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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
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試験開始!

 試験当日、生徒たちはグラウンドに集められた。 それぞれのグループが、お互いに睨みを利かせている。 試験は命懸けなのだ。 その中には勿論、サクたち四人も揃っていた。

「目標は、山頂のほこらにある札を取り、ここに持ってくること。 途中、様々な幻獣や罠を仕掛けてある。 それらをクリアして札を持ち帰って来たグループに、栄誉と特別得点を与える。 至るところで試験官たちが監視している。 正当な戦い方で、目標を達成せよ! 期限は明日の正午だ! 検討を祈る!」

 試験官の合図と共に、それぞれが飛ぶようにグラウンドを去っていく。 あっという間に生徒たちは消え去り、一陣の風が吹いた。

「さて、我々も配置に着くとしよう」

 試験官たちも、自分の持ち場へと風のように走り去った。

 

 

 サクを先頭に、ヤツハ、カイル、シリウが木々の間を走り抜けていく。

 軽装に加え、武器も軽いものを身につけている。 今回はスピードも重視しているので、重い武器は足手まといになる。 中にはどでかい剣を振り回す生徒たちもいたが、大きく遅れを取ってしまっていた。 それを横目に見ながら、時折木々の間から飛び出してくる矢や降ってくる網などを器用に避けながら、四人は順調に山頂を目指していく。 普通に行けば二時間もかからない道のり。 それを約一日半の時間を設けたというのは、それなりの足止めを食らうということだろう。 能天気なサクを筆頭に、頭脳明晰なシリウが計画を練り、カイルとヤツハが従う。 パーティーとして、まとまっていると言えよう。

 

 器用に、飛んでくる矢を避けながら、シリウがカイルに話し掛けた。

「カイル、今朝医務室に入っていくのを見ましたが、どこか具合でも悪いのですか?」

 数十分走り続けているが、息が上がることもなく普通に会話できる。 日々の鍛練の成果だ。 カイルはシリウに少し驚いた顔をしたが、すぐに表情を戻して

「いや、なんでもない」

 と、軽く返した。 シリウは少し首をひねったが、それ以上は追求せず

「何があるか分かりません。 出来るだけ先を急ぎましょう!」

 と皆に声をかけた。

 その時

 

「!」

 

 いきなり八方からの、矢の集中攻撃にサクが狙われた。

「うわっ!」

 その体は地面に叩きつけられ、勢い良く落ち葉をはねあげた。

「サク!」

 驚いたメンバーがサクの周りに駆け寄り、ヤツハが診ている間、シリウとカイルは周りを伺った。 またいつ攻撃されるか分からない。

「ヤツハ、どうですか?」

 シリウの問いかけに、ヤツハの気弱な声が返ってきた。

「ちょっと厳しい……」

「!」

 思わず二人が振り向くと、そこにはサクが青い顔をして横たわっていた。

「サク!」

 珍しく動揺した口調でシリウが駆け寄った。 カイルは耳を傾けながら周りを警戒している。 シリウとヤツハの傍らで、サクは腕を押さえて動けないでいる。

「矢に何かが塗ってあったんでしょうか?」

 シリウが焦った口調でヤツハに聞くと、彼女は言いにくそうに口を開いた。

「多分、フルンザが……こんな珍しい毒の解毒剤は持ち合わせてないわ……」

 悔しそうに唇を噛むヤツハ。

「放っておくと、どうなるんだ?」

 カイルが視線を周りに配りながら、冷たい口調で尋ねた。

「サクを放っておくっていうの?」

 驚き睨むヤツハ。

「どうなるんだ?」

 カイルは少し強い口調で同じ事を聞いた。

「毒の量にも寄るけど、もって一日……」

 ヤツハの気弱な口調に、カイルは抑揚の無い口調で言った。

「材料を持ってきたら、解毒剤を作れるか?」

「カイル?」

 シリウも怪訝な顔をしてカイルを見た。

「確かフルンザには、ザネルの葉を煎じてなんとかなると思ったが……」

 視線は周りを警戒しながらのカイルの言葉に、ヤツハは驚いた。

「そう、その通りよ! でもその薬草は、この辺りではカタナ谷にしか生えていないの。 やっぱり学校に戻るしか……」

 ヤツハは悔しそうに言った。

「なんとか、なるだろ」

 カイルは周りを警戒しながら背中の荷物を下ろし、必要そうな道具だけをポケットに詰め込んだ。

「まさかカタナ谷に行くつもりなんですか?」

 驚いて見上げるシリウに、カイルは頷きもせずに答えた。

「戻って試験を落とすより、出来るだけやれることをやったほうが良いだろう。 きっと試験官たちもどこかから見ている。 この状況も計算されたものだとしたら、このまま戻るのは悔しいだろう?」

 カタナ谷は山の裏手にある。 断崖絶壁で、誰も寄せ付けようとしない雰囲気を漂わせた風貌から、カタナ谷と名付けられたらしい。 人や動物が寄り付かないため、珍しい草花が生えていることもある。 サクの状態を治すには、カタナ谷に生えるザネルがどうしても必要なのだ。

 一刻も早く採取しようと走りだしたカイルの後ろに、ぴったりとシリウがついてきた。 それを察知し

「サクが心配じゃないのか?」

 と、シリウを振り向かずに冷たく言うカイル。 ひょいひょいと枝を渡りながら、シリウは眼鏡を上げた。

「心配するだけでは何もならないですからね。 それに、サクにはヤツハがついていますから」

 

 サクは木の根に体を委ね、ヤツハに見守られながら安静にしている。 その体中を冷や汗が覆い、息も絶え絶えだ。 ヤツハはその汗を拭きながら、二人がザネルを採ってきてくれることを祈るしかなかった。

 

 カイルとシリウは、ほどなくしてカタナ谷についた。

「形は分かるんですか?」

 シリウの問いに、カイルは谷を覗きながら答えた。

「辞典で見た。 たぶん間違いない……アレだ」

 二人が断崖絶壁の端に寝そべり下を覗くと、目も眩むような谷底への途中に、岩に挟まれるように一輪の花が咲いている。 真っ赤な花びらと、大きな葉が特徴だ。 だが、周りの足場が心もとないのは、誰が見ても容易に判断できた。

「厳しいですね……」

 悔しそうに唇を噛むシリウの横で、カイルが静かに立ち上がった。

「俺が行く。 あんたは上から引っ張り上げてくれ」

 と言いながら、自身の体に持ってきたロープを巻き付けた。 シリウは素直に従い、近くの木にもう片方の端をしっかりと縛り付けた。 自分より小柄なカイルが行った方が、リスクが小さくなるのは分かっていた。

「無理だと思ったら、すぐに戻ってきてください!」

 と言うシリウに

「頼んだ」

 と一言だけ残して、カイルはするすると下りていった。 シリウが心配そうに見守るなか、カイルは器用に岩を伝い下り、見事ザネルを手にした。

「今から上がる!」

 カイルの声にシリウはロープを握り、引っ張った。 タイミングを合わせてカイルも岩を蹴り、その姿はすぐに断崖絶壁を登りきった。

「お見事です!」

 汗ばむ額を拭いながら微笑むシリウに、膝をつくカイルは照れるように少しだけ微笑み返した。

「行こう!」

 照れくささを振り切るように立ち上がりかけた時、突然カイルの足元が崩れた。

「!」

 後ろのめりに倒れていくカイル。

「カイル!」

 全てを吸い込むかのように深く刻まれたカタナ谷に、シリウの声がこだました。

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