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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
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ラディン、本当は良い人? サクはやっぱり天然!

 数分前――

 

 やっと気が付いたサクの目の前には、静かな森が広がっていた。 鳥たちのさえずりが辺りに響き渡り、穏やかな雰囲気にしばらくぼうっとしていたが、すぐに我に返って頭を振った。 そして立ち上がろうとしたが、起き上がれない。

「! っ? なんだ? なんだよっ?」

 見ると、サクの体は木の幹に縛り付けられていた。

「なんでオレ、縛られてんだよ!」

 半ばキレ気味にもがいたが、ロープはびくともしない。 周りを見ると、足元に一本のロープが落ちていた。

「おい! あんまり動くなよ! 痛ぇだろうが!」

 不意に後ろから声がした。 サクは振り向こうとしたが、木の幹にピッタリと背中が付いているので後ろに誰がいるのか分からない。

「誰か居るのか? なあ、これ、外してくれよ!」

「俺もそうしてえんだけどな!」

 それはラディンだった。 二人は同じ木の幹に縛られていたのだ。 サクはすぐにその声の主がヤツハをさらった男だと気付き、声を荒げた。

「ああっ! お前、ヤツハをさらった奴だろ! てめえ! 絶対許さねえからな! ヤツハをどこへやった! ロープ外せ~~!」

「なんか、こいつを縛って行ったあいつらの気持ちが分かる気がする……」

 ラディンはあきれながら呟き、後頭部を軽く木に当てた。

「もう負けを認めたから、戦う気はねえよ。 ヤツハとかいう女の居所は、あんたの仲間に言った。 今頃着いてんじゃねえの? うまく助けだせるかどうかは分かんねえけどな!」

 捨て台詞の様に言うラディンを、サクは睨むように振り返った。

「オレも行かなきゃならないんだ! ヤツハを助けなきゃ!」

 ラディンは少し考える仕草をしたあと、サクに尋ねた。

「なあ、なんでそのヤツハって奴を助けたいんだよ? お前の彼女か?」

 サクはじっと前を向いて、ぽつんと落ちているロープを見つめた。

「あいつは、小さい頃から病弱の母ちゃんを世話してて、いつも大変だったはずなのに、今まで一度だって泣いた所を見たことがないんだ。 いつも自分で解決しようとして、無理して……だからあいつが兵士養成学校に入るって聞いたとき、オレも強くなって、オレがヤツハを守ってやるって決めたんだ!」

 ラディンは黙って聞いた後、ため息にも似た細く長い息を吐いた。

「仕方ねえなあ……これだけは使いたくなかったんだが……」

 呟くように言うと、肩をすくめた。 同時に乾いた音が何度かすると、サクの体が軽くなった。 張りの無くなったロープがサクの足元に落ちた。

「? なんだ?」

 訳が分からず動揺するサクの後ろから、ラディンの声がした。

「早く行けよ! まだ間に合うかも知れねえ!」

 サクが立ち上がって木の裏側を見ると、力なくうなだれるラディンの姿があった。

「お前、どうしたんだよ?」

 ラディンは弱々しく頭を上げると、サクを睨むように見た。

「俺のことはいいんだよ! 急いでんだろ? 早く行けって!」

「でもお前、体が……」

「関節外しただけだ。 すぐ治せる。 ほら早く!」

 顎をしゃくって促すラディンに、サクは後ろ髪引かれる思いで後退りを始めた。 すると森の中から鳴き声が聞こえ、それは次第に近づいて来た。

 

 ザンッ!

 

 と勢いよく草むらから飛び出したソレはディックだった。

「ディック!」

 言うが早いか、ゴンッッ!!とサクのげんこつがディックの頭をはたいた。 悲鳴を上げるディックに

「あの落ちてたロープはお前のだったのか? オレを置いていくとは、覚悟してたんだろうな!」

 指を鳴らし見下ろすサクに、イラついたラディンの声が飛んだ。

「早く行けって!」

 我に返ったサクはラディンに振り返り、微笑んだ。

「おう! ありがとうな!」

 と言葉を残して走り去ろうとするサクを、再びラディンが呼び止めた。 立ち止まり振り向くサクに

「俺を縛りつけていかなくていいのかよ!」

 と言うと

「いや、やめとく。 お前、オレを助けてくれたからな、借りは返す! じゃな!」

「なあ!」

 ラディンは顔を覆う髪の毛の間からサクを見つめた。

「お前の仲間、強いな」

 サクは笑った。

「当たり前だろ! 自慢の仲間たちだぜ!」

 そう言うサクは、誇りのある瞳をしていた。 走り去る背中を見送りながら、ラディンは

「仲間か……」

 と呟きながらふっと微笑み、外れたままだった肩の関節をガコン、と戻した。

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