始めた。

「俺はあれからしばらく山や森の中で修行していたけど、一人じゃ限界があるってことに気付いて、どこか修行が出来る場所を探して彷徨って、偶然この町に着いたんだ。 ゴロナゴは静かな所だし、武術も盛んだってことを聞いて、ここで働きながら武術を学ぶことにしたんだ」

 ラディンは久しぶりの友人に、とても嬉しそうに話した。 シリウは出されたお茶を飲みながら興味深く聞き入っていた。 何も告げずに姿を消したことにも、何も言及しなかった。

「それで、あんたはなんでこんな所に? ヴィルスの兵士養成学校に行ってたんじゃないのか?」

 一通り話した後でラディンが不思議そうに尋ねると、シリウは微笑んだ。

「卒業しました。 それで自由の身になったので、ガラオルの情報を収集しながら旅をしているんです」

 手荷物は肩に掛けた大きめの鞄のみ。 腰には短剣を装備しているくらいで、軽装だ。 変わった所といえば、少し髪の毛が長くなった位で、眼鏡をかけた知的で繊細そうな雰囲気は変わらずだった。

『ガラオル』の言葉に、ラディンの心に熱がこもった。

 因縁深き相手。 昔は手下として働いていたが、今は敵対する感情しかない。 その上、ラディンが守りたい相手カイルの仇でもあるのだ。

「ガラオル……」

 ラディンが強い瞳で呟くと、シリウは固い表情で頷いた。

「サクもヤツハもカイルもまだソラール兵士養成学校に残って、自分を高める訓練をしています」

「そうか……俺も頑張んなきゃな! でもここでは、ガラオルの噂は全然聞かねえ。 俺が世話になってる探偵事務所も、しけた依頼ばかり受けるだけだし。 だけど、その気になったら何か情報が見つかるかもな。 この町は商業の町としても有名らしいから、流通がさかんみたいだし、何らかの情報は流れてきてるかもしれねえ」

 そこまで話したラディンはふと自分の拳を握り、見つめた。

「……てことはあんた、カイルを置いてきたってことか?」

 ふと投げ掛けた質問にシリウはフッと俯いたが、すぐに顔を上げた。

「カイルは大丈夫ですよ。 サクもヤツハも傍にいますし。 慣れた場所ですから、寂しくは無いはずです」

 そういうシリウの顔は、やはりどこか心に引っ掛かるものがあったのだろう、小さな影を背負っているようだった。 だがラディンは、不謹慎にも心の中でガッツポーズをとっていた。

『じゃあ、もしかしたら俺にもチャンスあるかも知れねえ!』

「どうしました?」

 首をひねるシリウに、ラディンは愛想笑いでごまかした。

「い、いや、なんでもねえ! それより、これからどうするんだ? しばらくここに居るのか? それともまた旅を続けるのか?」

 シリウは頷いた。

「確かこの近くにハアヤという小さな村があるはずなんですが、そこに行こうと思っています」

「そこに、ガラオルの情報があるのか?」

 シリウはそれには答えず、手にしていたお茶を飲み干した。

「はぁ。 美味しかったです。 ご馳走様でした。 ではこれで」

 おもむろに立ち上がり荷物を手に取るシリウに、ラディンは慌てて立ち上がった。

「お、俺も何か手伝おうか? この町にも少しは慣れてきた。 それに今は探偵事務所で働いてるから、裏の情報も手に入れられるかもしれないぜ!」

 だがシリウは軽く手を挙げた。

「いえ。 ラディンは自分を高めるために訓練を続けてください。 もしかしたら、いずれは力を貸して頂くかもしれません。 では、突然会ったばかりにお邪魔してすみませんでした。 お仕事頑張ってくださいね」

 微笑みながら優しく断って部屋を出ていこうとするシリウに、ラディンは何も出来なかった。 ただ一言

「無理すんなよ!」

 と去っていく背中に投げることしか……。

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