ラディンの助言
「お前! 何しに来たっ!」
カイルが叫び剣を構えると、シリウも同じように身構えた。
「ちょ、ちょっと待てって! 俺は戦う気はねえよ!」
困惑した表情で両手を上げて、待てよと仕草をするラディン。
「では、何か用事でも?」
シリウが構えを解かずに尋ねた。 その目は冷静さながらである。
「ガラオルの秘密を教えようと思ってさ!」
飄々と言うラディンに、三人は戸惑いを隠せなかった。
「どういうことだよ?」
サクが疑いの目で見つめながら尋ねた。 ラディンは腰に手をあてて言った。
「ガラオルは女好きで有名だ。 ちょっと気に入った女なら誰でもいい。 貪るようにその体を楽しむ。 だが、それだけじゃない。 アイツは、何十年かに一度、男を喰らうんだ」
「男を喰うだって?」
サクが怪訝な顔をした。 ラディンは頷いた。
「俺は実際に見たことはないけどよ、仲間がそう言ってたのを聞いたことがある。 長くガラオルに付いてた奴らにとっては、有名な話だ。 ガラオルは定期的に健康で頭の良さそうな男をさらい、喰うんだと」
「なんだよそれ……?」
サクたちは動揺していた。 人が人を食べるなんて考えられない。 言葉が出ないままでいるサクたちに、ラディンはこれ見よがしにヤツハを見ながら、思い出したように言った。
「そう言えば、たまに頭を抱えてた時があったなあ。 『うぜぇ。頭の中にあいつの精神がまだ生きてる』って。 でもすぐに治るみたいだったけどな」
シリウは眼鏡を上げてラディンを見つめた。 構えも解いたが、まだその目は警戒していた。
「その話は、信じても良いのですね?」
ラディンは肩をすくめて笑った。
「俺はもうガラオルの所には戻れねえ。 だから今の俺は自由なのよ。 何言ったところで、誰に咎められることもねえ。 ま、信じてもらおうとも思っちゃいねえけどな!」
「信じてもいいのね?」
全員がヤツハを見た。 ヤツハはじっとラディンを見つめていた。
「あたしのお父さんは、あいつに喰われたのだと?」
「ヤツハ!」
シリウは驚いて駆け寄った。
「そんなこと……」
「いいえ。 あいつそのものが父親だなんて、信じられないもの……もしそうなら、あたしは舌を噛み切って死ぬ! でも、もしラディンの言う通り、あいつの中にお父さんが生きているとしたら、あたしがしなくちゃならないことは一つよ!」
ヤツハの瞳に光が宿った。 それを見て、サクがラディンを見た。
「お前の言ったこと、本当に信じるぞ!」
ラディンはにっと笑った。
「ご自由に」
まるで他人事のような口振りのラディンに少し苛立ちながら、カイルが口を開いた。
「ヤツハの父親の精神が身体の中に残っているというのなら、その精神をガラオルから離すことは出来るのか?」
「僕も同じ事を考えていました。 ヤツハもでしょう?」
シリウが言うと、ヤツハは頷いた。
「あたし、お父さんを助けなきゃ!」
答えを仰ぐシリウたちに、ラディンは眉をしかめて首を傾げた。
「生憎だけど、その方法は知らねえ」
「そうか……」
カイルは悔しそうな表情で俯いた。
「だけど、必ず方法はあるはずだ。 ガラオルからヤツハの父親を離して、俺はあいつを必ず倒す!」
強い口調で言いながら、カイルの両拳がぐっと握られた。
「?」
まだ事情の分からないサクとヤツハは、ガラオルにやっきになっているカイルを不思議に思いながら、二人で顔を見合わせた。 それに気付いたシリウが、重い口を開いた。
「ガラオルは、カイルの仇なんです。 カイルは、育ての親を殺されたんです」
「! カイル……」
複雑な感情に襲われて、潤んだ目で見るヤツハに、カイルは少しの微笑みを返し、静かに言った。
「大丈夫。 まずヤツハの父親を助けてから。 それが先決だ」
シリウはそんなカイルを見て、安心したように顔をゆるませた。
「では、朝までは体を休めて、明日、作戦会議をしましょう!」
するとヤツハが座り直して言った。
「そんな余裕はないわ! あたしは大丈夫!」
「オレもだ!」
「俺も同じだ!」
サクとカイルも円陣のように座り直した。 それを見たシリウは微笑み、実は自分も、と皆と同じように座り直した。 ヤツハの隣には、ちゃっかりとディックも座っている。 もうすっかり仲間の一員だ。
「では、とりあえずやらなくてはならないことを挙げましょう」
シリウが言い、皆が耳を傾け始めると、ラディンはいつの間にか居なくなっていた。
やがて眠らずに夜が明けた。 崖の上から周りを見ていたシリウが器用に岩場を伝い飛びながら戻ってきた。
「どうやらここは、サツフゥル村の近くのようです」
地図を片手に、外していた眼鏡を掛け直しながらシリウが言った。 するとその途端、サクとヤツハが顔を見合わせた。
「オレたちの故郷だ!」
意外に知っている場所だったので、二人は半ば拍子抜けしていた。 まさか自分の故郷の近くで事件が起こっていたとは思ってもいなかったのだ。
「じゃあ、サツフゥル村に行ってみましょうか? 何か情報も手に入るかもしれませんし」
四人は同意し、早速サツフゥル村へと足を運んだ。