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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
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サクの父誘拐さる! そりゃ助けに行くでしょ!!

 やっと追い付いたパンナが膝に手を付けて息を整えていると、その視界に細い足首が映った。 小さい体に曲がった腰、杖を付いたその老人は、村長の印である羊の足のペンダントをぶら下げていた。

「ワンダさん?」

 気付いたパンナが汗だくの顔を上げると、村長ワンダは固い表情で言った。

「パンナさん、気をしっかり持って聞きなさい」

 ワンダは息を洩らしながらゆっくりと話した。

「ザクラスさんが、行方不明になった……」

「なんだって?」

 パンナは驚いて大きな目をさらに丸くした。

「あの人の身に、何かあったのかい?」

 すると村長の後ろから、村人に肩を借りながら怪我だらけの一人の男がヨタヨタと現れた。

「パンナさん、すまねえ……ザクラスさんが、ガラオルの手下野郎にさらわれちまった!」

「!」

 カイルとヤツハに、衝撃が走った。パンナはショックで何も言えずに立ち尽くしていた。

 

 

「行くぞ!」

 

 

 皆がその声がした方を向くと、いつの間にかサクが立っていた。

 全身から燃えるようなオーラを放っている。 その瞳は輝き、怒りが溢れだしていた。

「ヤツハだけじゃ飽き足らず、オレの父ちゃんにまで手を出すとは! 絶対許さねえ!」

 勢いよく両拳を打ち合せると、気が辺りに放たれた。 シリウも黙って頷いた。

「本当に、許すまじ行為です!」

「俺も行く!」

 カイルがサクとシリウのもとに歩み寄った。 身体中から気合いが溢れている。

「あたしも!」

 ヤツハが言うと、カイルは手を挙げて彼女を制した。

「ヤツハは、パンナさんの傍に居てあげるんだ! ヤツハにしか出来ないことだから!」

 ヤツハはゆっくりとパンナを振り向いた。 焦点が定まらない目で、小刻みに震えながら立ち尽くすパンナ。 ヤツハはどちらも選べない自分に切なくなり、悲痛な表情でカイルを見た。

「でも……!」

「ヤツハ、頼む!」

 カイルは、黒い瞳でじっとヤツハを見つめた。 カイルの瞳から思いを受け取ったヤツハは、唇を噛み締めて頷いた。 安心したように微笑むカイルに、ヤツハは駆け寄った。

「必ず、無事で帰ってきて!」

 カイルは安心させるように、ヤツハの肩を抱いて頷いた。

「分かってる。 もう、パンナさんを心配させたりしないから!」

 サクもヤツハに強い言葉を掛けた。

「必ず父ちゃんを助けて帰ってくるから! 信じて待ってろよ! ディックも留守番頼んだぞ!」

 ヤツハに寄り添いひと吠えしたディックを見てにっと笑い、サクは踵を返した。 手には、それぞれの武器を持っている。 心には、ガラオルへの熱い闘志をみなぎらせながら、村人たちに見守られながら出かけていった。

 

 

「シリウ、案内頼む!」

 暗やみの林の中を風のように走るサクが言うと、シリウが頷いて一歩前を走った。 カイルもその後に続いた。

「命からがら帰って来たトモトさんの話によれば、裏山の中腹辺りでガラオルたちと遭遇したようです。 昼間の、僕たちが起こした落盤を見に行っていたようです」

「オレたちの性じゃないだろ? 勝手に崩れたんだ!」

「どちらにしろ、聞いた場所に行ってみるんだ! 何か手がかりがあるかもしれない!」

 カイルが言うと、サクとシリウは頷いて走るスピードを増した。

 

「ひどいな……」

 程なく付いた場所には、傷だらけの木々と血痕が残っていた。

「かなり、やりあったみたいですね」

「そうまでして、ザクラスさんをさらいたかった理由って、なんなんだ?」

 顔をしかめて周りを見るカイルに、シリウは呟くように言った。

「喰うため……じゃないでしょうか?」

「!」

 サクが睨むようにシリウを見た。 それを受け止めながら、シリウは自分の見解を静かに話しはじめた。

「今、ガラオルの中には、ヤツハの父親の精神が残っている。 ラディンの話に

 よれば、ガラオルにとって、それがストレスになっていたようです。 だとすれば、違う誰かを喰らえば、上書きされるようにヤツハの父親が消えるかもしれないと考えてもおかしくはない」

「そんな単純なものかな?」

 カイルが言った。 だが、今まで人を喰ってきたキャリアから得たものもあるのかもしれない。 世の中には、常識では計り知れない、分からないことがたくさんあるのだ。 その時、ずっとシリウを睨むように見つめていたサクが呟くように言った。

「オレの父ちゃんが喰われれば、ヤツハの父ちゃんは助かるのか?」

「サク! 何言ってんだ!」

 カイルが驚いてサクを見た。 サクは複雑な顔で視線を背けた。

「サクの父親も、ヤツハの父親も、助けます!」

 シリウが叫んだ。

「何人たりとも、犠牲者を出してはいけません!」

 サクはシリウを見つめ、苦笑した。

「そうだな!」

「何をモタモタしてんだよ?」

「!」

 三人の前に、ラディンがどこからか現れた。

「ラディン! てめぇ、何しに来た?」

 サクが臨戦態勢を取ると、ラディンは

「んな場合じゃねぇだろ! お前の相手は俺じゃねえはずだ!」

 と一喝した。

「そうですよ、ラディンは昨日も僕たちに助言をしてくれました。 もう、敵対する理由はないと思います」

 と、シリウもサクの肩を押さえた。 ラディンはやっと分かったか、という風に肩をすくめた。

「ガラオルの居場所を知ってるのか?」

 カイルが聞くと、ラディンは頷いて林の方を指差した。

「案内する! 急げ、時間がない!」

 言うが早いか、ラディンは風のように走りだし、三人も後を追った。

 どこかで訓練を受けていたのか、ラディンの身体能力は高い。 シリウは自分で戦って知っているし、カイルはその一部始終を見ている。 サクもまた、ラディンに助けられた。 特殊な技も持っているようだ。 まだ謎だらけの人物だが、瞳には嘘をつかないまっすぐな輝きがあった。 今の三人には、彼を信じるしか道はなかった。

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