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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
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ヴァンドル・バードの絵

 ヤツハが宿舎の外に出ると、サク、シリウとカイルがすでに待っていた。

「さ、行こう!」

 サクを先頭に、四人は畑仕事に精を出すシカワに一言挨拶をすると、畑の間の道を歩き、村出口の門辺りまで近づいた。 すると、後ろから走って追い掛けてくる人影があった。

 ラーニャだった。

 すでに頬を乾いた土だらけにして、細い足で駈けてくる。 勢い余ってつんのめったラーニャを、サクが受けとめた。

「うわっ! ごめんっ!」

「どうしたんだ、ラーニャ?」

 ラーニャは明るく顔を上げると、荒い息のまま、手に持っていた紙をサクに渡した。

「えっ、これ……?」

 それは、昨夜見せていた、ラーニャが描いたヴァンドル・バードの絵だった。

「これ、持っていって欲しいの。 いつかヴァンドル・バードに会ったとき、間違えないように!」

 目を丸くしながら聞いていたサクは、その場にしゃがんで目線をラーニャに合わせると、笑顔で言った。

「ありがとう。 お守りにするよ。 そしてまた、ラーニャに会いにくるからな!」

 そして、ラーニャの頭をグリグリッと撫でると立ち上がった。

「お兄ちゃんたち、頑張ってね!」

 ラーニャは門の向こう側で大きく手を振って見送っていた。 それは、門が固く閉じられるまで続いていた。

 

 

「元気な女の子だったわね」

 ヤツハが閉じた門を振り返り、いとおしそうに微笑んだ。

「ラクラさんの赤ちゃんも、あんな風に元気に健康に、育ってくれたらいいな」

 壁に囲まれてもう見えないモノリス村を思いながら見つめるヤツハ。 茶色の肩までの髪が風を受けている。 サクはラーニャにもらったヴァンドル・バードの絵を丁寧にたたみ、懐にしまった。

「大丈夫さ。そのためにオレたちがアルコドに遣わされたんだ。 必ず元に戻してやる!」

 拳を握って前を見据えるサクは、振り向いて言った。

「シリウ! ハミウカはちゃんと持ってるだろうな?」

 すると、シリウは三人から意外なほど遠く離れていた。 立ち止まったまま、少し俯いている。

「シリウ? どうしたんだよ?」

 サクの言葉に、ヤツハとカイルも立ち止まってシリウを見た。 道の途中で佇んでいるシリウ。

「一体どうしたのよ?」

 ヤツハが尋ねると、シリウが小さな声で呟いた。

「――出来ません」

「? 何って? 聞こえねえよ!」

 サクが問い掛けると、今度は叫ぶように言った。

「理由を教えてもらわなければ、旅を続ける事は出来ません!」

「?」

 一同、意味がわからずに言葉を失った。 シリウは怒っているようだった。 クールな表情はそれほど変わっていないが、叫ぶほど口調が強くなるのは珍しい。

「何言ってんだよ?」

 サクが少し動揺しながら聞いた。 すると、シリウはまた叫ぶように言った。

 

「何故僕に対して急によそよそしい態度になったのか、理由を教えてください、カイル!」

 

 急に名前を呼ばれて驚くカイル。 だがすぐにその意味に気付いたように視線を逸らした。

「気のせいだよ! 早く行くぞ!」

 そして踵を返すと、先に進もうとした。

「イヤです! わけもわからずに素っ気ない態度をされて、普通に居られるわけがないじゃないですか!」

 カイルは背中を向けたままため息をついた。 その二人を見比べるサクとヤツハ。

「一体、どうしたの? 昨夜何かあったの? 喧嘩でも、した?」

 ヤツハはずっとラクラに付いていたので、三人に何が起こったのか分からない。 すると、サクが軽い口調で言った。

「お前がシリウに抱きついたりなんかするからだろ?」

「?」

「!」

 きょとんとするヤツハの向こうで、カイルの肩が動いた。

「好きな奴が目の前で誰かに抱きつかれたら、気にならないわけないよな、カイルー?」

 頭の後ろで手を組んで、からかうように言うサク。

「ちっ、ちがっ……」

 カイルは慌てて振り向いた。 その頬は真っ赤だ。

「あれ、当たり?」

 サクが笑う。 ヤツハは口を手で押さえて目を丸くした。

「やだ! あたし、そんなつもりじゃなかったのよ?」

 ヤツハは焦りながらカイルの手を引いた。

「ラクラさんの事で興奮して、つい抱きついちゃっただけ! 何もやましい気持ちなんてないんだから!」

「やま……! だからヤツハっ! ちがっ!」

 カイルは弁明しながらも、ヤツハに引きずられるようにシリウの所まで連れてこられると、その背中をドンと押された。 つんのめるカイルの両肩を、シリウが受けとめた。

「だから、へんに勘違いしなくていいの! 分かったっ?」

 ヤツハは半ば苛立ったように言うと、サクのもとへと駆けていった。

 

「ね、さっきのラーニャの絵を見せてよ!」

「ん? ああ」

 サクが懐から出した絵を見ながら、ヤツハは微笑んだ。

「素敵な絵ね。 きっと、野草や花をすり潰したりして色を作ったんだわ」

 所々茶色く変色している所も味があり、懸命に塗りたくった跡が、躍動感に満ちている。 きっと、頭の中にあるうちに描いてしまいたかったのだろう。

「大切にしてあげるのよ?」

 優しい瞳で絵を見ながらヤツハが言うと、サクは笑顔で言った。

「当たり前だ。 これはオレの宝物だからな!」

 ヤツハはニッコリと頷いた。

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