蛇のような男、ガンク登場!
「ちょっと待てやぁっ!」
突然、人影が四人の前に立ちふさがった。
「!」
足止めを食らったサクは、そのままの勢いで拳を振りかぶった。
「どけえぇっ!」
だがその人影は軽がると避けると、木の枝に飛び乗った。
「ガラオル様は、今から崇高な食事をなさるんだ。 その邪魔をするのなら、ここで倒れてもらう!」
すっぽりとかぶったフードで顔は分からないが、その声は若い男のものだった。
「何を言ってんだ! お前なんかの相手をしている暇はねえんだ!」
サクは、木の枝に器用にしゃがんで見下ろす男に噛み付くように吠えた。 するとラディンがサクの肩に手を置いた。
「ここは俺に任せてくれ! あんたたちは先を急げ! ここを真っ直ぐ行けば、ガラオルのアジトがある!」
「お前……!」
驚くサクにラディンは頷き、シリウを見た。
「急げ! 時間がない!」
シリウは
「分かりました! ここはあなたに任せます! さぁ、サク、カイル、行きましょう!」
呼ばれた二人は、後ろ髪をひかれるようにラディンを見やりながら林の中を案内された方へ走りだした。
「おっ! 逃がさないよ!」
男が素早く動き、手のひらを広げた。
「紅糸千波!」
手のひらから無数の細糸の束が放たれ、三人の背中を襲った。
「そうはいくかよ!」
ラディンが助走をつけて三人に襲い掛かる細糸束に突っ込んで行った。
「ぐっ!」
体をねじって巻き取ると、勢いをなくした細糸は地面へと力なく落ちた。
「邪魔をするなよ、ラディンさんよぉ! 仲間じゃないか!」
苛立ちながら言う男に、ラディンは睨みをきかせた。
「あいつらには、借りがあるんだよ! それにもうお前らの仲間じゃねぇ! ガンク! お前の相手は俺だ!」
「うぜぇ……何があったか知らねえけど、いつの間にか裏切りやがって……」
ガンクは睨むように見下ろした。 そして音もなくラディンの前に降り立つと、その脇に蹴を入れた。
「ぐあっ!」
「その体じゃあ、動きたくても動けねえだろ? そのまま寝ながら息絶えろ!」
吹っ飛ばされて転がるラディンの体半分はさっきの細糸に巻かれ、右腕が体にピッタリと縛られた形になっていた。
「なりふり構わずに他人を助けようとするから、自滅するんだよ!」
と言いながら駆け寄り、再び蹴ろうとするガンクの足をナイフがかすった。
「!」
慌てて避けたガンクが振り向くと、カイルが立っていた。
「ちっ! お前はいつも俺の邪魔をする……」
ガンクは不機嫌な口調で言いながら、無造作にフードを取った。 ガンクの顔が、あらわになった。
カッと見開かれた瞳は薄い灰色で、まるでとかげのように長い舌を出していた。 それを見た途端、カイルは驚きの声を上げた。
「あっ! お前!」
「知ってるのか? カイル?」
木の根元に転がって呻きながら言うラディンに、カイルが頷いた。
「同じ養成学校にいた奴だ。 試験に落ちて退学したって聞いたが……」
「あんなとこに居なくても、俺の実力はこうして認められるんだ! 丁度よかった! 悠々とトップを走っていた優等生さんを、ここで倒せるなんてな!」
楽しげに口元を歪ませ、長い舌を漂わせた。 カイルは嫌悪感丸出しで顔をしかめたが、すぐに手にしていた剣を構えた。
「力を試したいなら、もっと違う方法があっただろう? ガラオルなんかに手を貸して、良いことなんて何もないぞ!」
「お前には分かんねえよ! 学校を追い出されて、国にも帰れず、行くところもないまま、さ迷ってた俺の気持ちなんてな!」
苛立ちを憎しみに代えるように、ガンクはカイルに襲い掛かった。
『速い!』
カイルはガンクの素早さに驚きながらも、襲ってくる両手のナイフを避けながら彼の様子を見た。 カイルはいつも、初めて戦う相手を分析する。 しばらく様子を見て、弱点を見つけてから攻撃に反映させる。 【静武道】の基本的な戦い方だ。
『速いだけか……』
すぐに分析したカイルはふわっと舞い上がり、木の枝に飛び乗ろうとした。
「ばぁか! 飛んでる間は無防備なんだよ!」
ガンクはそう言うと、手のひらを広げた。 そこから再び細糸の束が吹き出し、宙を舞うカイルの体を襲う。
「カイル、あぶねぇっ!」
ラディンは転がって身動きできないまま、悔しげに叫んだ。 細糸の束は剣を持つカイルの腕に絡み付き、その体は木の枝を通り越して向こう側に着地した。 カイルの右腕は吊られた格好になり、ガンクは笑いながら長い舌を出した。
「そらみろ! もうお前はなぶり殺し決定だな!」
そう言って笑うガンク。 カイルは右腕と共に固定されてしまった剣を振って切り離そうとしたが、何故か切っ先は糸の束を滑るばかり。
『切れないのか?』
カイルの気持ちを読んだように、ガンクはにやりと笑った。
「そんなに簡単に切れるわけないだろ? コレは俺の手製の糸だからな。 あきらめな! お前はもう逃げられない!」
勝ち誇った顔でいるガンクに、カイルはにやりと笑った。
「それは、どうかな?」
「ほざけ!」
ガンクは細糸を握ったままナイフをかざしてカイルへと突進した。
カイルは少し右腕に力を入れて強度を確認すると、再び近くの枝に飛び、また違う枝にと飛び回った。 糸はまるでゴムのように、強い強度のまま伸びる。
「逃げても無駄だぞ! お前はすでに、俺の手の中にある!」
ガンクは長い舌を揺らしながらカイルを追った。 だが、カイルの動きに翻弄され、苛立ったガンクは自分の細糸の束を握った。
「もう鬼ごっこは終わりだ!」
そう言い、勢い良く引っ張った――はずだった。
「っ! んっ?」
びくともしない細糸を辿るガンクの目が見開かれた。